狂気の頭脳を持ってしまった男の人生に迫ってみる?
今回のお題
まだまだ8月、夏が終わる気配を感じませんが、昼寝のお供に積読本を消化する…ということで、「フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔」という本を取り上げてみます。著者は國學院大学教授の高橋昌一郎氏です。
宣伝の帯にある"コンピュータ、原子爆弾、ゲーム理論、天気予報…。現代社会の基本構造をつくった天才"が大変気になります。
理系の山田(仮名)がこれまで全く知らなかったフォン・ノイマンとは何なのか?に迫る誰得レビューでございます。
フォン・ノイマンって?
1903年にブダペストにて3人兄弟の長男として生まれたユダヤ系ドイツ人です。
11歳でギムナジウムに入り、のちにノーベル物理学賞を受賞する学友のユージン・ウィグナーを凹ませるなど、抜群の数学センスを見せつけます。
1926年、論文がダフィット・ヒルベルトにいたく気に入られ、ゲッティンゲン大学でヒルベルトに師事した。瞬く間にヒルベルト学派の旗手となり、1927年から1930年に最年少でベルリン大学の私講師になります。
1930年にプリンストン高等研究所の所員に選ばれ、その後教授に。
1937年にアメリカの市民権を得ると、何と科学者でありながら軍人になろうとするも諸々あって失敗。
1942年機雷の除去に必要な高度な数値解析(偏微分方程式)を可能にするコンピュータの開発に関与、その後マンハッタン計画に参画。
1950年代には合衆国の軍事部門でのコンサルティングなどで持ち前の頭脳を遺憾なく発揮するのですが、1957年2月に53歳で死去します。
よく言えばKY、〇〇障害的な天才
この本でも描かれているのですが、ノイマンは天賦な才能だった数学を軸にして、様々な理論や技術を生み出していってます。その場面ごとに、のちに高い評価を受ける科学者たちとの出会いはあるわけですが、そこにはあまり人間的な暖かさとか温もりは感じません。綺麗な言葉でいうと、求道者とでもいうべきですが、本書でいう「科学優先主義」というのも、同時代を生きた人間からするとある種の狂気を感じたかもしれません。
と同時に、フォン・ノイマンがユダヤ系ドイツ人であり、ブタペストを拠点としていましたが、歴史の定めなのか、アメリカに移住し、自身の頭脳、科学を合衆国のために使います。
合衆国のために使うことに躊躇しない、その究極は原子爆弾となるわけですが、フォン・ノイマンが移住したあとのブタペストの悲劇(ナチス、ソ連の関与etc.)を目の当たりにしていますから、火星人と揶揄された人格であっても、フォン・ノイマンからすれば悲劇を回避するための正当防衛だという主張なんだろうと思えます。
もしフォン・ノイマンが現世から存在していたら?
フォン・ノイマンを今の時代で言えば、ジェフ・ベゾス、スティーブ・ジョブズを少しマイルドにした感じかなと思います。ただ、理想に邁進するためにはいかなる犠牲もやむを得ないと「人間性」を持たない意味では、成功者の要素は持っていながら、使い方を間違えると凶器になりうる怪物であることに疑いの余地はないと思います。
ただ、フォン・ノイマンの頭脳が合衆国という国家のためではなく、人類共通の目標のため、例えばSDGsを進めるための理論や技術開発に使ったら…もしかするとフォン・ノイマンが理想としていたかもしれない科学による課題解決への道、結果としての「科学優先主義」がより加速していたかもしれません。
決して、本のタイトルにある"人間のフリをした悪魔"というのも、フォン・ノイマンが科学に対する純粋さにのみ興味があったと思えば、ゼロヒャク思考でみてはならず、卓越した科学者として側面や人類史においての意義も研究されるべき人物だと考えました。(了)