【詩】かなしきタイムトラベラー
夢のなかでしか 本音がいえない
かなしき タイムトラベラー
じぶんの生を 賭してきた その反動で
どの時代がじぶんのルーツか 忘れてしまった
きのうと きょうと あしたが分断される
裂ける時代をつなぎ合わせ
危機を救ってきた
でも だれの記憶にも残っていない
歴史と歴史のあいだの やみにすいこまれて
それが 美徳とされて
知らないあいだに ひび割れた時空のはざまに
じぶんを殺されてしまった
かなしき タイムトラベラー
並行世界のきのうに戻り
ただひとり泣くためだけに 時間旅行する
ほんとうは繭のように閉じこもり
おなじ時代で 年を重ねたい
どの隊員にも 強みがあったはずだ
まもるべき信条と かぞくがあったはずだ
けれど 任務のために
順応していくことを余儀なくされた
未来のために
自分から口を閉ざした
いまでは 落ち葉のような連中ばかりだ
夢のなかに 質量はない
楽しいことと 悲しいことを
その時どきの総量で測るような
小賢しい感情の天秤を 捨てられる
夢は きみと邂逅するための連結点
何層もの現実を超えて ぼくは白昼夢の中で
きみといつか出会う 過去の点を探す
いつかの時代が 交差する
うつくしい景色 懐かしい風景
むかし通った 思い出の場所
鏡が反転する
ピンボールのように連鎖する
未来を変えたことで
ここにいない人 かつて生きていた人の不在が
時空を歪ませる 磁場を狂わせる
なんども立ち止まり 緯度と経度を確認する
さびしき タイムトラベラー
だれにも聞こえないほどの小さい声で自問する
「いまどこにいる」「ぼくはどこに向かっている」
本部からの応答はない
今いる世界では
ほんとうに思っていることは 正直に話せそうにない
真空の世界に 彼も心を許していない
タイムトラベラーは願う
どこかちがう世界へ
ちがう任務のなかで
きみと偶然 夢で出会える世界へ