佐々木俊尚『この国を蝕む「神話」解体 市民目線・テクノロジー否定・テロリストの物語化・反権力』
佐々木俊尚『この国を蝕む「神話」解体 市民目線・テクノロジー否定・テロリストの物語化・反権力』(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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おそらく日本には主体性というものがない。その典型が第二次世界大戦だった。東條英機はヒットラーやムッソリーニのような強権主義者ではなく、むしろ権力の分散に腐心するタイプの人だった。では誰が日本を戦争に駆り立てたか? 「それは空気である」と著者は言う。真珠湾攻撃に熱狂した日本中。多くの著名人も開戦を支持どころか賛美した。だから一億総責任なのに、終戦後は皆「軍部に騙された」と問題を転嫁する。マスコミに代表される、このような無責任な姿勢が如実に出ているのが、今のジャニーズ騒動だろう。そしてウクライナに停戦をしたり顔で諫言する島国の平和ボケ。
本当の弱者は誰か?というテーマも重要である。ジェンダー保護は確かに大切なテーマ。しかしそれが行き過ぎて、宣言だけで自らを女性とする男性が、女風呂や女子トイレに入ることへの女性側の困惑がなぜ無視されるのか? 「女は男より弱い」。体力などある意味ではそれは事実。しかし低収入で、結婚できていない中年男性が強者かと言えば、それも違う。誰が本当の弱者かは、ケースバイケースで判断されねばなるまい。木を見て森を見ず、明らかにバランスを失している。
テレビや新聞が力を失いつつあるのは、紛れもない事実。SNSの台頭が、マスコミ知識人の専門外領域の知的レベルの浅はかさを直ぐに指弾する世の中になった。その先に「炎上」という現象が見られるが、大騒ぎしているのはごく一部の輩。相手の意見をよく聞いて、自分と意見を戦わせるという姿勢がない。これだけ価値観が混沌とした現代には、お互いの価値観や立場を尊重しながら物申さねばならない。
かつての権力対庶民という構造は、それぞれ大きく変わった。権力の側も弱くなった。政治家だってあっという間に弱者に転落したり、大企業の経営層に独占されていた富も、今や起業家に拡散されたり分散している。それなのにマスコミは、未だに権力vs.反権力という構図の神話にとらわれるステレオタイプの物の見方しかできない。同様に野党の発言も然りである。左派が天皇陛下に政策を訴えたりという、憲法の精神を無視したアピールを打ったりする。コロナ禍では感染を防ぐ対策と、飲食業界を閉鎖に追い込まない政策が拮抗した。あちら立てれば、こちら立たないのが現代である。双方のバランスを考慮しながら、綱引きをすることが世界に求められている。