小気味よいポップな映画&小説批評。『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』北村紗衣
北村先生の文章はおもしろいから好きです。そもそも、タイトルからして「フェミニストの鍵貸します」とか、「時をかけるヒロインたち」とか、読む前からわくわくするので。なにかのきっかけで目についたら、必ず読んでいます。
この本は、北村先生が雑誌やブログのために書いていたものばかりなので、他の本に比べて新しい作品が多くて読みやすいです。そして、北村先生の個人的な好みがストレートに出ているのもいいです。あと、「自分は友だちがいない」とか「戦うことに躊躇ない」と言い切れる性格はすごくうらやましいです。
もとい。この本は大好きなゼンデイヤの話で始まるし、『アナと雪の女王2』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』についての文章もおもしろかったので、映画にも興味がわきました。この本で一番びっくりしたのは、スター・ウオーズについてでしょうか。北村先生がファンだったというのもちょっと驚きで(すみません)、そのファンダムについても話が濃かった。
『アナ雪』のエルサに「ガールフレンドを」というファンの運動、『スター・ウオーズ』の続編にあれこれ意見するファンダム、そして『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章への取り直し運動など、シリーズでファンが多い作品ではファンが製作者に意見をする話を聞きます。こういう運動や苦情は最近のことだと思っていたら、実は英語圏では18世紀からの長い伝統があるなんてびっくり。18世紀って、日本でいうと江戸時代!?
あと、映画や小説ではないですが、北村先生のウィキペディアの話もいつもおもしろいです。この本での話題は、イギリス王室の結婚式のウエディングドレスについて。歴史的な結婚式のウェディングドレスをウィキペディアに掲載するかどうかを議論した顛末の、とほほな感じ。『スター・ウオーズ』にしろウィキペディアにしろ、世の中の男性多数の分野では、活動にも男性特有のバイアスがあることに改めて気付かされます。
そして、女性がしんどいのと同様に、男性もまたバイアスがあるとしんどいという視点。当たり前のことなのにうっかりしがちなので、北村先生に指摘されると改めて「なるほど」納得だし、できればいろんな人が自由に振る舞えるステージがあるといいなと思います。
古典的な作品の話でおもしろかったのは、結婚について。現代的な感覚で読むと理解しにくい部分の解説もうれしいです。例えば、『ロミオとジュリエット』で女性のジュリエットからがロミオにプロポーズするのは、セックスするには結婚していないといけないから。しかも、結婚は双方の名誉のためだったり、家の存続のためのものなので。
近代以前でも現代でも、経済力のない男女にとって、結婚はビジネスとしての側面が強いという話はわかりみが深すぎます。恋愛して、結婚して、家をつくるという形式がかならずしも自由でないのは、そういう側面が否定できない。社会の中で生きていくために、結婚する。自由でいたいから、結婚しない。どっちもあまり好きじゃない考え方です。私なら、「○○しろ!」と強制されない、できれば自分がいくつかの選択肢から選べる人生を送りたいです。
世の中にはいろんな作品があるし、これからもたくさんの作品が作り出されると思います。私は新しいことに挑戦する女性の主人公とか、戦闘能力が高い女性の登場人物が大好きなので、型通りでない男性や女性が活躍する映画や小説、ドラマが増えてくれるのは大歓迎。そういう意味で、北村先生のフェミニズム批評も大好きだし、こういう批評が影響あるものになってくれるとうれしいです。