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ラジオからあの声が聞こえた

◇◇ショートショート

フランスでアート活動をしていた和彦は久しぶりに日本に帰ってきました。東京の大学で教えることになったのです。

フランスで出会ったパートナーと別れたことが、彼の新しい人生のスタートになりました。

帰国したばかりの和彦はとりあえず故郷に帰ろうと決めました。20年ぶりの松山です。父親の反対を押し切ってフランス留学を決めた彼は、成功しなければここには戻ってこられないと思っていました。

和彦にはもう一つ松山を遠ざける理由がありました。青春の苦い恋の思い出です。

それは彼にとっての初恋でした。高校の放送部でアナウンサーをしていた里子は人気者で、昼休みや放課後に爽やかな声で放送をする彼女のファンはとても多かったのです。

放送で流す曲は生徒からのリクエストで決めていました。

和彦は放送部の入り口に置いてあったリクエストカードに「ビージーズの小さな恋のメロディをお願いします、僕はこの曲を聞くと何故か瑞々しい若葉を思い浮かべるんです、この曲がサントラになっている映画”小さな恋のメロディ”は僕の恋のバイブルみたいな映画なんです」
そう書いて、リクエストのポストに入れようとしているところで、偶然、里子と出会いました。

「リクエスト書いてくれてるの、ありがとう、曲は何、部長に言ってその曲流してあげますよー」
和彦は彼女の声を聞いてときめきました。
「甘くて爽やかで、なんていい声なんだ、その上彼女はとってもキュートだな」そう思いながらドキドキして話していました。

「小さな恋のメロディ、流してくれるんですか・・・」
すると彼女は、「もちろん、ここで偶然会ったのが奇跡みたいなもんだから、絶対に流してあげる、ビージーズの小さな恋のメロディ、私も好きよ」

彼女は、次の日の放送で、和彦がリクエストした”小さな恋のメロディ”をかけてくれました

そのことがきっかけで、二人は言葉を交わすようになり、いつしかお互いが特別な存在に思えるようになったのです。毎日二人で仲良く帰っていました。少し遠回りをしながら、家の近くを何度も回ったりして、時間はいくらあっても足りない感じでした。

和彦は里子の爽やかな声と明るい笑顔が好きでした。いつも前向きで率直で屈託がない里子を和彦は眩しく感じていました。
里子は、彼のやさしさがたまらなく好きでした。すべての物への眼差しが温かかったのです。和彦の描く絵は彼の優しさそのままで、まるで光が差したような温かい絵でした。

大らかな里子と繊細な和彦は相手を尊重し合いながら、恋をはぐくんでいました。
付き合い始めて半年、和彦は地元の美術展でグランプリに輝きます。そのことが二人の恋に亀裂を生むことになりました。

「里子ちゃんの将来の夢は何」
「私は、アナウンサーになるのが夢なんよ、放送局に入って私の声でみんなを幸せにする仕事がしたいんよ、和彦君は・・・」
「僕は、絵がもっともっと上手くなりたい、じゃけん海外の大学で勉強しようと思とるんよ、フランスに留学しようと思とる」
「えー、松山の大学で絵を専攻するんじゃないん、海外に行くん・・・」
「僕の夢だからね、お父さんは反対しとるけど、僕は誰に反対されても留学するけん、僕は絵を描くことを極めたいんよ

ある日のそんな会話から、里子は和彦に距離を置くようになりました。和彦がずっと松山にいるのだろうと思っていた里子は彼の留学が受け入れられなかったのです。

「誰に反対されても、留学するけん」その言葉に里子は寂しさを感じました。
一人娘の里子は、地元を離れることを考えてはいませんでした。
和彦君がフランスに行ってしもたら、私はどうしたらええんじゃろか、私が反対しても行くんじゃろな―、私に会えんなっても寂しないんじゃ、和彦君の私への思いはそんなもんじゃったんか
里子はそんなことを考えて、和彦と距離を置くことにしたのです。

高校を卒業する頃には、二人は別々に帰るようになりました。お互いに自分の気持ちをしっかりと伝えないまま、ぎくしゃくした思いで距離を置くことになったのです

ある日、里子から「私たちもう会っていても仕方がない、辞めようよ」と言われた和彦は「そっか、そっか」とただ頷くだけでした

それから20年、和彦はずっと里子のことが気になっていました

「僕がもしフランスから彼女に手紙を出していたら、僕の隣にはもしかしたら彼女がいたのかな・・・」そんなことを思いながら、懐かしいアルバムを開いていると高校時代の甘酸っぱい想い出が蘇ってきました

「ファーストキスも里子ちゃんだった。文化祭の準備の夜、校庭のポプラ並木だったな―、今日の事は一生忘れんけんねって里子ちゃん言ってたな・・・

里子との思い出に浸りながら、和彦は昔よく聞いていたラジオのスイッチを入れました。すると、あの人の声が流れてきたのです。

「こんばんは、里子のミッドナイト通信、今日は初恋がテーマですよ、最初の曲は私の初恋の思い出の歌、小さな恋のメロディお聞きください

「ビージーズの小さな恋のメロディ、マークレスターとトレーシーハイドの映画をご覧になった方いらっしゃいますか、私はこの曲を聞くと高校時代に戻ります、私の初恋は残念ながら実りませんでした、あなたの初恋は、上手く行きましたか・・・
その声は、昔と少しも変っていませんでした。

和彦はその偶然をきっかけに心に決めました。
「明日、局に電話をかけてみよう、そして里子ちゃんの事を聞いてみよう」

和彦は、なんだかワクワクしてきました。彼の心の中で初恋が目覚めたのです。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《あんたもっとドロドロせんと》


「私も小さな恋のメロディ言う曲は知っとるよ、私は恋愛ものは苦手じゃねー、純愛は私には合わんのよ、あんた書くんじゃったらもっとドロドロせんと心に響かんよ、まあそんな人も居ると思うけどねー」

母は言葉はそこで終わってしまいました。私にはどろどろの恋愛ストーリーは書けそうにありません。


追憶の学園祭や春うらら

初恋のショートショートから、若かりし頃の恋に思いを馳せた母は、父との出会いを思い出したようです。初めての出会いは大学祭のダンスパーティーだったそうです。当時はダンスがブームだったとか。昭和25年頃のお話です。
イラストを描きながら母は、その当時の話を少し恥ずかしそうにしてくれました。
父とはダンスパーティーで偶然に三度出会い、それがきっかけでお付き合いをするようになったそうです。母には忘れられない恋の思い出です。


最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。

私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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