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小説は壮大な「ピアノコピー」だった 「容疑者Xの献身」

「私がピアノの前に座るとみんなが笑った。でも、弾き始めると・・・」
伝説的なキャッチコピーをご存じでしょうか。
私にとって、この小説がピアノコピーでした。
彼の才能に気づくまでに何年要したのでしょうか。
本屋の話題本コーナーで、一度手に取ったことを思い出しました。
書き始めから10ページほどが頭に残っていたからです。
「人気1位だって、自分の好みじゃないな」
書き出しの理屈っぽさに、すぐに投げ出しました。
それから15年くらいたったでしょうか。
あるランキングのトップだったので、一度読んだとは知らずに読み始めました。
自分も理屈っぽい人間です。
だからこそ、理屈には正面から向き合えないのです。
「物語は感性だろう」
と自己矛盾を含んだ、妙な認識がありました。
実際に筆を執るようになってみると、理屈と感性の二項対立など、どうでもいいと気づきました。
数学の命題がちりばめられ、哲学を解いていく。
穴のある解答を出し続け、
「やっぱり警察の目はごまかせないな」
と思わせておいて、感情に訴えるラストが見えてくる。
だが、この物語にはピアノコピーが仕組まれていました。
頭で追いかけた理論の筋も、予想していた感情のやりとりも、浅かったと思い知らされるのです。
さすがですね。

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越庭 風姿 【 人は悩む。人は得る。創作で。】
「利益」をもたらすコンテンツは、すぐに廃れます。 不況、インフレ、円安などの経済不安から、短期的な利益を求める風潮があっても、真実は変わりません。 人の心を動かすのは「物語」以外にありません。 心を打つ物語を発信する。 時代が求めるのは、イノベーティブなブレークスルーです。

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