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見えない日本の留学日記。『わが盲想』モハメド・オマル・アブディン


19歳のとき、スーダンからやってきた目の見えない青年モハメドの日本体験記。内戦で大学が閉鎖された状況を打開するため・・・というより、新しい道を探すために、日本の鍼灸学校へやって来たというから驚きです。

それにしても、日本語と点字と鍼灸の知識と。日本に来るだけでも大変なのに、来てからどれだけたくさんの事を勉強しなければならないのか。きっとモハメドは、とても優秀だったのだろうけれど、この本の彼の文体は優秀を通り越して、ただただおもしろいです。

彼の文章のおかげで、日本などの先進国には障害者のための設備やノウハウがたくさんあって、普段私が知らないだけだということを教えてくれます。そういう便利なサービスや道具は、名前も知らない先人たちの苦労のおかげなんですね。

全部おもしろかったけど、特に印象に残ったのは、2つ。1つは、日本行きを反対する父親を説得する、母の方法です。失業中の父に代わって働いている彼女は、直接何も言いません。息子のパスポート取得のために月給の3分の1を静かに出し、父の友達の2人に頼んで説得してもらえと、モハメドにアドバイスします。

そして、モハメドが頼むと、父の友人たちは遠い道のりをやってきて、父を説得してくれるんです。男尊女卑といえばそれまでですが、父の面子を大事にしつつ、父の性格を熟知した母の知恵が素敵です。そして、友人を大事にする素敵な人間関係。スーダンならではだなあと感心しました。

もう一つは、モハメドと歩行訓練師の大槻さんとの話。日本に歩行訓練師という専門職があるのをこの本で初めて知ったのだけれど、歩行訓練してくれるだけでなく、身障者のためのプロフェッショナルだということに驚きました。無知な私は、最初に「歩行訓練師」と聞いて、障害者をサポートする、介助ボランティアくらいにしか想像できませんでした。

でも大槻さんは、日本の白い杖の使い方を教えてくれただけでなく、目の見えないモハメドに3日もかけて靴紐の結び方を教えてくれるんです。目が見えないプライドのせいで、生まれてから一度も靴紐を結んだことがなかったモハメド。それをちゃんとわかって3日かけて教えてくれた大槻さん。すごいなあと思います。目が見えない人を訓練するノウハウ、専門知識、そして人柄。どれが欠けてもダメな仕事ですよね。プロフェッショナル!

そして、福井の盲学校では周囲をあたたかな人たちに囲まれたのを始め、現在も多方面におもしろい人達、優しい人達に囲まれている。これは、やっぱりモハメドさんの人柄なんだろうなと思う。

日本に来てずっとラジオで野球中継を聞いていたら、見たこともない(!?)広島カープのファンになったとか本当に驚く記述ばかり。日本にはいろんな人たちがいるけれど、それぞれの世界で生きていることを教えてくれる本書。本当におすすめです。


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