セクターを超えて紡ぐ新しい価値創造(前編) ―孤独な意思決定から共創のガバナンスへ― 早稲田大学ビジネススクール牧教授×World in You山本代表 対談
技術経営やアントレプレナーシップがご専門の早稲田ビジネススクールの牧兼充准教授が、社会的企業やCSRの領域にも興味を深めてきていらっしゃることから、昨年World in Youのボードフェロープログラムにオブザーブ参加いただきました!
そもそもボードフェロープログラムって何?、牧先生にはどう映ったか?、ビジネスリーダーが非営利にも関わることの価値について、牧先生とWorld in You代表山本未生の対談形式でおとどけします。
対談の録画はこちらから↓
話し手プロフィール
牧 兼充(マキ カネタカ)さん 早稲田大学ビジネススクール准教授
山本未生 一般社団法人World in You代表理事
ビジネスと非営利をつなぐ、新しい学びの場
牧先生(以下、敬称略): 私はビジネススクールで技術経営やアントレプレナーシップを教えていますが、学生のニーズの変化や、ディープテックなど分野には社会性をとても重視する起業家が多く、そういう意味で社会的企業やCSRの領域にも興味を持つようになっています。
そういう中で、ボードフェロープログラムに出会い、とても面白いと思い、昨年オブザーブで参加させていただきました。
今日はそのプログラムの良さを対談形式でお聞きしてみたいと思います。
最初に、ボードフェロープログラムについて簡単にご説明いただけますか?
山本: 本日はよろしくお願いします。
ボードフェロープログラムは、6か月間のプログラムで主にオンラインで行います。
非営利・ソーシャルセクターと、ビジネスを含む多様なバックグラウンドの方々が、非営利団体の経営課題を一緒に議論し、ソーシャルインパクトを起こしていくことを目指しています。
参加者は、3つの非営利団体から、それぞれ3~4名ずつ、代表を含む経営陣が参加します。これに加えて、ビジネスの色々な分野、経営者やサステナビリティの担当の方、弁護士、会計士などが約15名参加します。
この皆さんで、半年間、参加する非営利団体の模擬ボードメンバー、模擬社外役員の立ち位置で、経営の議論に参画するプログラムです。
牧: プログラムの構成や流れはどういうものですか?
山本: 今年で4年目で、過去3回開催してきており、プログラムの構成要素としては、学びと実践の両方の要素が入っています。
前半3ヶ月間が学びの要素で、例えば、社会的な目的を持つ団体の経営は一体どうなっているんだろう、企業の違いは何だろう、などガバナンスや経営目線に関する勉強をします。
後半は実践で、模擬ボードミーティングを、各団体の担当に分かれて、経営議論を実際にします。
ほぼ全てオンラインで行いますが、対面でチームビルディングや顔合わせをする機会もあります。
特徴としては、6か月でおしまいではなく、ここで始まった関係性を土台として、プログラム終了後も、互いに協働・サポートしあっていくことを目指しています。
孤独な意思決定から、共創するガバナンスへ
牧: 昨年オブザーブの形で参加させていただき、とてもよくできたプログラムで色々工夫されているなと思いました。
そもそもどういう思いで、どういう課題を解決したいと思って、このプログラムを立ち上げようと思ったんですか?
山本: World in Youは、2011年の東北の大震災がきっかけで立ち上げ、設立後数年間は東北の社会起業家や非営利組織の経営の伴走などをしていました。
その中で、想いを持って現地の復興や社会課題解決に取り組んでいる組織において、代表や少数のトップの方が、孤独の中で疲弊してしまうことをみてきました。孤独というのは、寂しいというより、すべての意思決定を孤独な中で非常に限られた人で行わなければいけないので、バーンアウトしてしまったり、ということです。
一方で、何かできることをしたいという方々は、他の場所にたくさんいました。
そこをうまくつなげられないかな、と考えたときに、現場レベルでつなぐことも大事ですが、経営の意思決定のパートナーといえる関係性が増えていけば、代表の方々も孤独ではなく、団体の未来を一緒に考えていける仲間が増えるんじゃないか、と思いました。
加えて、企業やビジネスパーソンの方にも非常にメリットがあります。
ソーシャルな課題にチャレンジすることは、ピュアな営利のビジネスよりも相当難しいことです。先ほど牧先生がおっしゃったように、最近の企業活動は、今までの市場だけを見ていてはもう成り立たなくなってきている。そんな時に、社会課題のフロンティア前線でやっている社会起業家やNPOに触れることは、すごくキャリアに役立つ経験になると思います。
というわけで、企業側にも非営利側にも役立つところをつなげたい、という意識から生まれました。
"World in You"に込められた想い
牧: World in Youという名前には、どんな思いが込められているんですか?
山本: World in Youとは、私のあなたの中の世界という意味です。元々は、World in Asiaという団体名で始め、World in Tohokuと変更し、そしてWorld in Youに法人名を変更しました。
どの名前にも込められているのが、その土地、その人、それぞれの中に、世界が広がっていて、それらが深く出会うことで、イノベーションが起きたり、社会に良いことが起きていく。多様な世界観を出会わせたい、それを社会をよくする力にしていきたい。そんな想いからつけています。
牧: なるほど、ボードフェロープログラムで目指している、さらに大きな世界観を語っているような団体名ですね。
日米の非営利組織における多様性の違い
牧: 社会課題を解決する人たちに孤独な人たちが多い、というのは、日本特有の現象ですか?それともグローバルに共通していますか?
山本: 日本ではどこでも目にします。私が最近まで約15年住んでいたアメリカでも、同様の課題に直面している非営利の代表もいます。ただ、アメリカの方が、ボードメンバーがもう少し多様です。また、決めていくときに一人で決めない構造をつくっています。
印象的だったのは、MITのビジネススクールで学んでいた際は、スタートアップを作るときにボードメンバーやアドバイザーを誰にするかは、相当よく考えなさいと教わります。
ひるがえって、日本のNPOでは、法律上の役員の最低人数要件に達するために、とりあえず身近な人にお願いしよう、名前がある人にお願いしよう、となる。そうすると、もはや一緒に決めていく仲間というよりも、お願いしてなってもらった人たちなので、関係性が変わってきてしまう。
牧: ボードメンバーの多様さについて、日本と米国でのご経験からすると、日本の方が画一的になりがちだということですね。
アメリカの非営利組織における多様性とはどういうものですか?
山本: アメリカの非営利やビジネスでは、ボードの多様性という時には、ジェンダーや人種が中心に置かれる。そして、団体のために、ボードメンバーが、ネットワークや資金力や経験値といったリソースをどれだけ持ってこれるかということです。コーポレート・ガバナンスの文脈で言えば、スキルマトリックスですね。
World in Youが、日本の非営利団体でのボードの多様性を、今後上げていきたいと考えるときには、色々な意味での多様性が大事だと思っています。ジェンダー、人種だけなく、経験値、ネットワークなど、総合して言うと、どれだけ多様な資本を持ち寄れるか、が大事だと思っています。
牧: 日本の社会課題を解決しようとしているチーム自体の多様性は比較的低い。その中で、ボードフェロープログラムと組み合わせることで、多様な人が参加できるようになるということを、まさになさっていると思います。
ボードフェロープログラムの参加者側の属性はどんな人たちですか?
山本: 色々な業界業種から集まっています。1期あたり15名参加しますが、15名の多様性を大事にしています。ビジネスやアカデミア、弁護士や会計士、起業家、社会起業家、など多様な人たちが混ざるようにしています。男女もそうですし、年代も、経営経験者もいれば、20~30代の若手の方もいます。
・・・(対談前編ここまで)・・・・・
このあと、ビジネススクールでは学べないけれどボードフェロープログラムで学べることや、参加者に起きている変化について、対談がつづきます。記事後編はこちらをご覧ください↓
なお、World in Youでは現在、ボードフェロープログラム第4期の参加者(企業・個人)を多様なバックグラウンドから募集中です!詳細はこちらをご覧ください。