思い出の店が閉店する
私は東京に住む甥っ子がかわいくって仕方ありません。思春期なので電話に出てもあまり多くは会話しませんが、見た目にも似ている甥っ子が大好きなのです。
彼と会えるのは妹夫婦が里帰りをした時です。
小学生だった甥っ子と出掛けたうどん店がありました。彼はうどんが好物なのです。
「面白いうどん屋さんがあるんよ、4玉食べても10玉食べても金額は変わらんのよ、自分で作るんよ、面白いけん行ってみよや」
「自分で作るの面白そうだね、行こう行こう」
そう言って二人で出かけました。
店にはうどんの単品メニューもありますが、セルフうどんが人気です。
「小さなざるに入っとるうどんを食べれる分だけ入れるんよ、何玉にする」
「僕は、10玉食べる」
「そんなに食べれんわい・・」
「食べるよ」
甥っ子は自分で作るうどんが気に入ったらしく、
湯切りに一玉ずつ入れて、合計10玉です。
重くなった湯切りを湯の中に入れて力いっぱい揺らします。
お湯を切るのも一苦労です。
それを大きなどんぶりに。
うどんを作る工程が甥っ子には楽しかったようです。
私は半分の5玉にしました。
次はトッピングコーナーです。
小さなお皿に入っているかまぼこや昆布、削り節、揚げちくわ、梅干しなど好みのものを取った後、ネギや天かすを入れます。
うどん作りの最後に、お店の人にたっぷり出汁を入れてもらってマイうどんの完成です。
このシステムで自分好みのうどんを作るのは大人だって楽しいのです。
うどん店の人気はそこにありました。
甥っ子はうどん10玉に出汁をたっぷり入れただけのシンプルなマイうどんです。
「こんなに食べられるんかね」
「大丈夫、僕は絶対完食する」
「まー頑張って、ゆっくりお食べや」
甥っ子は、夢中で食べ始めました。初めは勢いがありましたがだんだんスローペースになります。箸が止まると休憩し、ちょこっと運動をして、再び食べて、また一休みしていました。
「そんなに無理せんでええけん、食べれんかったらねえねが食べてあげる」
「僕は大丈夫、食べるよ、絶対に食べる」
普段は食が細い甥っ子が、凄い形相で食べています。
時折小休止をして、水を飲んで天を仰ぎ、再び箸を持つ。
まるでうどんと戦っているようでした。
10玉は大変な量です。
「もうええよ、残りはねえねが食べるけん」
「・・・・・」
最後は私の力も貸して、甥っ子は10玉のうどんを制覇しました。
これが彼のセルフうどんのスタートでした。
その後も甥っ子が松山にやってくると
「うどん食べに行こう、今度は何玉いけるかな」と言いつつ
二人で食べに行ったものです。
甥っ子と私の松山での楽しいイベントでした。
しかしコロナ禍で甥っ子は最近帰郷できていません。
直近の記録は8玉でした。
私は12月のある日、その店の近くを通りがかりました。懐かしくなって久しぶりに店に入ってみることにしたのです。
すると入り口に残念な張り紙がしてありました。
「長年ご愛顧いただきましたが、12月31日をもって閉店いたします」
私はショックでした。
閉店の理由は、この地域の再開発工事で、店の駐車場の一部が引っかかるからだそうです。
甥っ子の落胆した顔が浮かびました。
幼い頃からの愛媛の思い出の場所が無くなるのです。
早速、妹に電話を入れると、彼が出てきました。
「あのうどん屋さん、今年いっぱいで閉店するんだって、残念だね」
「うん、それは残念・・・・」
いつもはそっけない甥っ子の残念そうな声が返ってきました。
【大介うどんフライブルク店】
私は、甥っ子との思い出を残しておきたいと撮影に行ってきました。
甥っ子が大好きだった大介うどん松山フライブルク店です。
懐かしい店が無くなるのは本当に寂しいものです。味はもちろん思い出も消されてしまいそうな寂しさがあります。だからこそ今日はこの記事で記憶に留めておくことにします。
「大介うどんありがとう」
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《私もあのうどん屋さんが無くなるんは寂しいな》
「あのうどん屋さん、他の場所に移転せんのかね」
「今のところは予定が無いんじゃと、伊予市の八倉にもお店があるんじゃけど遠いけんね、交通網整備のための立ち退きじゃけんね」
「私もあのうどん屋さんが無いなるんは残念じゃわい、あの子のうどん食べよる写真見ながらイラスト描いたんじゃけど、面白いねー、あの子も無くなるんは残念がらい」
「小学生で10玉、頑張ったろう」
「私もうどん好きじゃけどそんなには食べれんわい」
無くなる事で思い出が一層深くなりました。きっと甥っ子を思い出すたびに10玉のうどんの事が蘇ると思います。
路地裏の鍋焼うどん伊予の味
ばあばは松山でいつまでも続けて欲しいうどん店を句に詠みました。
昭和24年創業の老舗「ことり」です。商店街の路地裏にひっそりとたたずむお店です。メニューは鍋焼うどんとイナリのみ。座って注文したら見事なくらいのスピードで出てきます。
さっぱりとしたイリコと昆布の美味しい出汁で頂く熱々の鍋焼きの味は最高です。
私にとっても故郷の自慢の味です。
最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。
また明日お会いしましょう。💗