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谷古宇 時生
2024年10月8日 21:09
ープロローグー 九月一日。晴れ。村瀬祐樹はぎゅっとハンドルを握りしめた。 夏が終わろうとしている。高校三年生の夏に、値段をつけるとしたら、いくらの値がつくのだろう。夏特有の広くまじりけのない空に、雲が駆けている。遠くには海が見えた。白い鳥が、村瀬の横をゆうゆうと横切った。気持ちよさそうに飛んでいる。一瞬鳥と目が合った気がする。「おまえに飛べるのか」言われた気がした。鳥の名前は知
2022年7月18日 11:10
夜は美しすぎて、何度も何度も描くことを試されてきた。 何千年も前から、名もなき画家たちがその美しさに魅せられて黒鉛をすり減らし、我こそは夜空を最もいきいきと描けると技術を競い合った。 夜をまるごと捕まえようとした画家の試みはことごとく失敗した。真夜中の縁をなぞろうとしたら闇が濃くなった。夜の途方もない奥行きを写生するほど平面的に見えた。削り取られた鉛筆の芯の破片が台紙に舞い、さらに深い深い