【実話】タイ射撃会社ものがたり#4
社長がこのショッピングモールに事務所をかまえたのは当然、買い物客目当て。
でもこれは誤算だったの。
射撃に興味のある若者はモールにこない。
来るのは夫婦連れ、主導権は奥さま。
往復で1時間以上かかる射撃場まで行ってくださらない。
また、もうひとつツアー客の周遊コースに組みこまれているっていうのも目的だったんだけれど、これも時間の制限でダメ。
奥さまが買い物中にご主人を連れていこうってアイデアだったのね。
ワタシに言わせると「事前マーケティングがあまい」
もちろんそんなことはおくびにも出さないけど。
そこでホテルに営業をかけたいからワタシを雇ったってワケ。
「おぬし、ホテルに観光案内所があるじゃろ、あそこにキックバックを約束して営業にまわれ」
「おぬしが取ってきたホテルの客は25%、おぬしがさらに取っていい」
「ホテルへのキックバックはおぬしにまかせる」
やっぱりこの会社で正解。全権委任。やりたい放題だわ。
しかも遊びまわっていたころのおかげでバンコクのホテルは中級から高級、超高級まで知りつくしているし。
朝チラシをくばって一服したら、
「じゃあ、行ってきます」
バスや電車はつかわない、タクシー。自腹だけどいいの。
ホテルは格式。
汗だくじゃダメ、スマートに涼しげに入っていかないと。
営業用のワイシャツとズボン、ネクタイは一流品にしたわ。
先行投資。
観光案内所でやる気のある、理解力のある、アタマの出来がよいスタッフがいればそこですむ場合もあるけれど、基本的に上級社員を呼んでもらうにはこっちもそういう格好じゃなきゃ。
観光案内所に10%キックバックするから、なんてやると、その支払いやなんかでワタシのシゴトが増えるでしょう?
だいたいマジメな観光案内所スタッフなんて探すのがタイヘンなくらい。
だから初めから上級スタッフと「商談」にしちゃうの。
ちゃんと契約書をむすんで、月末払いにしてもらう。
これだけでシゴト量が圧倒的にラクになるじゃない。
それに上級スタッフはちゃんと大学を出ているアタマの切れる社員だから、ワタシたちの「射撃体験」の良い点や、送迎サービスをつける場合の割増率なんておハナシもスッと理解してくれる。
プラス、タイは女の人が優秀だからけっこうな美人さんが担当さんで出てくることも。
そういうときは役得で色じかけもしたなぁ、
「日本料理はスキですか」
なんて。
そういうときはキックバックなし。
その代わり、折りをみて美人さんをごちそうになりにいく。
職場がホテルだからね。
ひどいオトコだったなぁ、ワレながら。