無極而太極陰陽茶
サイクリングで小腹を空かせ、たまには小洒落た喫茶店などへ入ってみる。チリンチリン…
古めかしい木のテーブルが並び、珈琲や紅茶の香りが漂い、ショーウィンドウでケーキを選べる。うん、いい感じ。時間帯的に、客は少ない。慣れない客であるおれが忍び込むにはちょうどいい雰囲気だ。
「いらっしゃいませ。」
少し奥の席に座り、コップの水を舐め舐め、メニューを矯めつ眇めつ。はてさて、何にするか。いまいちアイディアが浮かばない。
珈琲か、紅茶か。ジュースはちと寒い。暖かいものがいい。というか今日割と寒いんだから、氷水を出すのもどうよ。そんな文句つけるのは奥ゆかしくないしめんどいからしない。うーん、ならばむしろ近所のインドカレー屋へ行って、スパイスカレーとホットチャイを注文すべきか。いや、昼飯はもう食べたし。何も注文せずに出るってのもアレだ。それは明日の昼にまわすとして、今どうするかだ。
ケーキはあの、なんか…チョコのやつ。これに合うであろうドリンクを選択せよ。えーと、ベトナムコーヒー…は確か、あの練乳の入ってる独特のやつだ。飲んだことある。悪くはないが、今はそういう感覚じゃない。チョコケーキに合うかどうかだ。肉体に何が欲しいか聞き、耳を傾けろ。それが答えだ。おれは靴と靴下を脱ぎ、椅子にあぐらを組む。だいたい足元が寒いので暖めねばならんし。テーブルの上にメニューを開き、軽く目を閉じる。ゆっくりと鼻で呼吸する。
…ゼン…セイシンテキ…チャドー…宇宙と一つになる…精神と肉体の合一…ウニオ・ミスティカ…神…ヘルメス…光…龍…オム・マニ・ペメ・フム…無………
すっ、と目を薄く開ける。目に飛び込んで来た文字は、こうだ。
「鴛鴦茶(ユンヨンチャ)」
香港名物。珈琲と紅茶を混ぜたものだ。その手があったか。おれはアハ体験をしたので、記念にそれを注文することにした。
【続かない】