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blossom in the dark. 花は暗闇の中で——

By Chivalries as tiny,
A Blossom, or a Book,
The seeds of smiles are planted —
Which blossom in the dark.

小さな騎士道
一輪の花
または一冊の本で、
笑顔の種は蒔かれる
暗闇の中で
その花は咲く


クリスマスっぽい詩を翻訳しよう…と思っていたのですが、事情があって今回はこの詩を選びました。


Byのあとにつづく3つのものによって、「笑顔の種」が植えられる、とあります。

本と花は単数で、騎士道は複数ですが、ここではその違いよりも共通する点に注目してみましょう。
騎士道は、as tiny(=小さな)が付くことで、花、本、と同列に語れる大きさのものとなり、
A Blossomとa Bookも、これだけではただ一輪、一冊、ということを意味するだけですが、前にas tiny(=小さな)があることで、その影響として、たった一輪の花、たった一冊の本が…というニュアンスが加わり、あらためて小さきものとしてその存在感が私たちの胸により切実に迫ってくるようになります。

これと対になる表現であることを考えると、
The seeds of smiles(=笑顔の種)のほうは、本当に数がいっぱい、溢れんばかりの、といったイメージになりますね。

「小さなもの」が、私たちの人生に本当にたくさんのものを、花を、もたらしてくれる。

それが花なら、受け取った瞬間に笑顔になる。花瓶に入れて部屋に飾る。部屋が、いい匂いでいっぱいになる。水をかえるのがちょっと面倒だとか、そんな気持ちも含めて、花を愛でる時間がそこから始まる。

本なら、もらってもすぐには読み始めないかもしれない。でもいつかページを開けば、言葉が、物語が、心に沁み込んでくる。そして夜があけた次の日には、感じ方が、現実の行動が、昨日までとどこか違っている。

ところで、chivalry(騎士道)はどうか。というより、そもそも、騎士道とはなんでしょうか。

「小さい子と、女の子にやさしくすること」

また、「そのような精神によってなされた行い」のことではないでしょうか。

どうして一般的な騎士道について何も知らない僕がこんなことを考えたのかというと、騎士道について考えていたら、自分の内にあるこの言葉がふと思い浮かんで、これって騎士道っぽいなあ…と思ったからです。
これは幼いころ、両親に言われた言葉でした。繰り返し教えられた、というのではなく、むしろ僕の記憶では幼いころに、たった一回ある場所で言われただけなのですが、それでも言われた場所まで思い出せるほど、なぜかよく覚えているのです。

少し、脱線してしまったでしょうか。
しかし、小さな贈り物が最後に残していくのは、それをもらった思い出、それをくれた人の顔であるというのは、真実であるように思えました。

そして、
それを思い出すのは、ときめく今、ではなく。
いつか、何も見えない夜がきて、
花の姿も、
本の文字も読めなくなってしまったときに、
そっと、花を咲かせて、
人の心に灯りをともしてくれる。

そういうものかもしれません。


最後に。

僕はいま、小さなものたちを「贈り物」だといいました。
もとの英語の詩には書いてありません。
しかし、
種を植えるのが、本や花というのは考えてみればおかしいですし、
そこは比喩として納得するにしても、騎士道(精神、行い)はやはり人を想わせます。
自分の行いで自分が笑顔になるのは変ですから、
騎士道的な行いは「なされた」もの、
つまり花や本も同じく、
これらはみんな贈り物だろう、と考えるゆえんです。
そして、それならやはり、贈った誰か(人)がいる…

この、
直接そう書いているわけではないのに、
読んでいると、不思議と人に思いを馳せてしまうのが、
この小さな詩の大きな魅力であり、

その魅力に惹かれて、
僕は今回、ある人を偲ぶために、この詩を選んで訳しました。

いつも笑顔で、
花が好きな人だったので、
二つの言葉が入ったこの詩をおくります。

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