「急に具合が悪くなる」を読んで(2024.01.20)
図書館で借りて、だいぶ長いことかかってようやく読み終えた本。貸出期間を延長までした。
かと言って本が面白くないというわけではけっしてなく、ただ単に私が最近本を読んでいるとすぐに眠くなってしまうというだけだ。逆にすぐに眠りたい時の睡眠導入剤として素晴らしい効果を発揮していたように思う。
哲学者の宮野真生子氏と、人類学者の磯野真穂氏で交わされた往復書簡をまとめたこの本。しかしこのタイトルのとおり著者の一人である宮野氏は「急に具合が悪くなる」可能性を孕んでいて、その時限爆弾が、書簡が2便3便と重ねられる中で、少しずつ存在感を増していく。
最初は「哲学者」と「人類学者」というそれぞれの立場で、宮野氏を蝕んでいるガンと、それに向き合う一人の人間としての在り方、考え方、生き方について意見を交わす往復書簡であったのだが、宮野氏がいよいよ「急に具合が悪く」なり、「死」がすぐそこにある間近なものとなった時、二人の間で交わされる言葉は「生」についての真に迫った議論になっていく。
その言葉の一つ一つには二人の学者の生き様が刻まれている。「死」の闇に引きずり込まれそうになりながら、そのとても危うい地点から必死に言葉を投げかける宮野氏と、それを全身全霊で受け止める磯野氏の、全存在をかけた言葉の応酬。
宮野氏は最後、哲学者としての大命題にケリをつける。まさしく死の淵で。それは磯野氏という魂を分け合ったパートナーがいたからこそたどり着けた地点で、その二人で描いた言葉の軌跡、命の躍動がここに描かれている。
「死」に足を絡み取られながら、そこにしっかりと立ち、哲学者として言葉を投げかけ続けた宮野氏と、そのどえらい球を逃げ出すことなく受け止め続けた磯野氏の、これは魂の記録であると思う。
ようやく来週図書館に返すけど、手元に置いておきたい本になりました。
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