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2021年に読んだ本たち

 今年は小説ばかり読んでいた。自分は専攻の内容に関わる専門書とかを読むべきである。しかし、モチベーションがいまいち上がらなかったので仕方ない。

 今年読んだ中で特に良かった小説たちについて少しずつ書いておこうと思う。

息吹

 「息吹」はSFの短編集である。収録されているのは珠玉の作品たちで、どれを読んでも面白い。

 特にオススメしたいのが「偽りのない事実、偽りのない気持ち」。作中世界では、各個人の体験(視覚・聴覚の情報)を全て記録し、思い出したくなった時にいつでも呼び出せる技術が実現する。そんな技術によって、主人公は大きな気づきを得る……。記憶の拡張が進む未来の物語と、生まれてはじめて文字を学ぶティヴ族の少年の物語とが交互に語られ、味わい深い。
 これを読めば誰でも、自分自身を見つめる目が変わってしまうのではないかと思う。バラク・オバマ氏は「息吹」に以下のようなコメントを寄せている。

人間への理解が深まる。最上のサイエンスフィクション。

「息吹」の表紙より

 人間への理解が深まる。本当にその通りである。

 ところで、「息吹」の一番最初に納められている「商人と錬金術師の門」の中で、バシャラートの工房に気になる物が置いてある。

まっすぐ伸ばせば地平線まで届きそうな長さの銅線でぐるぐる巻きにされた金属棒、水銀の上に浮かぶ花崗岩の円い石板に据えられた鏡……。

「商人と錬金術師の門」より

 前者のぐるぐる巻はコイルの類だろう。問題は後者である。これはマイケルソン干渉計ではないだろうか?(wikipediaによれば、マイケルソン・モーリーの実験では花崗岩ではなく大理石の石板が使われていたようではあるが)そしてこれがマイケルソン干渉計だとして、それに気づいている読者はどのくらいいるのだろうか…?
 「歳月の門」が相対性理論と矛盾していないことを示すために置いてあるのだろうけども、細部にまで意味が与えられていて感心してしまった……。

10月は黄昏の国

 理系だからといってSFばかり読んでいた自分に、描写を味わう楽しみ、「文学的な読み方」を教えてくれたのがレイ・ブラッドベリである。
 レイ・ブラッドベリは「華氏451度」で有名なSF作家であるが、「10月は黄昏の国」に納められているのはSFではなく、幻想ファンタジー?的な短編たちである。……もともとブラッドベリ氏はSF作品でもそんなにハードなSFをやらないのだが、とにかく描写が美しい。味わいながら少しずつ読んだ。

神の指のあとは、錠のおりたガラスの陳列棚に飾られた、一ダースからの、先端がするどくとがった鉛筆の上に、とけかけた雪片のように残っていた。とけきってしまわぬためには、かならず、かならずともに、手を触れぬように気をつけなければならぬ。

「びっくり箱」より

 収録作品の中では「みずうみ」「使者」「びっくり箱」がとくに気に入った。

恋文の技術

 ラブレターを書くための指南書ではない。森見登美彦氏のオモシロ小説である。

 この小説についてはそんなに書いておくこともない……そもそもこれを読んだのが本当に2021年だったのか定かではない。が、とても良い小説であることは確かである。登美彦氏の小説は色々読んだが、今のところ「恋文の技術」が一番人に勧めやすい作品だと思っている。

おわりに

 ひきこもり的生活が推奨されはじめる前は、ほとんど本など読んでこなかった。実家にはあんなに沢山本が置いてあったのに、もったいないことをしたものだ……と最近よく感じる。「あの時の分を取り返すべくもっと読まねば!」と焦ってさえいるほどなので、来年も書店を沢山ウロウロする所存である。

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