木の精のことばが聞こえた
◇◇ショートショートストーリー
木の一本一本がやさしく語りかけてくるのです、森にいると不思議です。吹き抜ける風が運ぶその声が、智にははっきりと聞こえます。彼は幼い頃から父の仕事を見てきました。
父は、仏像を制作する仏師でした。
伝統的な技法を学び、高い志で忍耐強く彫った父の仏像には魂が宿っているように思えました。常に心を清らかにして、まるで仏門に入る僧侶のようにノミを入れていました。
物心ついた頃から父の仕事ぶりを間近で見ていた智は、自分は父のようにはなれないと思い、仏師を目指すことはありませんでした。
父が亡くなって半年、久しぶりに工房に入った智は不思議な気持ちに襲われます。
父がこれから彫るために寝かせていた木を見つめて、父との思い出に浸っていると、智に語り掛ける声があります。ゆっくりとやさしく、温かく、智に話しかけてくるのです。
「智さん、大きくなりましたね、お父さんには本当にお世話になりました、私たちはお父さんが彫ろうと準備をしてくれていた木の精です、私たちをこのままにしないで欲しい、私たちは新しく生まれ変わりたいんです・・・」
こんな言葉が聞こえました。
智は木の香りに包まれて懐かしい父と一緒にいるような不思議な気分でした。
「智さん、何を悩んでいるんですか、あなたは、お父さんの息子でしょう、長年お父さんの仕事を見てきたでしょう・・・」
「僕は、父のような技術は持っていないから、それに、僕には仏師として生きていく心づもりができていないんです・・・」
智がそう言うと、木の精はこう言いました。
「是非あなたに作って欲しいものがあるんです、大木の年輪のように、静かに時を刻む時計を作ってください、あなたは仏師でなくてもいいんです、私たちと会話をしてくれれば・・・」
まどろみの中、智が目にしたのはシンプルな時計でした。木の年輪を生かした木目の優しい、温もりを感じる時計です。
智は、その時計を手に取って「やさしいデザインだなー、これなら僕にも作れるかも知れない」そう思いました。
工房で智は時計を彫り始めます。木の精が導いてくれているかのように細部まで、無意識のうちに作業が進みます。出来上がった時計を見て智は思いました。
これは木の精の言葉を借りて、父さんが、僕に与えてくれた木と向き合うチャンスなのではないかと。
時計が静かに時を刻み始めました。智が木と共に生きる時間が始まったのです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《木の年輪見よったら木の生命力を感じるんよね》
食卓で大好きなフルーツを食べた後のばあばと。
「やっぱり大樹は落ち着くんよね、なんか引き込まれるもんがあるんよ、大樹の傍で休んだら落ち着くけんね」
「ショートショートストーリーの展開は・・・」
「お父さんの心を木の精が変わって言うてくれたんじゃねー、自分の気持ちが穏やかじゃったら、木の声も聞こえてくるんよ」
「お母さんは大樹が好きよねー」
「年輪を見よったら、そこにこれまで生きてきた力が宿っとるように思うんよ」
私は母の姿にも大樹の趣を感じることがあります。長く生きてきた人の心の声を聞くことは大切だと最近特に思うことが多いです。
【ばあばの俳句】
風涼し夢のおでかけいざゆかん
母の外出したいと言う願望がイラストと句のコラボ作品にしっかりと刻まれています。コロナにかからないようにと自己管理している母は、出かけたい気持ちを一生懸命に抑えています。そこでこの句が生まれました。
イラストからも自由に行動したいなーと言う母の気持ちが見てとれます。「いざゆかん」にその気持ちが凝縮されています。でもしばらくは自粛しないといけませんね。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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