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殺人ロボット(10)

10

「ふ〜ん、そうなの?優しかったのあの人?
私は話す事も無かったから知らないわ。
あの人、イケメンでは無いし、私は話す気も起こらなかったわ。」

「・・・、顔が良くても、心の冷たい人はいるわ。・・・
あの人は、心の温かい人だったわ。いつも私の事を想ってくれてた。
私、勇気が無くて、告白できなかった・・・。
でも、この手紙に石田さんが、
私の事を本気で想ってくれていた事が綴られているわ。
石田さん、・・・。」

囁く様に、呟く様に、独り言を云う様に愛子は言った。
今もなお、愛子の涙は頬を伝う。

「石田さん、何処に行ったのかしら?・・・
本当に、知ってはいないのですか?」
と、愛子は僕の瞳を見つめ静かに聞いてくる。
その瞳の奥に、愛子の石田への想いが垣間見える。

「太郎君が何処にいるのか、解らないが会ったら、愛子さんが
太郎君の事を、心配していた事をちゃんと伝えるよ」

「私も『石田さんを好きです』と伝えてください。」
と、愛子は恥じらう事も無く明確に告げた。

一瞬、私の身体に電流が流れるかの
感覚を覚えた。

「愛子、そんな事を言っていいの?貴方、社長から告白されたのでしょ!
社長を振っていいの?」

と、厚化粧女が、驚き真剣に云う。

…社長に告白された!あの爺さんにか?…
と、訝しい想いで
「今、社長に告白されたと、聞きましたが、
社長はずいぶんなお歳でしょう?」

「今の社長は、爺さんで無くて、その息子よ」

…息子?あの、女と見れば直ぐに手を出す、馬鹿息子か!
そんな人間を愛子さんが好きになる訳がない。
ここの厚化粧女なら解らないが。…

「愛子さんは、その息子さんと付き合っているのですか?」

「付き合ってなんかいません!あっちが付き纏ってくるのよ。
ストーカーみたいにシツコイの!」
と、今までの声では無く、興奮気味の声を出す。

「キッパリと、断った方が良いです。そんな男なら。」

「断ってはいるんですが、・・」
と、急に言葉が弱くなる。

「何かあるのですか?」

「いろいろあるのよ。大人の事情が!」
と、厚化粧女が口を挟む。

「大人の事情?・・・・」

「愛子のお父さん、先代の社長から借金しているのよ。
仕事も貰っているし、いろいろ有るのよ・・・」

と、云う厚化粧女。
…この女、愛子さんの友達を装いながら、
初めて会った私に、愛子さんの恥部を暴露する。
信用できない女だ…

「借金があるのですか?どれくらいですか?」
と、僕は思わず聞いてしまう。

「それほど、無いです」と声が小さい。

「そうですか。愛子さんも苦労が絶えませんね。」
と、言った時、愛子は僕の顔を真剣に見つめてくる。
何かを感じたのだろうか?

「愛子さん、愛子さんが嫌だと想う人とは付き合って欲しくないです。
愛子さんには、幸せになってもらいたいです。」
と、僕は率直な想いを愛子に言った。

…今の言葉、石田さんから聞いた事がある…

「ありがとうございます。本当に有り難う御座います」
と、同じ言葉を二度繰り返す愛子。

「愛子さん、連絡先の交換出来ないでしょうか?
太郎君と連絡が取れたら、貴女に伝えたいのですが、
良ければ教えていただけますか?」

「良いですよ。石田さんから連絡が入ったら必ず教えてくださいね。」
と、嬉しいそうに、連絡先を教えてくれた。

「困ったり、悩みがあったら電話してくださいね。」
と、言った時、

「加山さんは、石田さんと似てますね。
親類の方だからかな?
喋り方が同じみたいに感じます。
貴方もきっと優しい方なのですね」
と、嬉しい言葉を言ってくれる。

私に心が無いと想っていただけに
愛子の言葉に喜びを感じる僕だった。






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