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かみしめる人の弱さと強さ『回復する人間』

以前noteをきっかけに知り、気になっていたけどなかなか見つけられなかったこの本。先日ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞されたことでさらに興味を持ち、やっと着手できました。

『回復する人間(노랑무늬영원)』- 著者: ハン・ガン(한강)さん

ハン・ガンさんの作品自体、私はこれが初めて。日本での代表作はどうやら『菜食主義者』とか『すべての白いものたちの』辺りなのかな?でも、前から気になっていたこちらから読んでみました。

この本は長編ではなく、短編集。ある事象がほかの章でメタファーとなっていそうな要素を感じることもあったけれど、それぞれの登場人物や設定は大っぴらにリンクすることはありません。

そうやって人物も場面も全く違う別個の物語が連続する構成なのに、どの物語も根源的なところに同質の脈打つような何かを感じました。

絶望、圧倒的な喪失、崩壊、つまずき…。それぞれが抱え直面する様々な「傷」を、胸がきゅーっと絞られるような思いで受け取りながら読み進めます。しんどい。しんどいけど、一体その先に生まれるのは、光か、再生か、救いか、希望か?

そのどれでもあるようだけど、そんな言葉ではどうも表しきれない。そんな生やさしいものではない。敢えて言うならばやっぱり「回復」になるんだろう。

一話だけ、その「回復」の兆しが全く見えない、完全にシャットアウトされてしまう作品も混ざっていてドキッとしました。あれだけ、なぜああだったんだろう。

最初の方の章は比較的短く、内容はどれも濃厚ながら分量としてはサクサクと進みましたが、中盤から一つの章の長さが徐々に増えていき、さらにどっしりとした読み応えがありました。

末尾の解説によると、この日本語版は、初版から物語を並び替えたり一部加筆した改訂版を和訳したものだそうです。ということは、敢えてのこの並びに、敢えてのこの結末か。作者の真意を色々と推察しながら、私はいずれまた読みかえしてみるのかも。

過去は消えない。未来は見えない。人は結局、ただ今を生きるしかない。それ以上でもそれ以下でもないこの事実は、時に冷酷で、八方塞がりにしか感じられないこともある。

それでもその事実が、ふとしたきっかけでまた違ったものとしてかみしめられることも、ある。

人は人(自己も含め)を絶望させることもできるし、ひとりの力なんてのもたぶん高が知れているけれど、それでも、人の「回復」のきっかけになれるのも、往々にして人なんだな。

もしも自分が「壊れ」ても、そんなきっかけにちゃんと気付けるようでありたい。逆に、もしも大切な人が「壊れ」た時でも、少しでもその「回復」のきっかけになれるような人間でありたい、と思いました。

何だかミスチルや米津玄師の歌のようになってしまったけど、これがハン・ガンさん初読の私の感想です。


おまけ。
原題のハングル『노랑무늬영원』が音的に明らかに『回復する人間』ではないな、ということは分かりました。でも、知らない単語ばかりで意味は分からないまま。調べずに読了してみると、あとがきの訳者解説にその詳細が説明されていて納得しました。タイトルからして深い意味があったんだなぁ。

それを知ってから原著の表紙装丁の画像を検索して見て、ジーンとしました。作家さんって、やっぱり凄いです。

それから、これまた最近初めて聴いてみたこの曲の世界観に、この本の根っこに近しいものを感じました。

がらくた / by 米津玄師さん

ハン・ガンさんも、ほかの作品をもっと読んでみようと強く思う作家さんでした。光州事件についての物語もあるそう。ハンさんご自身が、光州のご出身なんですね。そのことについては、また別の機会に。

年の瀬も近くなり、何となく気忙しい上に体調も崩しやすい季節ですが、皆さんの心や身体が、できるだけあったかい冬になりますように。

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