おもしろすぎて止まらない。高野秀行『アヘン王国潜入記』
中国とビルマの複雑な政治の空白地帯ワ州。
そして、そこで生産されるアヘン。
そう聞くと、すごくおどろおどろしいイメージなのに、内容はとても牧歌的な農村でのアヘン作り体験記。
マラリヤにかかったり、シラミにたかられたり、最後にはアヘン中毒になったり。著者の体当たりはアヘンの種まきから収穫まで続く。
ワ語で日本は、ホー・ローム=「水中国」
ワの人たちは、日本なんて知らない。
自分たちの国ビルマのことも、よく知らない。
でも、「カクメイ」のために若い男や若い娘が兵隊にとられていく。
村には未亡人が多い。
牧歌的な村の中の理不尽な政治。
そんな悲喜こもごもの体験記が、小気味よい文章で綴られているのだから、おもしろくないわけがない。
でも、著者あとがきによれば、日本ではあちこちの出版社をまわったけれど、断られ続け、今は亡き草思社が最後に出してくれたのだそうだ。
しかし、この本の英語版を出版したら、評判は上々。ジャパン・タイムスや、デイリー・ヨミウリ、シンガポールのI-Sマガジン社、サウス・チャイナ・モーニング・ポストなどなど。珍しいところでは、カリフォルニア麻薬管理協会に推薦図書に認定されてびっくりとか。
本書をいちばん評価してくれたのはタイ・バンコク在住の各国のジャーナリストや作家たちだし、本書を読んで真っ先にメールをよこしたのは、当時、米タイム誌バンコク支局にいたイギリス人ジャーナリストだったとか。
著者がビルマを離れた後、著者とワ州を仲介したサイ・パオは暗殺され、著者とワ州の縁はきれてしまい、ワ州の反政府ゲリラ軍は親政府武装勢力となってしまった。政治情勢が変化すれば、犠牲になるのは地元の人々。ケシ畑はもうなくなったとされるが、本当のところもわからない。