The Poets light but Lamps —
The Poets light but Lamps —
Themselves — go out —
The Wicks they stimulate —
If vital Light
Inhere as do the Suns —
Each Age a Lens
Disseminating their
Circumference —
詩人はランプに火をともすだけ
自らは立ち去る
詩人はロウソクの芯に生命をふきこむだけ
もしその光が
恒星のように自ら光るものならば
時代を生きる人々が
自らのレンズで光をまき
世界を明るくしてくれるだろう
ディキンソンの思う詩人、あるいは詩とはどういうものかが語られた作品。
ロウソクはすでにそこにある。
しかし、火がついていない状態では、暗闇の中、人々はロウソクがあること自体、知ることができない。
そこで詩人が、ロウソクの存在を覚えていて、あるいは暗闇の中でもロウソクの存在を感じて、言葉にする。
するとロウソクに灯がともり、人々にも見えるようになる。人はその光に美しさを感じたり、心を温められもする。
この詩を読んでいると、そんなイメージが浮かんできました。
詩人とは、
すでにそこにあるけれど目には見えないもの(真実)を、
言葉によって人々の目に明らかにする存在。
こんなふうに言えるかもしれません。
1連の3行目。
これは文法的に分かりやすい順番に戻すと、
They stimulate the Wicks.
they=the poets であり、
行為も、1行目をなぞっていると捉えました。
1行目=詩人はランプに火をともす
3行目=詩人はロウソクを活気づける
というわけですが、
もちろん全く同じというわけではなく、
3行目では意味が深まっています。
詩人はランプに火をともすだけ
1行目でこれだけを言われても、印象的でこそあれ、
これが何を意味しているのか、はっきりとは分かりません。
しかし、次に
Themselves — go out —
詩人自らは立ち去る
があり、
3行目に至ることで、
それこそ、おぼろげな闇にロウソクの火がパッとついたように、
意味が鮮明になってきます。
浮かび上がってくるのは、
何か美しいものをゼロから創造しているのではなく、
世界にすでに存在している美しいものを発見しているだけだ、
という謙虚かつ真摯な詩人観。
というわけで、
1行目と3行目の内容的なつながりから考えて、
They stimulate but the Wicks.
詩人はロウソクの芯に生命をふきこむだけ
と、butを補って訳しました。
また、stimulateは刺激する、活気づけるといった意味ですが、
詩人がロウソクに火をともす方法といえば、それはやはり言葉だと思うので、
言葉で火をつけるというニュアンスを出したい。
そこで、
言葉→口から息に乗って出る→吹き込む、としてみました。
また、
2連目のSunsは「太陽」とも訳せそうです。
むしろ、ロウソクの「火」のイメージとのつながりでいえば、
太陽で訳したほうが統一感があってよい気がします。
しかし、ここはあえて「恒星」にすることで宇宙の暗さも同時にイメージできるような訳にしました。
もし、詩人がいなかったら。
ロウソクの火にあかりをともす人がいなくなってしまったら。
誰もが忙しい日々に追われ、
大切なことを忘れてしまったら。
その世界はやはり、暗いのだと僕は思います。
その負のイメージも読めるようにしたかった。
太陽というと昼間に照りつけているイメージを抱きやすいかと思い、
(じっさい今や夏でそのイメージが強化されているところです)
恒星の方が夜空や宇宙空間をイメージしてもらえるかも、と考えた次第です。
最後に、
2連のラスト3行はどう訳すか、かなり悩みました。
その悩みを書いていくと長くなりそうなので、
というかすでに長くなっているので、
1点だけ。
そもそも、
この詩に「人々」などという言葉は出てきません。
が、しかし、
僕のイメージにはすでに人々がいる…
どうしたものか。
こういう読み方は少しズルいのかもしれないと恐縮しつつも、
なんとか人々を訳文に登場させられる口実はないものか、
もう一度詩を読むと、
a Lens
そこで閃きました。
これは普通に考えるとただのレンズのことですが、
眼球=人の眼、
と、取ることも出来ないだろうか、と!
それに、
Each Age、各時代というのも、
ここでは時代によって詩の評価が変わる、といった意味はなさそうですし、
とすると、
詩を評価するのは時代を生きる人々だ、といっても間違いにはならないでしょう。
詩人が言葉でロウソクに光をともす。
言葉になれば、
それは誰かが、他の誰かに伝えることができる。
そのつながりは光の消えたロウソクのように目に見えないけれど、
たしかに存在して、
きっと世界を明るくしてくれるでしょう。
『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR
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