【SNOW/SNOW-PORTABLE-】「鬱だSNOW」という噓のようで本当の青春。そして少年ふたりの足跡はNavelFilmへ
こどものころ、仲間内で流行ったゲームというのが誰しもあるのではないだろうか。
ドラクエやFFであったり、ポケモンであったり、スマブラであったり、どうぶつの森であったり、モンハンであったり。他にもムシキングや妖怪ウォッチなども社会現象になっていただろうか。人によって、世代によって具体的な作品名そのものは異なるとは思うが、そういったゲームを友人達を巻き込んでやったなーという思い出は、大げさでもなく良き青春の１ページになっていることだろう。
私もそういったゲームがいくつもあるのだが、その中で、私発信で思いがけず仲間内で流行らせてしまった1つのゲームがあった。
SNOW-PORTABLE-というPSPで発売されたゲームである。
このゲーム、もとはStudio Mebiusというメーカーによって製作されたSNOWというアダルトゲームであり、様々な要素を修正・追加した上で家庭用ゲームとして改めて発売されたのがSNOW-PORTABLE-である。
SNOWはいわゆる泣きゲーと言われる作品の一つで、KeyのKanonやAIRの流れを汲む作品として良い意味でも悪い意味でも名の知られた作品ではないだろうか。
そのPSP版ということで、移植等によってシナリオが追加されていったSNOWの完成形といえるのが、プロトタイプから発売されたSNOW-PORTABLE-であった。
しかしながら、有名なKeyの作品ではなく、何故このSNOWという作品が仲間内で流行ってしまったのか。
まずは私とSNOWの出会いから語らなければならない。
基本、私はゲームで競い争って順位付けをすることにそこまで価値を感じ無い人間のため、格闘ゲームやバトロワのような対人戦が目的のゲームを率先して遊ぶことはあまり無いのだが、それ以外のゲームに関しては雑食で、特定のジャンルを好むということはなく自身の直感に従ってゲームを遊ぶことが多い。
アドベンチャーゲーム、いわゆるノベルゲームと呼ばれるジャンルも例外ではなく、SNOWはそんな私の目にとまった、このゲームは遊んでおかないといけないという直感が働いた作品の一つであった。
ところが、そんな運命的な出会いとは裏腹に、ゲームをプレイしての第一印象は、嘘偽りなく申し上げると購入を後悔した、であった。
開幕早々、若生桜花という幼女 (CV金田朋子)による
「そなた、今、わらわの白いパンツを、見たであろう────っ！」
というセリフからはじまり、
がしっ ぼかっ 俺は死んだ という、当時のミームともいえるスイーツ(笑)ばりの始まり方に、
(あーしまった、このゲームを買ったのは失敗だったな…)
という反省が頭をよぎったことを、今も鮮明に覚えている。
この作風はとても好きになれそうにない…そんな失望で眩暈がするまで、ゲームを起動してからものの数分程度の出来事であった。改めて振り返ってみても、最悪のファーストインプレッションである。
(なお、SNOWという作品が誤解されないよう、そして槍玉に挙げてしまった桜花と金田朋子さんの名誉の為にも先に書き記しますが、
若生桜花というキャラクターはSNOWという作品の核ともいえるキャラクターで、その桜花を演じる金田朋子さんはほんっっっとうに、この桜花というキャラに合っているのです。ドラマCD版も、PS2版も、PSP版も、先ほど挙げた作中冒頭のセリフも、いずれも桜花を表現するにあたって名演技といって差し支えないものです。上記の後悔の内容はあくまで当時の幼稚な私が抱いた第一印象にすぎないことを、何卒ご理解ください。）
…とまあそんな最低な印象から始まった本作であった。しかしながら遊び終えてみるとSNOWという作品は、その強烈な負の第一印象を払拭できるくらいにはよくできたアドベンチャーゲームであった。
KeyのKanonやAIRを意識しているだけでなく実際に監修を受けているということで、その２作よりも全体の構成が分かりやすく理解も納得もしやすい仕上がりになっているし、桜花等に関連する身長差表現の画面の動きや抱っこ・おんぶの描写、雪或いは吹雪といった天候表現などの映像効果のこだわりも丁寧に作られているところが見事で、オリジナル版が今から20年以上も前の作品という古さを感じさせない自然さで成立させている。
I'veサウンドを筆頭に耳にも心にも残る曲やBGMも多く、冬(と過去編の夏)の環境音も全く違和感なく自然に溶け込んでいる。ボイスがついた後発の作品は声優陣の演技も素晴らしい(PSP版は新録という贅沢さだがパートボイスなのが惜しい)。
個人的には、その後私が気に入った数々の作品で名を拝見することになる涼元悠一氏がシナリオアシスタントをしていたというのも、今振り返ると得心がいくものである。
そんなわけで、筆者のゲーム体験史上最低といっても過言ではない印象のはじまりから、クリア後にはすっかり好印象に変わっていたこともあり、SNOWそしてSNOW-PORTABLE-は心にも記憶にも鮮明に残っている作品の一つなのである。
──最近様々なあとがきを書いていた癖で少々作品の話に脱線しすぎてしまったので、今回は仲間内で流行ったという話に戻るとしよう。
当時、それこそKanon,AIRといったKeyの作品をはじめとする泣きゲーと呼ばれる有名な作品については、私含め周囲のゲームが好きな面子の中である程度認識もされていた。
しかしながら、そんな集まりだったにもかかわらずこのSNOWという作品は、私以外だれも知らなかったのである。
SNOWが私の周囲では無名の作品だったため、まさにKeyの作品が話題になったときに私がこのゲームの存在を紹介したことがあった。そこで興味を持った一人に貸すと、クリアしたそいつがドハマリして別の友人に語り出し、そして新たに興味を持った友人が現れ貸すとそいつが更に別の一人を巻き込んで語りだし…という、まさしく仲間内での口コミ的広がり方をしたのであった。
貸し借りで広がったゲームの輪であるため、それ自体はあまり褒められたことでも自慢できることでもないのだが、兎も角そんな経緯でSNOW-PORTABLE-が私の周りで急速に流行ったのであった。
今当時の状況を冷静に振り返ると、タイトルでもあり作品を象徴する「雪」が身近な環境であったこと、感受性の強い少年期の出来事であったことも、このSNOWという作品を楽しむ上で良い意味で作用したのかもしれない。
ともあれ、そうした流行り方をした結果、美少女ゲームに偏見があった人や、ノベルゲームなんてゲームじゃないという人にも、SNOWという作品が持つ魅力が刺さったようであった。一人、また一人とSNOWに魅入られたメンバーが増えていくのだが、そうした元々の趣味趣向の違いのせいなのか、各々が語る推しキャラが図ったかのように違ったのも興味深いことであった。
特に、日和川旭というキャラクターに対して「あんなキャラ好きになるやついるのかよ」とまで扱き下ろしていたどちらかというと硬派なゲームを好んでいた一人が、一夜明けると旭ルートをクリアしてすっかり旭推しになって涙ながらにSNOWと旭の良さを熱く語りだしたのは未だに印象的なエピソードとして記憶に残っている。何が彼をそこまで変えたのかは分からないが、私が知る限りそれから彼はずっと旭推しであった。
こうしてSNOWという作品が仲間内で一気に流行り、そうした流行りは刹那的に過ぎていった。
あれからずいぶんと時が過ぎた。
いまなおSNOWという作品を心にとどめているのは自ら選んで買って遊んだ私と、それこそあの時の流行りの中心人物の一人…すなわち最初に貸してドハマリし、仲間内に広め始めた張本人であった小馬谷氏ぐらいかもしれない。
我々二人は、それこそ紅芋まんをガチで作ろうとか、いずれ聖地に行く企画をしたいなどという夢まで語りあったこともあった。残念ながらそういった企画を実行したり実現する機会はなかったが、そういう話の積み重ねが後年のNavelFilmの活動であったり、今でも交流が続くことに繋がっているのだろうと思う。
…なんというか、こういう関係性の友人は大切にしたいものである。
余談であるが、私はパッケージに描かれている謎の少女に運命的な何かを感じてSNOW-PORTABLE-を買ったので謎の少女が、小馬谷氏はプレイをはじめてからずっと橘芽依子が推しキャラだったと記憶している。私の記事を読んでいたり小馬谷氏の活動を知っている人からすると逆じゃないのかというツッコミが聞こえてきそうだし、冷静に文章にすると私でもそう思うのだが、まあこうした好みがすれ違っても気は合うものである。
最後に私個人の思いを書き記すと、謎の少女に導かれるようにパッケージを見つけることがなければSNOWを遊ぶことは無かったかもしれないし、謎の少女が謎の少女(最後に遊ぶ追加シナリオ)だから最後まであきらめずにSNOWを遊ぶことができたといえるかもしれない(その正体そのものは言うほど謎でもないような気もするが)。
彼女のストーリーを完全に遊びつくすにはSNOW-PORTABLE-を遊ぶしかない(P・EやStandard Editionもあるにはあるが)ということも含め、SNOW-PORTABLE-は筆者にとって運命的な出会いをしたゲームの一つだったことは間違いない。
なお、謎の少女がきっかけだの推しだのと連呼しているものの、私がSNOWの中で今も内容を詳細に覚えているくらい気に入っている話は、過去編であるLEGEND編と、特定のルートに入らずに終わる龍神天守閣倒産ENDである。
推しておきながら謎の少女に薄情な筆者であった。
──果たして我々に興味がある人がいるのかは分からないが、せっかくこうした珍妙な記事を発見し読んでくれた方に向けて、今更ではあるが話題に挙がった小馬谷氏の近年の活躍を勝手ながらここで紹介させていただく。
このnoteと深い関わりのあるNavelFilmは現在小馬谷優介氏の屋号となっており、彼は撮影や編集といった分野でフリーランスに活躍する傍ら、コスプレやポートレート関連の写真がネットニュースに掲載されたりコスプレイヤー・オブ・ザ・イヤー(COTY)2024のグランプリを受賞するなどの輝かしい実績を残している。また、不定期にゲーム配信を行ったり、最近取り組んでいるポケモンカードに関する記事をnoteに投稿するなど、今もマルチな創作活動を行っている。
近年の小馬谷氏の活動記録として写真集も出版されており、直近では新作である三冊目の写真集「光、再読二〇二三」が製作されている。上記の実績からも分かるように、彼が手掛ける写真もまた他とは少し異なった趣の画作りを楽しめるので、記事や過去の動画を通じて小馬谷氏の活動に興味が沸いた方は是非チェックしていただきたい。
小馬谷優介（komaya-yusuke）（@NavelFilm） / X