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AM/PM

友人と名古屋の本屋に行きました。

久しぶりの大きな本屋に、思わず深呼吸。
落ち着きます。

話題の新刊、
スポーツ雑誌、
文芸、
洋書、
哲学、
音楽、

大きな本棚にぎっしり、
贅沢に並ぶ書物の森を、
気の赴くままに散策。

友人と語らいながら、
本を眺めて歩いているだけで、大満足。

さて、一通り回って、入口のレジに戻って来たとき、
掌の中には三冊の文庫本が。

いずれもずっと前から、
品ぞろえの良い本屋を訪れたら、
買おうと思っていた三冊の本なのですが。

結局どれも買いませんでした。

代わりに手に入れたのがこの一冊。

欲しいと思っている本は、きっといつか手に入る。
それは次の機会に。
今回は、友人が勧めてくれたこの一冊を。

『AM/PM』 Amelia Gray 訳・松田青子
河出書房新社

著者も訳者も、今まで知りませんでした。
ただ、本の薄さと奇妙な存在感が印象的。

なんとなく、
川崎のTSUTAYAで、
『コンビニ人間』 村田沙耶香
を買った時のことを思い出しました。

あの本も、カバーの絵が印象的で、
薄さにそぐわぬ存在感があったなあ。
誰かに貸したまま、行方不明です。

本をひらきましょう。

120の文章が収められています。

短いストーリー。
いや、もはやストーリー性もない、
思念、生活の断片も含まれています。

それぞれの文章にはタイトルもなく、
交互にあらわれるAMとPM、
そこに数字が付されているだけ。

そのあまりの簡潔さは、
一見、SNSに投稿されるような文章を思わせますし、
実際、同じ時代の文章だし、
通じるものはあるのでしょう。

しかし、これは単なるつぶやきではない。

けっして読みづらいわけではないのに、
スラスラと流して読める文章が一つもない。
呑み込もうとするとのどに詰まる。
そんな感覚。

意味のつかみづらい文、
謎の状況、
登場人物の突飛ともいえる言動。

そこに奇を衒う風はなく、
ましてやナンセンスではない。

意味を感じる。

そのような言い回しや、設定、
アクションになってしまうことに、
切実な必然性がある。
そんな文章だと思いました。

どこか希薄で、かけがえのない登場人物たち。
彼らはみな、他人とけっして分かり合えないことだけは、
分かり過ぎてしまっているのかもしれない。

そんな彼らが本の中で、
AMとPMを貫いて、
一つずつ積み重ねられていく数字によって、
ゆるやかにつながっている。

そのつながりが何とも言えず、愛しい。

あまり読んだことのないタイプの文章でしたが、おもしろかったです。
読み終わってからしばらく経って、
村上龍『空港にて』
と少し似ていたかもしれないと気が付きました。

他者と共有しきれない、
個人の感覚(願い)を描いているところなどが。

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