ショートショートエッセイ

東京は息を吸うだけでお金がかかるので、息をはくように文章を書きたいです。

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干し柿と棺桶

おばあちゃんは干し柿が好きだった。 でも、私がそのことを知ったのは、おばあちゃんの人生がかなり終盤に差し掛かった頃だった。 おばあちゃんは、私が物心ついた時から、既に持病を患っていた。 糖尿病で入退院を繰り返していて、歩くと転んで危ないから、手押し車のようなカートを頼りに、日常生活を送っていた。 入院していない時期は、私が小学校から帰ると、おじいちゃんとおばあちゃんが我が家で「おかえり〜」と言って迎えてくれた。 両親は共働きで帰りが遅かったから、私にとって放課後の遊び相手

    • 本能で食らえよ。

      今年の夏は暑かった。 過去形にしてしまうには、まだ早いのかな。 一時のピークは越えたような気がするけれど、それでも十分に不快な蒸し暑さが残った9月の始まりだ。 歳をとるごとに、一年は短く感じるのに、夏だけが長くなっているから不思議。 うだるような熱気で、近所のコンビニに行くだけでも、帰ってくるとシャワーに駆け込みたいほど、毎日大粒の汗が全身から噴き出す。 とはいえ、室内はガンガンにエアコンが効いているのが東京の定めなので、週末ずっと家にいると、体中が冷えて何となく寒さが抜け

      • 愛はキッチンにある。

        私は料理が下手だ。 いや、下手というか、苦手意識があるという方が正確かもしれない。 上手か下手かを判断できるほどに、頑張ってこなかった。 今からだって、一から頑張れば上手くなる可能性はゼロではないけど、少なくとも現状は、挑戦することよりも苦手意識が勝る。 小さい頃からお菓子を作るのは好きだった。 それだって、自信をもって「得意です」と言い張れるほどではないけれど、成功したり失敗したりを繰り返しながら、もっと上手に作りたいという探究心で頑張れていたんだと思う。 お菓子も料理

        • 天職

          「君は将来すごい人になる。」 小学校の卒業式で、教頭先生からそう言われた。 担任でもなく、それほど多く会話したことはない先生だったので、私のどの辺に「すごい人になりそう感」を読み取ってくれたのかはわからない。 そして、あれから15年ほどが経ったが、残念ながら今のところ、すごい人になる実感を覚えたことはない。 それでも、「言霊」というくらいだし、あの時の言葉を生意気にも信じながら、いつか期待に応えられたらと思っている。 少し前に転職をした。 前いた会社と比べると、とても大き

          思い出はいつの日も雨、というか雷

          仕事から帰ろうとした瞬間、ゴゴゴーっと雷が鳴った。 昨日だか、一昨日も鳴った気がする。 昔は雷なんて珍しい、特別な、だからこそ怖いものだったのに、随分身近になったなあと思う。 「夕立ち」と言えばきれいだけれど、現実的に言うと「ゲリラ豪雨」だろうか。 怖いを通り越して、世紀末な雰囲気さえまとった悪天候が、2、3日に一度やってくるのだから、本当に世も末なのかもしれない。 小さい頃は、「雷の日はちゃんと布団をかぶって寝ないと、おへそを取られるよ!」という謎の教えがあった。 全然意

          思い出はいつの日も雨、というか雷

          愛する味方

          「つっぺ」という言葉が北海道弁だということをつい先日、初めて知った。 流し見していたYoutubeで、「道民しか知らない北海道弁15選」的な動画が流れてきて、その中で紹介されていたのである。 北海道の人が「つっぺ」というのは、鼻血が出たとき止血するために、ティッシュを小さい筒状に丸めて、鼻の穴に突き刺したもののことで、他の地域に言葉に直すと、「詰め物」とか「栓」という言葉になってしまうらしく、ちょうど当てはまる単語は見つからなさそうだった。 私は「つっぺ」という言葉を聞くと、

          紅生姜について書きたかっただけのこと。

          食べ物についてのエッセイは数多くあるけれど、題材になりやすい食べ物、なりにくい食べ物というのがあると思う。 例えばオムライスとかラーメンとかナポリタンとか、わかりやすい主役級の食べ物は当然エッセイの主役にもなれる。 メインの料理でなくても、例えば松茸とか秋刀魚とか、季節の食材もテーマたり得る。 あとはスイーツ、アイスにプリン、ドーナツも。 反対に、なかなかエピソードの中心にはなれないものもある。 例えば、もずくとかじゃことかえのきとか。 いや、隈なく調べれば出てくるのかもしれ

          紅生姜について書きたかっただけのこと。

          そばかすはエース

          「コンプレックス」という言葉を知ったのは、いつの頃だっただろう。 何かの歌詞で聞いた気もするし、小説の中で出会った気もする。 はっきりとは覚えていないけれど、生まれた瞬間は「コンプレックス」だなんて思ってもいなかったものが、いつかのタイミングから、ふと「コンプレックス」に感じてしまうことは誰にだってあるのだと思う。 私の場合は、そばかすだった。 それ以外にもないわけではないけれど、最大にして最難関のコンプレックスは、確実にそばかすだった。 母親ゆずりの生まれつきのものだった

          青い空

          かけ出そうとした時に限って、 靴ひもがほどけたりするから、 ぎゅっと結んで、少し下から前を見上げる。

          令和なんてだいきらい

          今更感がかなり拭えないけれど、ドラマ「不適切にもほどがある」をNetflixで見ている。 現状9話が終わったところ、あと1話でフィニッシュだ。 まだ物語の結末を知らないから、感想をまとめるには尚早かもしれないと思いながらも、すごく面白い。もっと早く見ればよかった。 あんなに人から勧められたのに、なんですぐ見なかったんだろうと、ちょっと後悔している。 最近は韓国のドラマばかりで、日本のドラマには期待というか興味さえほぼなかったのに、「たまにはやるじゃん」と誇り高くなってしまう、

          降ります!

          日々の通勤は電車を使うことがほとんどだけど、週1回のジムに行くときや、微妙に電車だと遠回りになる場所は、バスを使うことが多い。 東京は、結構バス網が張り巡らされていて、乗りこなすと便利だよなあと思う。 普段電車で通り過ぎてしまっている区間も、バスに乗ると、「あのお店、ここにあったんだ」とか「この商店街良さそうだな」とか、見えなかった街の風景が見えるから、そういう意味でも、たまにバスに乗って視点を変えるのは良いことだと思っている。 小さい頃、少し離れた祖母の家に行く時にも、毎

          おにぎり論

          前に、祖父の作る塩むすびが好きだと書いたのだけど、基本的におにぎりが好きだ。 お茶碗に盛られたごはんはあまり量が食べれないのに、おにぎりにした途端、はむっと食べやすくなって、好き。 というか、好きか嫌いか選べと言われたら、全国民の過半数は好きと言う食べ物だと思うので、別に珍しい話ではないけれど、私自身がおにぎりを好きになったのは、明確なタイミングがあった。 高校3年生の時、私には食欲がなかった。 今となっては、一夜の間にラーメン用のチャーシューを作る夢と、人気のお寿司屋さん

          学生時代に使っていた古い東芝のノートパソコンを、さすがにもう処分しないとと思いながら、数ヶ月、いや数年が経った。 予定のない週末に、少しお酒を飲んで寝ようとしたら、上手く眠れなくて目が覚めてしまった朝2時。 手持ち無沙汰ゆえに、いつもやらないことをやろうと思い立ち、デスクの上で、もう絶対要らないチラシや雑誌が積み重なった下に、ひっそり潜んでいたそのパソコンの電源を、ずいぶん久しぶりに付けてみた。 想像通り、かなり動作が重く、老齢状態。 しょうがない、10年近く前に買ったもの

          答案用紙はラブレター

          この季節になると、地下鉄のホームに「受験生頑張れ!必勝!」みたいなポスターを見かけることが多くなる。 職場でも、「娘が今週末受験だから、飲みにも行けない」なんて嘆きを耳にしたり。 本格的な受験シーズンだ。 私は高校まで北海道で育ち、そこから東京大学に入った。 一応現役で合格したし、一応4年で卒業した。 客観的に見て、胸を張れる学歴だと思う。 それでも「受験」という文字を見ると、受験生だったあの頃だけは二度と戻りたくないと、心の奥の方がズキズキ痛む。 なぜ東大を目指すことに

          答案用紙はラブレター

          銀座であんみつ

          最近、銀座のあんみつの老舗が閉店するとニュースになっていて、そういえばと思い出したことがある。 小学生の頃、母の出張にくっ付いて、よく東京に来ていた。 その当時、母は札幌で仕事をしていたのだけど、仕事だけでは飽き足らず、もっと勉強したいと言って、東京の大学院に通っていた。 平日は朝から晩まで仕事、土曜の朝に飛行機で東京に行って、日帰りか日曜に帰ってくるというハードスケジュールをこなしていた。 親の熱心さは心底尊敬するけれど、一緒に遊ぶ暇など殆どないほど、ただひたすらに働き

          サンタさんとごま和え

          この前、お子さんがいる会社の先輩と 「いやー、ヨドバシからまだ届いてないんですよね、子供のクリスマスプレゼント。」 「あー、今年は運送業者も大変そうですもんね。」 なんて話をしていた。 世の中ではこの週末、沢山のクリスマスプレゼントが行き交うのだろうけど、それを運んでくれているのはサンタクロースではなく人だという当たり前に、気付いたのはいつだったろう。 我が家では、「サンタクロースを信じない人にはクリスマスプレゼントは届きません」というルールがあった。 もちろんプレゼント狙