見出し画像

特許明細書で「乃至(ないし)」は用いないほうが良い?

ある時、とある翻訳者さんの訳文をチェックしていると、"from  A to B"のような表現(AとBには数値が入ります)が、「A乃至B」と訳されていたので、「AからB(A~B)」の表記に修正したら、

「乃至」には、「AからB」の意味があるので、このように訳しました

というような、修正に対するコメントがありました。その訳文では、明細書本文に出てくる数値範囲と、特許請求の範囲での、従属請求項で引用される請求項の範囲が「A乃至B」と訳されていたので、私は、誤訳とは言えないまでも、あまり一般的な表現ではないのではないか、と思いこのような判断をしたので、今回は改めて、「乃至」という表現について考えてみたいと思います。


「法令用語 乃至」という検索ワードでググってみると、上位にヒットしたのが

乃至「ないし」について(ハピネス行政書士事務所)

契約書翻訳での「乃至(ないし)」について(株式会社高橋翻訳事務所)

契約書における法令用語の使い方:「または」「もしくは」の違い、「その他」「その他の」の違いが分かりますか?(関口法律事務所)

などでした(極力、士業さんのブログなど、信用に足るサイトを調べて列挙しました)。


これらで共通して書かれていることは、

1.「乃至」は、一般的には「又は」の意味で用いられるが、法令用語では「~から~まで」という意味で用いられる

2.このような意味・用法の違いがあるため、トラブルや誤解の元となる可能性がある

3.故に、契約書などで「乃至」は極力使わないほうが良い

ということです(今回列挙できていないのですが、民法などの法律の条文でも、上記の理由から「乃至」は使われなくなった、という記載をどこかで見たことがあります)。


私個人の感覚の話となってしまいますが、「乃至」と聞いてパッと頭に浮かぶのは、一般的な「又は」の意味になるので、特許明細書で同じように「乃至」が出てくると、誤読・誤解の虞があるのではないかと思いました。


また、これは特許明細書特有の問題かもしれませんが、元の英文が

An exemplary range of Tm is from A to B, and C to D

のような場合、「乃至」を用いると

例示的なTmの範囲は、A乃至B、及びC乃至Dである。

のようになり、より読み辛いように感じます。普通に「例示的なTmの範囲は、A~B、及びC~Dである」としたほうが、読みやすく感じるのと、andの箇所にorが用いられていると(このような記載が曖昧なのかどうか、という議論の余地はあるかと思いますが)さらに読み辛く感じます。


上記で引用したブログ・ウェブサイトでも、「乃至は極力使わないほうが良い」と述べられているので、翻訳をする際にも、わざわざ範囲の例示を「A乃至B」のように訳す必要はないのかな、と思います。


余談ではありますが、このような規定をスタイルガイドで明記してもらえると、翻訳者とレビューワーとの間での「宗教戦争」も起こらなくて済むので、大変有難いのですけどね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?