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伝統工芸品は特別なもの?

※本記事では『伝統工芸品』『伝統的工芸品』『民藝品』の違いについては言及せず、『歴史のある手仕事としての工芸品』を"伝統工芸品"と位置付けて記していきます。

伝統工芸と聞くとどんな印象を持つだろうか。

なんかすごそう
重みがある
格式がある
扱いが難しい
高い
貴重なもの
日常では使い辛い気持ち

など、『特別なもの』のように感じる人も多いのではないか。
実際、私の周りの友人に聞いてみると同様のようなことを言われる。

では、伝統工芸品はもともと"特別なもの"として作られているのか。

"否"。

伝統工芸品は"日用普段使いのもの"として作られているものがほとんどである。

そもそも伝統工芸品はどのような経緯で作られたのか。
今でこそ"伝統工芸"品というが、
もともと工芸品としての役割を担うために作られたものなのか。

いろいろな伝統工芸品の起源を知っていくと
(時の権力者の指令により地域の特産品として作り始めたられたものもあるが)

その土地の人々が
①生計を成り立たせるため
②より利便性を求めて
③縁起物として
など人の想いや気持ちを形にして作られていったもの
であった。

たとえば
夏には農家として仕事をしている雪国の人々が
農仕事のない冬に生計を成り立たせるために
内職の一環として作り上げるもの

丈夫で長持ちをさせるために
漆を何度も何度も塗り重ね
研ぎ出すことで作り上げるもの

『市民の生活をより元気に』との願いを込め
鶴亀松竹梅の模様を入れ込んだもの
などである。

その中に
④日常に装飾や美、洒落を入れ楽しむ心
によって
その土地の特徴や日常風景の一幕を切り取り
絵付けをしたり掘ったりすることで
目で愉しめるようにもしたもの
としての特徴を持つモノが生まれてきたのではないか。
(中には地域特産品の特徴を表す装飾もある)

このように
特別なものとして生まれたのではなく
日常普段使いとしてのモノの中に
人の美意識や洒落が入り込むことで
素朴に・シンプルに・繊細に・綺麗に・遊び心に・豪快に・華美に・荘厳に
と変容しながら特徴が生み出され
そうして残り続けているものが今でいう"伝統工芸品"として存在しているのではないか。


では、そんな工芸品がなぜ『特別なもの』のような印象を与えてしまうのか。

一つに
『手仕事のモノづくりに対する尊敬と敬意』
があると思っている。

料理でもなんでも、作る側を経験すれば大変さがわかる。
しかし、身近ではない工芸品。
その手仕事と聞くと作業工程が分からなさすぎる。

そんな中
『手間と時間をものすごくかけて作られているんだろうなぁ』
という印象が先行する。(実際のところ事実であるが)
その見えない工程への尊敬と敬意により
『伝統工芸=特別なもの』
だという印象に繋がるように感じている。

そしてもう一つ。

"伝統"という言葉が特別な印象を、より、与えてしまっているように思う。

それは決して悪いことではないのだが
作り手の職人さんにとって、"伝統"とつけることが真に適切であるのか。
この話の本質は
『作り手からするとどう使ってほしいか』
にあるように思う。

まずなぜ日用普段使いの品であるはずの工芸品を『伝統工芸』と呼ぶのか。

「伝統工芸」という言葉は「伝統的な技法で作られる工芸品」という意味合いで広く使われている

中川政七商店の読みもの

とある。
『伝統的な技法で作られている』
つまり
『(長さは様々だが)継承してきた人々が存在し、失われることなく続いてきた技法』
だということである。

手仕事だから技術の継承はたしかに難しい。
テクノロジーが進化し世界が変わり続ける現代で、失われることなく続いている技法ということは本当に凄いことである。

しかしここに言葉の印象が与える魔力があるように思う。

"伝統"といわれると言葉の重みが増す。
大切に扱わなければ、と意識が向く。
本来、物は全て丁寧に大切に扱うべきであると思うが、"伝統"と付くだけでより特別な意識をするようになるはずである。

ここに作り手と使い手の面白いギャップがあるような気がしている。

作り上げる職人さんは
『伝統的な技法をつなぎ、年月をかけて修得して作りあげたもの』だから大切に扱ってほしいではなく
ただ"良い物""理にかなった使い勝手の良いもの"だから大切に扱ってほしい
のであり
『特別なものとして大事に大事に扱う』
のではなく
"ストレスなく日常の一部に"そして"たくさん使って良さを感じてほしい"
と思っている人が多いのではないか。
少なからず、私が今まで話を伺った職人さんの多くはそうであった。

手仕事に対する敬意をはらいつつ
"伝統"という言葉の印象を越えられた時
その先に伝統工芸品の未来があるのではないか

価値に気付いて使い始めるのか
使うことで次第に価値を感じるようになるのか

どちらが先でもいい。

『伝統工芸品を日常の一部に』
『"伝統工芸品だから特別なもの"ではなく"その人にとっての特別なもの"に』

なる日を夢見て
失われてしまう前に
使いはじめよう。

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伝統工芸ライター
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