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殺人ロボット(18)

18

物音が聞こえる。
誰かいるのか?
誰だ後ろに居る奴は?
殺しの現場を見られたのか?

組織の掟では、殺しの現場を観た人間は、
速やかに殺せと決められている。
背くは訳にいかない。
殺さなければ、私の体に埋め込まれている、
チップを爆破され私は死ぬ。

「誰だ、そこに居るの?解っているぞ。出てこい。」
と、押し殺した低い声で言い、辺りを見渡した。
部屋の灯りは薄暗く全体を照らしてはいない。
私はベッドルームから、もう一室の部屋に入る。

この部屋は二室とバス、トイレから成り立ち、
一室はベッドルーム。
ダブルベットをシングルベッドが2台がある。

もう一室はかなり広く、会議や打ち合わせには良さそうな
部屋で豪華なテーブル、ソファ、家具が設置されている。


部屋の隅にあるクローゼットの扉が揺れている。
……此処に居るのか?……
俺は静かに扉を開いた。

女はしゃがみ込み、俯き震えている。
白いバスローブに身を包み、髪が僅かに濡れて乱れている。
…風呂に入っていたのか?男との情事の前か…

何故か嫉妬の感情が芽生えた。
俺はこの女を殺す。
白いバスローブが紅く染まるのは快感だ。
…殺す前に顔を拝見するか?…

「女、顔を上げろ・・・おい、解らないのか?顔を上げろ」

女の震えは止まらない。
すすり泣き俯いたまま顔をあげようとはしない。
「チェ!」と、怒りが自然と湧き起こる

俺は髪の毛をむしり取るかの様に女を引っ張り上げ
強引に顔を見た。

恐怖に慄く表情は、いつ見ても気持ちがいいものだ!

だが、その顔は知っている顔。
私が恋して止まない娘。
大塚愛子さんの、悲痛な恐怖に歪んだ顔だ。
…何故だ!何故こんな所にいるんだ!…
心の中は混乱し、絶叫している。

私は思わず愛子さんを抱きしめてしまう。
愛子さんの震えは止まる事はない。

愛子さんは恐怖の余り体の自由を奪われているのか、
何の抵抗も示さない。
私の心が石田太郎に戻っていくのを感じた。

俺はこんなに愛子さんを苦しめている。
愛子さんの幸せをだけを祈っていた、俺。
今でも愛子さんの幸せを祈っている。

愛子さんだけが私の事を理解しくれた。
唯一私の事を想っていてくれた人を、
今、私が悲しませている。

…御免なさい!愛子さん。こんなに貴女を苦しめてしまって。
御免なさい!御免なさい!……

私は、愛子さんを抱擁しながら謝り続けていた。

……愛子さんを殺せない!殺すなんてできる訳が無い……

逃げよう、この場から逃げよう!
「誰にも殺しの現場を見られていない」
と、思えば済むことだ。

俺は愛子の身体から身を離した。

引き攣る様に泣いている愛子。
その、愛くるしい姿が、私を苦しめる。
後悔の念を起こさせる。

俺は、思わず愛子にそっとキスをした。
憧れの人と初めてのキス。

一体何が起こっているのか解らぬまま、
黙って受け入れる愛子。
見つめ合う二人。

「貴方は、・・・。この前会った、石田さんの親戚の方?」
と、愛子は声を出した。震える声だが、正確に聞こえた。

「・・・・」

「何故、こんな酷い事をするの?・・
優しい人だと想っていたのに!何故なの?」

泣きながら弱弱しい声ではあるが、私の耳に響いてくる。



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