3トンの太鼓台に乗った私
ここ最近、祭りの神輿を女性たちがいなせに担ぐ姿を目にすることが多くなりました。
私の記憶では、40年以上前の女性たちは祭りの主役になることはありませんでした。
ジェンダーレス時代の今からは想像しずらいと思いますけれど。
祭りの主役は男性で、女性は祭りのサポートをする人だったのです。祭りを見て楽しんだり、祭りで活躍する男性たちを料理などを作って盛り上げる立場でした。
女性だけが担ぐ御輿や、女性だけの太鼓台、だんじりが誕生していることは当時から考えると驚きなのです。
残念ながら女性はケガレがあると言われて、神社などからも遠ざけられていた時代がありました。
私が経験した祭りに関するレアな体験をお話します。
地方局のアナウンサーだった私は、ニュースの企画で毎週地元の様々な場所に行って、地域の今を取材していました。
ある時、愛媛県新居浜市の秋祭りの主役太鼓台を取材しました。新居浜市は祭り好きが多く、祭りを中心に一年間を楽しみに生活している人たちがたくさんいる地域です。
新居浜祭りの主役の太鼓台は高さが5.5m、長さ12m、幅3.4mで重さが3トンちかくある巨大な山車です。
その太鼓台を150人の男達が揃いの法被で担ぐ姿は豪快で、迫力があります。
その太鼓台には金糸銀糸で彩らせた飾り幕があって、四方についているふさが揺れる様が、優美でたまらないのです。
豪華な太鼓台は一台新調するのに4000万円から5000万円もかかるそうで、費用を抑えるために飾り幕を地域の人たちが毎夜集まって手作りしていました。
その飾り幕の制作風景を取材させて頂いたのがきっかけで、地元の方たちとの交流が生まれ、ある日、局に電話が入りました。
「祭りの太鼓台が集まる担き比べの日に、取材に出来るんじゃったら、太鼓台の指揮台に乗ってもええ」と言うのです。
社内にも祭り好きが何人もいて、全員が言いました。
「絶対乗せてもらったらええ、こんなことは前代未聞じゃけん、女性が太鼓台に乗られるなんて無いよ、取材にいかんといかんわい、絶対行こや」
その言葉を聞いて、私のお転婆魂に火がつきました。
私は、祭りの取材をすることにして、勇気を持って、太鼓台の担き棒の上の指揮者が立つ場所に上らせてもらい、リポートをすることにしたのです。
当日は担き比べのために太鼓台が数十台集まっていました。祭りのメーンイベントを見ようと、祭り好きが見つめる中、私は気合いを入れて指揮台に上り、興奮して、リポートしました。
上がった途端に頭が真っ白になって、あれこれ話そうと準備していたコメントはどこかに飛んでしまい、「わー、高い、凄い人、恥ずかしい、えー、どうしよう」と言いながら懸命にリポートしましたが、何をしゃべったかは覚えていません。
ただ観衆の視線が刺さるように痛かったのを覚えています。
中には「あの女、何で指揮台に立ってとるんぞー、女が太鼓台に乗るなんて、誰が許したんぞー」そんな声が聞こえたような気がしました。
そして、極めつけは生放送でその様子を見ていた母からの局へ電話です。
「あんた、誰が太鼓台に乗せたんぞね、あんなことして、あんた一生お嫁にいけんよ」受話器から母の興奮した声が聞こえました。
私はそんな母に、何も言い返せませんでした。
乗ることは自分で決めたからです。
それは今から40年以上も前の出来事です。
そう言えば私はずっと独身です。
もちろん、その事が理由ではありませんけれど。
振り返れば、本当に貴重でレアな体験をしたと思っています。
今は女たちも祭りの主役になっています。
毎日がバトル:山田家の女たち
《見よってたまげたんよ》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「何となくニュースを見よってたまげたんを覚えとるよ、私じーと見よったんよ、心配しとったんよ」
「何だか懐かしいねー」
「新居浜の太鼓台のニュースを見る度に思い出さい、最近は女性のリポーターも時々上に乗っとるねー」
母も遠い昔を思い出して、懐かしい表情をしていましたが、電話をかけてきた時の剣幕はただものではありませんでした。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
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