会話の行方
仕事終わりに立ち寄った、とある立ち飲み店にて。
カップルが入ってきた。店内の黒板に手書きでサササッと書かれたメニューの中から、「白天(しろてん)」を見つけ、見たことないから注文してみよう、こういう雰囲気もいいね、と会話が始まる。
(ちなみに「白天」)
「お家のカレーって普通だけど美味しいよね」
「いや、ウチのカレーはおとんがこだわって作るやつで、スパイスを組み合わせてつくるカレーだったから、普通やなかってん」
「すごーい、牛肉をしっかりスパイスで下味つけて、とか」
「いや、鶏」
「あー、そうなんだ」
(うーん、気になるなぁ。彼女が言いたいのは肉の違いではないのでは)
しばらくして、次の話題にうつる。
「でもさ、この料理は、この肉でしょうって思ってても、それって意外と地域によってとか、家によってとか、違ったりするよね。関西だと、肉じゃがは牛肉でしょ? でも東京だと豚肉でつくったり」
「いや、ウチは鶏やった」
「え?鶏?そうなの?関東は豚肉、関西は牛肉だと思ってたー」
(いや、だから。肉の違いの話じゃないと思うんやけどな)
またまたしばらくして、次の話題にうつる。
「そうそう、すき焼きもさ、鶏肉でつくる友達がいてね。前にごちそうしてもらったら、意外と美味しくてびっくりしたことがあるんだよね!」
「いや、すき焼きは牛(ぎゅう)やろ」
あぁ、噛み合わない。
彼女はさ、
土地によって普通って変わるよね。ここのメニューにある「白天(しろてん)」というのは、何なのだろうね?なんて読むのだろうね?あなたは大阪の人だから知ってるのよね?でも私は東京育ちだから知らない。でもね、戸惑うことも多いけれど、文化の違いも意外な常識も、けっこう楽しめてると思うんだよね。
という会話をしたいんだよ。
でも彼の方はさ、
ウチのカレーは親父のスパイスカレーだから普通じゃなかった。肉は鶏。
肉じゃがは鶏肉。
でもすき焼きは牛肉がいちばんうまい。
ということしか言ってない。
会話の行方はどこへ行っただろう。
間に入って「肉の話やないねんな」と言ってやりたくなったので、我慢して店を後にした。どうなったかなぁ。白天が出てきて、食べたら美味しくて、カレーも肉じゃがもすき焼きも、東京も大阪も、いい感じに噛み合ってくれたらいいなぁ。
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