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結果として実はこの「移住」は成功だったのか

1980年代後半から90年代にかけての日本では、退職後の終の住処を南欧やオセアニア、東南アジアなどの海外に求める動きがブームになったことがありました。

なかでも当時の通産省が提案した「シルバーコロンビア計画」は、年金生活者層をまとめて気候の温暖な海外に移住させることを促進する構想でしたが、「老人の輸出政策」と海外からの批判も多く結局頓挫しました。

民間での「海外移住」がブームになるどころか、このように国家施策としてまで海外移住が議論された背景には、当時の強い日本経済と日本円の存在がありました。

そして同じ頃にまだ若かった私も、アメリカに移住してそこでのリタイアに漠然と憧れていました。

それは同じ価値のお金を払うのであれば日本よりもアメリカでの方が、衣食住すべての面において遥かに豊かな暮らしができると、1990年代後半の自身の米国南部での最初の駐在員生活で実感していたからです。

私はその頃から、イメージ的に1ドル100円換算で、金融資産を日本円と米ドルで約半分ずつ保有するようにしました。

米国居住中であろうが日本居住中であろうが、また1ドル75円であろうが125円であろうが、その金融資産管理方針がブレることはありませんでした。

その後私は米国永住権まで取得して着々とアメリカへの本格移住に備えていきましたが、幾つかの事情が重なり最終的には日本でプチFIREしました。

帰国した2020年前後の日本社会は、その四半世紀前の「海外移住ブーム」の頃と比較すると別世界になっていました。

いわゆるMMT派や統合政府派等に踊らされ、実質上の財政ファイナンス的金融政策を採用したアベノミクスの「効果」も顕在化し、円の価値は下落して行きました。

ザックリと言えば米ドルに対して2/3程度となった現状の日本円為替レートに物価水準の差を加味すると、今の日本ではアメリカの半分以下の基本生活費で暮らすことができるようになった感覚です。

よって「弱い円に基づく安い日本」では、米国人を含めた外国人が殺到するという空前のインバウンドブームも発生しています。

都心部や観光地のホテルやレストランでは、ハナから平均的所得水準の日本人を相手にしない価格設定をしているところも出てきています。

かつて同じ光景を出張で訪れた発展途上国などで見かけたことがありましたが、まさか日本がそのような国になるとは思いませんでした。

一方で私自身の金融資産といえば、米ドル建て資産の円安為替効果、高金利、株価上昇の3点セットの影響で、気がつくと米ドル建て資産の割合が圧倒的に大きい状況に変容しました。

これは日本円を中心に世界を見る「天動説」では大幅な資産増加と誤解してしまいますが、基軸通貨の米ドル建てベースでは日本円資産部分の絶望的な価値毀損です。

私は自分の米ドル建て金融資産の大半を昨今の高利率に乗じて、加重平均利率5%超の同通貨建て債券(一部は定期支払金付きの一時払い終身保険)中心のポートフォリオにして再編成していきました。

更には一定金額の日本円資金を、1ドル130円を超えた時点で追加にて米ドル勘定に移していきました。

その結果、米ドル建て債券の毎年確定した利金だけで、(欧米と比較すればずっとマシな物価水準の)日本での年間生活費を賄うには十分な不労所得の仕組みを構築できました。

そしてふと思いました。

強い国の通貨での金融資産を無理なく債券で運用して、生活費が安いこの国で元本を減らさずに暮らすことができる今の自分は、実は「完璧な移住モデル」を実践したのではないかと。

日本円と米ドルの両方を保有する形でも、アメリカでリタイアしたのであれば、仮に米ドル部分は同じように運用できたとしても、それは激しい現地インフレ下の生活費として蒸発しているだけではなかったのかと。

更には価値が酷く落ちた日本円建てベースの金融資産部分が足かせとなって、50代プチFIREどころではなかったのではないかと。

そう、結果論的なところもあるのですが、私の「日本への逆移住」は実は大成功だったのではないかと整理し始めています。

追記:

年金生活者の集団輸出「シルバーコロンビア計画」の「コロンビア」命名の由来は、ウイキペディアによると「コロンブスがアメリカ大陸を発見した1492年から500年後の1992年までにシルバー世代の新天地を海外に築くという意味を込めたもの」だったそうです。

ならば、日銀総裁に黒田東彦氏が就任して異次元緩和を打ち出した2013年から10年後の2023年までに、海外で稼ぐまたは外貨で運用する一方で、安い日本で生きていく老後生活モデルを構築してくれた金融政策には「シルバークロダア計画」と命名します。

黒田前日銀総裁、本当に有難うございました。あなたの壮大且つ無謀な実験のおかげで私にとっては今の日本での生活がまるでインバウンド外国人のように快適であります。

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