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熱いハートと冷静な手技…外科医の凄みを感じました

まずは紹介

今回の記事は岩波新書から刊行されているがんと外科医の本の話です。作者は杏林大学付属病院肝胆膵外科診療科長の阪本良弘先生によるものです。

内容は?

本書は前書きを含め、以下の構成となっています。ご自身が消化器がんのうち、現時点で治療成績がまだまだの肝臓がん、膵がん、胆道がんの外科治療が専門です。阪本先生が、外科医としての日常・過去・未来を、静かに、そして強い思いで筆が進んでいきます。

Ⅰ 外科医の日々
Ⅱ 肝臓、胆道、膵臓
Ⅲ 肝胆膵外科医への軌跡
Ⅳ 肝胆膵がんへの挑戦
Ⅴ 術後合併症を減らすために
Ⅵ 患者からの学び
Ⅶ 未来への課題

10時間連続の緊張

Ⅰ 外科医の日々

に手術当日の阪本先生の様子が粛々と描かれています。数々の経験、そして科学に裏打ちされた手術の風景がリアルではありながら、静かに進みます。そして、患者さんの無事を確認しつつ手術後にその風景を記録する。

外科医にとっての日常、患者から見れば非日常ですが、同じ部屋で、同じ時間を過ごす人間の別な側面が、阪本先生の挿絵(スケッチ)の精緻さ以上の臨場感で伝わります。

修行の日々

技術を仕事とする方は、師匠との出会いや日々の訓練は欠かせません。外科医はその際たるものだと私は思います。阪本先生も同じ道を歩みます。

当時野戦病院と評された国保旭中央病院で初期研修を、東京大学に入局して肝臓外科のレジェンドに出会い、そして自身が先輩外科医とともに新しい治療法の開発に進んでいく…

これもまた、手術室の様子と同じような精緻さと臨場感で語りかけてくれます。

外科医の謙虚さ

そんなおり、阪本先生の元にある患者さんが訪れます。膵がんの宣告を受けた坂井律子さん。NHK山口放送局長から、編成局主幹として異動された矢先だったそうです。阪本先生は坂井さんと良好なコミュケーションを取りつつ、「最善の治療」を行いましたが、坂井さんは帰らぬ人となります。

坂井さんの闘病記は岩波新書にて綴られておりますが、阪本先生は坂井さんとともに求めた「最善の治療」の結果をありのままに、しかし手術後のスケッチのような精緻さで語ります。

がんと向き合うために必要なことは?

現在では2人に1人はがんに罹患する世の中です。この記事を書いている私の中で、気づかないうちにがんが進行しているかもしれません。その際は、文字通り藁をもすがる思いで、医療に救いの手を求めるでしょう。

幸い、日本ては、国民皆保険制度などの社会保障の枠組みで、患者はがん治療を受ける恩恵に預かれます。

しかし、患者が持ち得る情報とがんを専門にしている医師の知識とでは、余りにも違いがあります。

本書でも治療成績の向上に向けたエビデンスについても述べられているように、医学の知識を知らずして患者が意思決定するのはどうなのかな?とより深く考えさせられました。

と同時に、本書のように普通の人が窺い知ることのできない外科医のありのまま、しかし精緻な日常が語られることで、これからがんの外科治療に向かう患者がより知識を深めるきっかけのみならず、外科医の明るい未来につながればいいなと思いました。(了)


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山田太朗(仮名)
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