そうだ、映画の話をしよう⑬‐リリーのすべて
今回ご紹介する映画は、伝記映画に分類される。
ある一人の人物の生涯にスポットを当てた作品だ。
タイトル:リリーのすべて
公開:2016年(日本)
主演:エディ・レッドメイン
監督: トム・フーパー
本作は世界で初めて性別適合手術を受けた「リリー・エルベ」の生涯を描いたものである。
なお、作中の展開は一部脚色されており史実とは異なる部分が存在する。
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U-NEXT、アマプラでは見放題配信中のため手軽に見ることができるのではないだろうか。
なお、これまで私が紹介してきた作品たちのように爆発もなければガンアクションも殴り合いもほぼない。
伝記というだけあって淡々とした雰囲気の作品である。
ここから先はネタバレを含むので自己責任にてお願いしたい。
まず、本作の話をするうえでリリー・エルベについて簡単に説明しておく。
彼女はデンマーク生まれの画家であり、出生時の名前は「アイナー・ヴィーグナー」という。
1882年に生まれ、1904年にはのちに最大の理解者となるゲルタ・ヴィーグナーと結婚する。妻のゲルタも画家であり、彼女の作品のモデルとしてストッキングとハイヒールを身に着けたことがきっかけでアイナーは自身の中にある女性としての心を意識するようになる。
女性として、母となることを求めたアイナーことリリーは5度の性別適合手術で卵巣、子宮を移植している。
手術自体は成功したものの拒絶反応のため1931年に亡くなった。
なお、リリーは法的に性別変更がなされている。
さて、正直初めて見たときは終始重たい雰囲気の漂う作品だと感じた。
というのも、アイナーが女性としての自分を意識することころから始まる本作は、常に彼女自身が抱えていた葛藤や罪悪感のようなものをにおわせている。
途中、身体と心の乖離に悩む彼女(彼)を精神疾患と診断するシーンもあり、見ていて苦しくなった。当時の考え方からすれば当然の診断であるとわかりつつも、不理解、不寛容な社会に憤りすら感じる。
内容からもわかる通り、笑えるシーンは全くない。
ただ、ラストシーンで拒絶反応から衰弱しつつも穏やかに過ごすリリーを見て泣きたくなった。
彼女が求めたのは「母」となることである。そのために男性器の摘出だけではなく、拒絶反応の激しい卵巣・子宮の移植手術も受けている。
この点は史実も映画も変わりない、リリーの最大の目標だ。
妊娠、出産こそ叶わなかったものの、母になりえる身体を手に入れた彼女はどんな気持ちでこの世を去ったのだろうか。
希望は持てたのだろうか、と想像して切なくなる作品だ。
彼女を見ていると最近何かと話題になる自称トランス女性たちはこの苦悩を知っているのか?と思わざるを得ない。
(※なお、本当に心身の性別の乖離で悩む人はこの限りではない)
いっぺん、リリーの立場になってみ?と思う。
何度も申し上げるが、本作は楽しい作品ではない。ワクワクしてみるものではない。
けれど多様性が重視される現在、彼女について映画を通してでも知ることは決して無駄ではないと思い、おすすめしたい作品である。