【おすすめ本】児童福祉について学べる本格ミステリー『七つの海を照らす星』七河迦南
変わった職業が探偵役となるミステリーを紹介します。
もしお時間が無い方は目次から気になったところだけ読んで頂いても作品の事が分かるようになっております。
本書の紹介
七河迦南さんの18回鮎川哲也賞受賞作である「七つの海を照らす星」です。
児童養護施設の群像劇から浮かび上がる「大きな物語」様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。孤独な少女の心を支える“死から蘇った先輩”。非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。女の子が六人揃うと、いるはずのない“七人目”が囁く暗闇のトンネル……七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、“真実”の糸によってつながり、美しい円環を描いて、希望の物語となる。
舞台は児童養護施設、探偵役は児童相談所職員
この小説の一番のポイントは、児童養護施設という、日常ではあまり馴染みの無い場所が舞台という所です。
親の経済状況や病気、虐待などにより家庭に居れなくなった子供を預かる児童養護施設を舞台に、子供たちにまつわるちょっとしたナゾを解き明かしていく物語となります。
主人公は山合にある児童養護施設「七海学園」の保育士である北沢春奈。探偵役は児童相談所の職員の海王さんという人物。
児童相談所や児童養護施設というのはニュース等で名前は聞きますが、実際にはどんな場所なのかピンと来ないです。
ですが、この作品は、そんな児童養護施設の子供達や職員の様子、また児童養護施設同士や児童相談所の関わり等が丁寧に描かれているのでとても勉強になりました。
幻想的なナゾ、論理的な解決
本作で出てくるナゾは、一見するととても幻想的で不可思議なナゾが多いです。
「非常階段の行き止まりから消失した幻の転入生」「トンネルで聞こえてくる天使のような声」「自分を勇気づけてくれた死んだはずの少女」など、一味違うナゾがメインとなってきます。
小説の舞台も児童養護施設で、小学生から高校生くらいの登場人物がメインとなりますので、それも相まってジュブナイル的な要素が高いです。
しかし、伏線もしっかりとしていて、一見すると不可思議な現象に対してしっかりとロジックを立てて解明をしてくれるので、推理小説としても非常にしっかりとしています。
基本的には、主人公の児童養護施設の教師である北沢春奈が、問題を抱える児童たちに絡むナゾに関わり、その話を聞いた児童相談所職員の海王さんがそのナゾの解決をするという、安楽椅子探偵モノに近い形となっております。
児童福祉施設という舞台を活かしたミステリー
メインのナゾに関しては、一見在りえないような不可思議な事象に関して現実的な解決を見つけていく、という事なのですが、本作はただそれだけではなく、児童相談所が舞台という事をしっかりと活かしたナゾもあります。
特に秀逸なのが、本作の第4話の「夏期転住」です。このストーリーが第4回ミステリーズ!新人賞に応募された作品であり、本作の大元になった作品という事もあり、かなり面白い作品となっております。
折角なのでこの第4話だけ簡単にあらすじを説明します。
主人公である北沢春奈の元に、児童養護施設の卒業生の青年が訪ねてきて、ひょんな事から彼が小学生の頃に体験した不思議な出来事についての話を聞きます。
児童養護施設のイベントで山合の施設に合宿をした際に、自分と同い年ぐらいの少女と出会い、1週間ほどその少女と仲良く過ごしていたのですが、その少女を探す怪しい男が彼の前に現れます。
彼女はその男から逃げ隠れているようで、見つからないように過ごすのですが、ある日その男に見つかってしまい、少女は施設の非常階段に追い詰められてしまいます。
しかし、そのナゾの男と少年が、少女を追いかけて非常階段を登っていくと、忽然とその少女は消えてしまい、それどころか児童養護施設の職員たちもそんな少女は知らないと、物理的にだけではなく、皆の記憶の中からもその少女は消失してしまったというのです。
メインの話としては、消失トリックのナゾですが、そこに児童福祉法の仕組みや、それを取り巻く人たちの思惑なども絡み、非常に読み応えのある話となっています。
寂しくも、とても優しい気持ちになる読後感
児童養護施設を舞台にしているという事もあり、親や周りの人達に傷つけられた子供達も多く、必ずしも明るいお話という訳ではありません。
キャラクターとしては、主人公の北沢春奈を始め明るい性格の人も多く、探偵役の海王さんも非常に頼れて穏やかな性格なので、安心して読めるのですが、小説とは言え実際に児童養護施設にはこのような子供達がいるのかと考えると辛い気持ちにもなります。
ただ、この小説の登場人物は、子供たちは自分の不遇を乗り越えようと前向きに歩んでいて、大人達はそんな子供達をサポートしようと必死に努力をしています。
ミステリー小説としても勿論ですが、読み物としてもしっかりしていて、自分の見ている世界が広がるような作品となっています。
短編集なので、合間合間で読み進める事が出来るので、是非とも手に取って欲しいので是非読んでみてください!
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