名誉と体面の明治。『華族誕生』浅見雅男
最初の出版は、1994年。私が読んだのは、その文庫版です。
明治政府というと、江戸時代までのものを一新したというイメージが強いですが、詳しくみていくと綿々とつづく家柄文化をかいま見れる、とてもおもしろい本でした。
「華族」というのは、漠然と日本版「貴族」と思っていました。天皇家とその親戚(?)みたいな。でも、明治2(1869)年にできて、敗戦、そして現行憲法の発効と同時に消滅した制度だそうです。
明治維新の後、誰が華族になり、「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」の爵位はどのように決められたのか。爵位をめぐって、当時、いろんな人間模様が渦巻いた明治の日本。たくさんのエピソードを紹介しつつ、「華族」という特権制度がどうやってできたかを説明したのがこの本です。
前半は、興味のある人でなければ退屈かもしれません。講談社学術文庫だけに、ちょっと専門的な文章だし。私も、最初は少し退屈でしたが、意外な事実というか、その業界では暗黙の了解らしく、表面にならない事などもわかるので予想外の収穫もありました。
とくに、明治になってからの勝海舟については、全く知識がなかったので、おもしろかったです。大昔の中学校社会の先生が、「日本の武士が、自分の利益より国益を優先させたから明治維新が成功した」と自慢するのを聞いて、なんか、うそっぽいなーと思っていたので、この本の内容には納得しかありません。
文章は淡々としていますが、中身は読み進めれば進めるほど、ちょっと腹が立ってきます。家柄だけが自慢で、自分で何もしようとしない人たち。そして、そういう宮中文化が昭和の敗戦まで延々と続いていたことへの驚き。
明治維新とその前後の戦争で犬死にしたり(させられたり)、新しい社会に裸同然で放り出された人たちを、一体何だと思ってるんだと叫びたくなります。もちろん、やんごとない人々は、下々なんか虫けら同然と思っていたんです。身分社会とか家柄制度のある社会って、そういうものですから。
現代に生まれてよかったと思える一冊。読んでおいて、損はありません。