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古今東西、画家たちの愛猫の物語『猫を描く』多胡吉郎

映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』や、歌川国芳の猫の絵なんかを見に行っていたときに、知り合いにおすすめされた本。多胡さんの本は、本当に古今東西、要所要所をピックアップして絵画やイラスト、浮世絵なんかに出てくる猫を紹介してくれるステキな本です。

はじまりは西洋絵画。一般的な西洋絵画に猫の絵がなぜ少ないのか。それは、キリスト教の世界では猫は不吉&裏切りの象徴。「最後の晩餐」に猫が描かれているのは、キリストがユダに裏切られることの象徴なのだとか。

でも、でも。世界には猫好きがたくさんいます。古くからある民間信仰の「猫=多産」の象徴のイメージが、ルネサンスの人間復興の頃には、キリスト教の絵画の世界にも紛れ込み、マリア様の「受胎告知」(結婚前なのに、天使にいきなり「あなたは子供をさずかりました」って告げられる)の絵に猫が紛れ込むなったとか。なんだかトロイの木馬っぽいです。

猫のイラストで有名なルイス・ウェインは、世の中がイラストから写真に移り変わっていく時代に、人間のような猫たちを描いて一世を風靡します。彼については全然知らなかったので、映画の知識をこの本で補強できてありがたかったです。映画の10倍、猫視点だったのもうれしいし。

日本については、やっぱり歌川国芳とか浮世絵がメイン。彼の描く不思議な猫の絵が、実は西洋画にヒントを得ていたりするとか、そういうつながりがおもしろいです。絵とか美術品は海を超えて、移動して影響しあうんですね。

他にも広重の猫、韓国の伝統画の猫、夏目漱石の猫などなど。とにかく、猫についての雑学よりちゃんとした知識で、芸術論よりもわかりやすくておもしろいエピソードが満載のこの本。しかも、文章がとても洒落ていて楽しいんです。私の理想の晩年はここに登場する「猫姫」です。

この1冊が手元にあれば、エッセイみたいに気軽に読めるし、オールカラーでいろんな絵と猫が見れるし、なにより猫と美術や文学に関する基礎知識がほどよい感じでわかるのがうれしい。これがソフトカバーの値段で手に入るって、実質無料。ちょっとしたプレゼントにもおすすめです。


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