マガジンのカバー画像

歳時記と落語

67
旧暦と二十四節気に基づいて、落語を紹介しています。2020年4月から語り直していきたいと思います。三代目桂米朝の『米朝ばなし』(講談社文庫)をイメージして、米朝師匠風の語り口調で…
運営しているクリエイター

#落語

【歳時記と落語】上巳

旧暦の3月3日は「上巳」です。今の暦に切り替わるまでは、大体この「上巳」の日に「桃の節句」、つまり「雛祭り」をしてたんです。「上巳」が3日からずれる場合も、「雛祭り」は3日です。 2021年は4月14日が上巳です。 古くから、この「上巳」は川に入り禊をすると風習がありました。これが人形に穢れを移して流すという風に変わり、「流し雛」になりました。「流し雛」は『源氏物語』にも登場しております。これがやがて形を変えて、江戸時代には今の「雛祭り」の形になりました。 また、禊の際

【歳時記と落語】初午

2021年3月23日は、旧暦2月初午の日にあたります。 実はこの日と決まった話があります。 「明烏」です。 落語にはよく道楽息子が登場し、親旦那を心配させています。しかし、かたけりゃええのかというと、そういうわけにはいかず、これはこれでまた心配なんですな。 日向屋半兵衛のせがれ時次郎、部屋にこもって一日中本を読んでいるという有様で、悪所とは無縁の堅物でございます。表に出るというと信心ごと。そんなことでは、世間つき合いにも差し支えると、親旦那は、「遊び人」の源兵衛と多助に

【歳時記と落語】春分

「春分」は、大体3月20ごろです。この、春分を中日とする一週間がお彼岸ですな。 お彼岸というと、「ぼたもち」がつきもんですな。漢字で書くと「牡丹餅」です。「おはぎ」という言い方もありますが、あれは漢字で書くと「御萩」となります。 大体「ぼたもち」はこしあん、「おはぎ」は粒あんを使って作りますが、まあ大体同じもんです。「牡丹」は春の花で、「萩」は秋の花ですな。季節によって呼び名がかわるんです。夏は「夜船」、冬は「北窓」と言います。 また、米粒が残らない餅状のもんは「皆殺し」

【歳時記と落語】春場所

大阪で春の訪れを知らせるもんといいますと、今は三月半ばの大相撲春場所も一つの風物として馴染み深いもんになってますな。 今年は残念ながら、コロナ禍で両国開催となりました。 相撲は今は一場所15日間で六場所、年間90日の本場所ですが、昔は「一年を二十日で暮らすよい男」てなことをいいました。 大坂相撲、江戸相撲、昔は別々やったんですが、どっちも一場所十日で春と秋の二場所やったそうです。もちろん、今も合間に巡業がありますように、昔は「花相撲」と言いましたが、地方興行はありました

【歳時記と落語】初天神

大阪の人間というのは、なんや神さんのことを友達みたいに言います。「えべっさん」やとか「だいぶっつぁん」やとかね。菅原道真公も「天神さん」と親しみを込めて呼んでます。 この天神さんの祭礼は、毎月25日におこなわれます。今は当然新暦でやってますが、昔はもちろん旧暦の二十五日でした。なんでも天神さんこと、菅原道真さんはお生まれになったのが6月25日、太宰府に流されなさったのが1月25日、お亡くなりになったのんが2ン月の25日やそうで、25日づくしということでこの日に祭礼を行なうよ

【歳時記と落語】啓蟄

2021年3月5日は「啓蟄」です。「驚蟄」とも書きます。といいますか、実は二十四節気を使う日本以外はみな「驚蟄」です。漢の時代に皇帝の名を避けて「驚蟄」というようになったんが、唐の頃に一時「啓蟄」に戻ったんやそうで。日本がちょうどその頃の暦を取り入れたらしんですな。その後で唐はまた「驚蟄」にして、他の国はみなそれになろうた。ところが日本だけは持って帰ってきた唐の暦を元にし続けたんで、今では日本だけが「啓蟄」というんやとか。 この「啓蟄」、「蟄虫啓戸」ともいいまして、冬篭りを

【歳時記と落語】小正月・元宵・藪入り

旧暦の1月15日は「小正月」ですな。2021年は2月26日に当たります。 昔はこの日までが「松の内」とされました。注連縄やら書初めやらを燃やす「左義長」が行なわれるんもこの日です。「左義長」は地域によっては「どんと」「とんど」とも言いますな。 中国でもこの日は、「元宵節」というお祭りです。昔の暦は月の満ち欠けをもとにしてしておりますのんで、まあこの日は必ず大体満月ということになりますな。それになぞらえて、この日は「湯円」という団子を食べます。胡桃やゴマの餡をもち米の粉で作っ

【歳時記と落語】雨水、旅券の日

2021年2月18日は二十四節気の「雨水」でした。さて、この「雨水」は、雪が雨に変わる、という目安です。 今年は、たまたま七草とかぶったんで、先にそっちを投稿しましたが、実際にはなかなか温かくなりません。寒いと出歩こうという気にもなりまへんわな。 というわけで、出歩くと言うと、20日は「旅券の日」やそうで、こっちの話をさせていただきたいと思います。明治11(1878)年のこの日に「海外旅券規則」が制定され「旅券」つまり「パスポートというものが正式にできたんです。 パスポ

【歳時記と落語】七草

2021年2月18日は旧暦の1月7日です。五節句のひとつ「人日」にあたります。「人日」というのは妙な名前ですが、中国の古い書物には「一雞、二狗、三豬、四羊、五牛、六馬、七人、八穀」とあり、1月1日に鶏、2日に犬、3日に豚、4日に羊、5日に牛、6日に馬、7日に人、八日に穀物が生まれたという神話があるんやそうです 古代中国では、この日に七菜羹や七菜粥、及第粥を食べたといいます。それが日本に伝わって、七草粥になったんです。 私は、旧暦に合わせて七草粥を毎年作るんで、フリーズドラ

【歳時記と落語】旧正月・春節

だいたい、立春の前後三週間のうちに、旧暦の一月一日、つまり「旧正月」がやってきます。2021年は2月12日です。 明治になって新暦を使うようになっても、古い暦の習慣はしばらくは残ってましたが、この頃はすっかりなくなってしまいました。日本以外の東アジアでは、今も古い暦を「農暦」というてちゃんと管理して、伝統的な行事は全部その暦で行なってます。そんなわけで、中華圏では、今でも新暦よりは旧暦の正月の方が華やかですな。あちらでは、「春節」といいます。 さて、新年のお祝いといいます

【歳時記と落語】大晦日

旧暦は12月30日までで、次は元日ですが、昔は数え年でっさかいに、皆この正月一日に歳をとった。数えの61、十干十二支が一回りして生まれ年とおんなじになりますと、「還暦」となります。今は60で還暦ですが、生まれた時は「0歳」なんでそうなります。昔は生まれた時からその年の大晦日までが「1歳」でしたから、61です。 この還暦の話は「亀佐」にも出てきますが、サゲになっているのが「帯久」です。最近はそれが分かりにくいので、サゲを変えている噺家さんもおられるようです。 大阪松屋町近く

【歳時記と落語】節分・立春

暦の上では今日からが「春」です。大概、2月4日で、その前日が「節分」となります。「節分」というのは、昔は年に四回あったそうです。節、つまり季節の分け目やさかいに、そら四回あっても不思議やない。立春、立夏、立秋、立冬の前の日になるんやさかいね。 その中でなんで立春の前の節分だけ残ったかと言いますと、立春で年が改まるというのんで、節分が年越しになっとったんですな。というのも、昔の暦やと、大体立春の前後、3週間ほどのうちに1月1日、中国で言うところの「春節」もきます。それで季節の

【歳時記と落語】年の瀬

いよいよ旧暦でも年の暮れになってきました。昔やったらいまごろは、年の瀬の忙しい盛りということになります。何が忙しいかといいますと、昔は商売というのは大体が掛売りの節季払いというやつでして、大晦日が一年の支払いの最後ということいなってますんで、これをとりっぱぐれますと、商売人の方はエライ損です。払う方は払う方で、どないかしてこれを乗り切ってやろうと考えるもんも、まああんまりおらなんだとは思いますが、ないわけではなかったんでしょうな。それが落語の「掛け取り」の笑いの根底にはありま

【歳時記と落語】大寒

二十四節気の24番目が「大寒」です。2021年は1月20日です。 暦の上では、まあこのあたりが寒さの底ということになります。寒稽古なんかが行われるのもこの時期ですな。 また、寒気が厳しいということはものが腐りにくいということでもあります。「寒の水」なんてことをいうて、この時期の水は味噌や醤油、酒なんかの仕込みにええとされました。「寒造り」とか「寒仕込み」といいます。 一方でこの時期は酒の蔵出しの時期でもあります。大体今の暦で12月から2月くらいですから、仕込みの時期と重な