僕と友だち
◇◇ショートショート
高校1年生の時、僕は孤独でした。
友だちが一人もいなかったのです。
僕は毎日ただひたすらピアノに向かっていました。
それで満足でした。
煩わしい友人との会話よりも、自分の思うままに好きなようにピアノを奏でている方が僕には楽だったのです。
「孤高の音楽家だっていい」そんな風に思っていました。
ピアニストになるのが目標の僕は、練習することが最高の幸せだと思っていたのです。
ピアノの前で鍵盤と会話し、闘う日々を重ねながら、僕はピアノに問いかけていました。
「僕のテクニックは上達してる、僕の指は楽譜のメロディーに忠実かな、僕は作曲家の想いを上手く表現することが出来ているかな・・・」
そんな風にピアノに聞いていたのです。
高校2年生になって、友だちが出来ました。
クラスメートになった誠です。
人見知りで神経質な僕と誠は、何となく通じるものがありました。
ある日、休み時間に廊下で佇んでいる僕に、誠が話しかけてきました。
「僕は、音楽の事はよく分からないけど、君のピアノは素晴らしいね、聞いてると何となく心が癒される気がするんだよ、音楽室で君が弾いていたピアノに僕は釘付けになったんだよ」
「えー、そんなこと言ってもらって嬉しいよ、今度僕のピアノコンサートがあるんだけど、招待するから一度聞きに来て」
「僕はピアノを弾けないけど、聞くのは大好きだから、絶対に行くよ」
その事がきっかけで、僕は誠とよく話すようになって、彼とはいつの間にか心を通わせるようになりました。
ピアノコンサートの後、誠に感想を聞きました。
「今日の演奏、どうだったかな・・・」
「僕は音楽のセンスは無いからね、君の演奏を評価する資格なんてないよ、でも素晴らしかったと思うよ」
誠は決して僕のテリトリーに踏み込んでこないで、程よい距離感を保って話してくれます。それが僕にはとても心地いいのです。
誠はゲームオタクで時間があれば毎日深夜までゲームを楽しんで、翌朝眠そうな顔で授業を受けています。
お互いの趣味は全く違うのに、何故か彼とは引き合うものがあって、学校の帰りも二人でファストフード店に行って盛り上がっています。
僕は誠と話していると、何故か心が解放される気がするのです。
「昨日さー、ドバイの奴とゲームやって、僕が勝ったんだけど、中々手ごわいやつだった、今度日本に来たいって言ってんの」
「へー、誠、英語で話してんの」
「そうさ、ゲームの事だったらどんどん話せるんだよね」
「誠、ゲームで国際交流やってるねー、凄い」
「まー、そう言われればね、国際交流かな・・・」
たわいもない会話をしながら誠とは、楽しい時間が過ごせるのです。
僕は誠といると笑顔になっている自分に気が付きます。
僕は緊張の時を迎えました。
日本で開かれるピアノの国際大会に出場しています。
世界各国から50人が参加して、最優秀を決めるコンクールです。
僕は最高の演奏がしたいと、この日のために一年かけて練習してきました。
でも、気持ちがナーバスになっていて、自信を無くしかけていたのです。
「ミスタッチしたらどうしよう、これまでの練習が一瞬で無駄になる、周りにいるのは世界からやって来た強者たち、僕の演奏なんて大したことないから・・・」
そんな風に考えて弱気になっていた時、誠からメールが入りました。
「昨日、僕ゲームで勝っちゃってさ、今日は気分上々なんだよ、僕のハッピーを送ってやるから、きっと君も大丈夫だと思うよ」
さりげない、誠らしい能天気なメールに、僕は思わず笑ってしまいました。
この日僕は、最高のパフォーマンスをすることが出来たのです。
演奏が終わって、誠にメールを入れました。
「僕、何だか優勝できる気がしてきたよ、きっと君のハッピーが伝染したんだよ、ありがとう」
僕はピアノ以外に、心を通わせることが出来る友だちが出来て本当に良かったと思いました。
人と繋がる事は、人生の宝物だと感じた瞬間です。
早速、誠からメールが届きました。
「実は僕、昨日のゲーム大負けだったんだよ、僕のアンラッキーが伝染しなくてよかったね(笑)」
やっぱり、誠は本当にいい友だちです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《やっぱり友だちは必要よね》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「ショートショートから優しい心が伝わったよ、これからも励まし合って仲良くやったらええと思うねー」
「やっぱり友だちは必要よね」
「誰もいない人も居るかも知れんけど、人生に一人でもそんな人が出来たらええねー」
本当に気の置けない友人が一人でもいることは、自分の人生の宝物だと思います。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
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