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会話の行方
仕事終わりに立ち寄った、とある立ち飲み店にて。
カップルが入ってきた。店内の黒板に手書きでサササッと書かれたメニューの中から、「白天(しろてん)」を見つけ、見たことないから注文してみよう、こういう雰囲気もいいね、と会話が始まる。
(ちなみに「白天」)
大阪出張の帰りの新幹線での楽しみは、ビールと「白天(しろてん)」。さっぱりとした白天は、関西を中心に生産され、不思議に関東では見かけない。素朴な白身魚の味わいと、きくらげのシャキシャキ感が、アンバランスな食感を生み出して、ビールのつまみにもってこいである。
揚げ色を付けずに、白く仕上げた白天の多くはキクラゲを混ぜた天ぷらかまぼこで日本3大祭りの一つである、大阪天満宮の天神祭ではハモ料理が食され、ハモすり身を使った白てんぷらは、貝割れ菜とともにお澄ましにされる(以下略)
「お家のカレーって普通だけど美味しいよね」
「いや、ウチのカレーはおとんがこだわって作るやつで、スパイスを組み合わせてつくるカレーだったから、普通やなかってん」
「すごーい、牛肉をしっかりスパイスで下味つけて、とか」
「いや、鶏」
「あー、そうなんだ」
(うーん、気になるなぁ。彼女が言いたいのは肉の違いではないのでは)
しばらくして、次の話題にうつる。
「でもさ、この料理は、この肉でしょうって思ってても、それって意外と地域によってとか、家によってとか、違ったりするよね。関西だと、肉じゃがは牛肉でしょ? でも東京だと豚肉でつくったり」
「いや、ウチは鶏やった」
「え?鶏?そうなの?関東は豚肉、関西は牛肉だと思ってたー」
(いや、だから。肉の違いの話じゃないと思うんやけどな)
またまたしばらくして、次の話題にうつる。
「そうそう、すき焼きもさ、鶏肉でつくる友達がいてね。前にごちそうしてもらったら、意外と美味しくてびっくりしたことがあるんだよね!」
「いや、すき焼きは牛(ぎゅう)やろ」
あぁ、噛み合わない。
彼女はさ、
土地によって普通って変わるよね。ここのメニューにある「白天(しろてん)」というのは、何なのだろうね?なんて読むのだろうね?あなたは大阪の人だから知ってるのよね?でも私は東京育ちだから知らない。でもね、戸惑うことも多いけれど、文化の違いも意外な常識も、けっこう楽しめてると思うんだよね。
という会話をしたいんだよ。
でも彼の方はさ、
ウチのカレーは親父のスパイスカレーだから普通じゃなかった。肉は鶏。
肉じゃがは鶏肉。
でもすき焼きは牛肉がいちばんうまい。
ということしか言ってない。
会話の行方はどこへ行っただろう。
間に入って「肉の話やないねんな」と言ってやりたくなったので、我慢して店を後にした。どうなったかなぁ。白天が出てきて、食べたら美味しくて、カレーも肉じゃがもすき焼きも、東京も大阪も、いい感じに噛み合ってくれたらいいなぁ。