【ファジサポ日誌】77.勝負弱さ~第39節 レノファ山口vsファジアーノ岡山~
※カバー写真はC57ー1(貴婦人)で運行されていた頃のSLやまぐち号です。
筆者は都合により自宅観戦となりましたが、今回のアウェイレノファ山口戦には1,000人以上の岡山サポーターが遠征。逆転プレーオフ進出に向けて最後のリスタートを切るべく、熱い応援が繰り広げられましたが、結果は無情にも残り30秒で追いつかれてのドローでした。
実質敗北ともいえるドロー、この虚脱感は何にも形容できないものがあります。
振り返ります。
1.試合結果&スタートメンバー
逆転プレーオフ進出に向けて、4連勝がマスト(あえてこう書きます)の岡山は序盤から意欲的に山口陣内への侵入を繰り返しますが、パス、クロス共にやや精度を欠きます。
そんな展開が続く中、28分山口スローインに対する反応、寄せが遅れ、山口(24)梅木翼に先制ゴールを許します。
この失点が岡山に火をつける格好となり、前半としては珍しいややオープン気味な(に見える)展開の中、岡山は更に山口を押し込みますが、やはりセットプレーも含めて精度を欠き続け、前半をビハインドで終えます。
後半開始から切り札(99)ルカオを投入し、更に山口ゴールに迫る岡山は57分(7)チアゴ・アウベスがPKを獲得しますが痛恨の失敗。
勢いが潰えそうに見えましたが、ここで各選手が再び奮起、波状攻撃を仕掛け続ける中、61分(8)ステファン・ムークがついに同点ゴールを決めます。
その後、山口は自陣内で起点をつくり続ける(99)ルカオのスペースを消すため(と思われます)、選手交代とともに3バックから4バックに変更しますが、攻撃面ではボールを前へ運べなくなり、岡山優勢の時間が続きます。
そして84分、ルカオのゴール前での潰れから途中出場(48)坂本一彩が久々のゴール。勝ち越し後は順調にクロージングを進めていましたが、この(48)坂本のパスミスから中央に展開され、ゴール正面ボックス手前で(5)柳育崇が痛恨のファールを冒します。
この直接FKを山口(10)池上丈二に綺麗に決められ、岡山はいわゆる「維新劇場」を演出してしまいました。難しい時間帯があったものの、全体的には攻守において山口を圧倒していただけに、勝点3マストのこの試合においてこの結果は簡単に受け入れられないものとなりました。
続いてメンバーです。
MF(14)田中雄大が復帰してきました。ポジションが注目されましたが本職RIHに入りました。これに伴い(44)仙波大志はLIHへ回りました。
群馬戦では中盤3枚にボックス手前、ボックス内でシュートチャンスが生まれていましたが決定力に欠きました。岡山の中盤の中では最も得点能力が高い(14)田中を起用することで、チームとしての得点の可能性を高めていくねらいがあったと思います。
群馬戦のレビューではLWB(2)高木友也の浮き球のクロスに合わせる選手がいない点について触れましたが、この山口戦でも引き続き(2)高木を先発で起用してきました。
山口は前節から6人が変更となっていましたが、出場停止のCB(3)ヘナンの代役に(40)平瀬大が起用されLCBに、RCBに(15)前寛之が入る布陣となりました。
守備時はお互い5-3-2のブロックで守ります。
2.レビュー
今回は統括的な書き方となります。
(1)強度が落ちている?対人プレー
お互いにシステムが似ていて、岡山はプレーオフ進出、山口はJ2残留と懸かっているものがある状況という事で、両チームの実力差は量りやすい試合であったと思います。
木山監督のコメントにもありましたが、案外山口が前からプレスを掛けてこなかった点は、エスナイデル監督の岡山をリスペクトしていたインタビュー内容からも、岡山の裏をとる攻撃をある程度警戒していたからではないかと推測します。
一方、岡山は(8)ムークを中心に前からプレスを掛ける一方、映像上そう見えただけなのかもしれませんが、最終ラインは若干引き気味にも見えました。よって、陣形が間延びする分、全体的なプレスにはそこまでの連動性もみられなかったように感じます。
それでも、(7)チアゴ、(8)ムークを中心に山口の裏をとる場面は多く、持ち味を出していたのは岡山の方であったと思いました。
それだけに結果を伴わなくてはならない一戦でした。
岡山にとって最初の誤算は28分の失点でした。これで直近5試合中4試合で相手に先制を許したことになります。
全体的には岡山ペースで進んでいた展開でしたが、簡単にスローインを入れられ、ワンチャンスで決められてしまいました。
これを決められてしまうようですと、今後ボックス内へのスローインはほぼ被決定機になってしまいますので、大いに反省してほしいのですが、この場面からは今の岡山が抱えている根が深い弱点も感じるのです。
ボックス内では山口CF(9)皆川佑介が受けることを想定してLCB(43)鈴木喜丈がマークに付いているのですが、一度体を離されてしっかり(9)皆川に受けさせてしまっています。ここでもう一度(43)鈴木は体を当て、手を掛けにいきますが、その手は(9)皆川に簡単に振り払われています。これにより(9)皆川に良い体勢で折り返させてしまいました。
ボックス内での対応という事で(43)鈴木がファールをとられるのを恐れていたようにも見えました。
今年の岡山の守備は、これまでのレビューでも述べてきましたようにネガトラ面で大きな成長を遂げていると思います。
一方で、これは感覚的でもありますが、イエローを乱発されてしまったあのホーム東京V戦以降、(5)柳など一部の選手を除いた岡山の選手の1対1での守備強度が落ちているようにも見えるのです。
この東京V戦以降、岡山の選手からは手を使ったプレーが極端に減ったと感じています。これは、おそらく審判団全体に対するクラブとしてのメッセージであると筆者は読み解いているのですが、同時に手を使わないことにより守備強度そのものが落ちてしまっているという状況に陥っているのかもしれません。
サッカーにおいて手(腕)を使うことが相手との駆け引き上も必要であることは、岡山の選手も重々認識していると思うのですが、未だに「フェアに腕を(堂々と)使う細かい基準」が岡山の選手の中で定まっていないのかなという印象が残っています。その不安な心理が、より無難な(強度が低い)対人プレーに止まらせている原因なのかもしれません。
もしそうであるのでしたら、チームとして取り組んでいかなければなりません。ただし一定の時間が必要なのかもしれません。
(2)共通認識が不足している守備態勢
そしてこの(24)梅木のゴールシーンでもう一つ気になったのが、(9)皆川から中央への折り返しを消すCH(6)輪笠祐士の対応が遅れていることです。(6)輪笠としては(43)鈴木と(9)皆川を挟み込んでボールを奪う意図があり、そのために寄せのスピードが遅くなってしまったのかもしれませんが、やはりゴールへ向かう「ライン」を何らかの形で消しておきたかったところです。この場面で(6)輪笠と(43)鈴木が同じ絵を描けていたのかは気になります。
守備の共通認識という点では、後半ATの山口(10)池上のFKに対する壁の意図についてのGK(1)堀田大暉のコメントにも注目しました。
ファジゲート(有料記事)からですので、抜粋は避けますが、本来はチーム内で既に共有しておかなくてはならない事項であると感じました。
正直なところ、この手の話が今出て来てしまうのかという点に軽い驚きも隠せません。
ここで2年前、チーム始動時からの木山ファジを振り返りますと、まず練習を攻撃面の着手からスタートさせた点がこれまでの岡山には無かったことで新鮮でした。守備面から練習に入ると、体が出来がっていない段階で強度が高まり怪我人が増えてしまう、それを防ぐねらいがありました。
また、今シーズンのキャンプではミッチェル・デューク離脱後の攻撃構築に時間が割かれていました。寧ろ、守備面が話題になることは少なかったと思います。(5)柳、(23)バイスに任せていれば大丈夫であろう、そんな空気感であったと思います。
こうした攻撃から組み立て始めるサッカーの構築は、岡山に新風を吹き込んでくれたと思います。事実、この山口戦での2得点はいずれも流れの中での得点でした。木山監督就任以前の岡山ではなかなかみられない攻撃であったと思います。
攻撃からは細かい落とし込みを感じる反面、守備はやはり個人の力量に頼っている部分がまだまだ大きいのかなと感じてしまったこの山口戦での2失点でありました。
岡山も流れの中での守備は巧いですし、強いと思えるのですが、いつのまにかセットプレーのような構えた守備は苦手にしてしまったのかなという印象が強く残ります。
早々にJ1昇格を決めた町田を引き合いに出してもそうですが、J1に昇格するためにはこうした細かい部分を潰すことは必須ともいえます。
では現状の岡山が、こうした細部でなぜ後手に回っているのか?
今シーズンに関して、その大きな原因はシーズン中に「繋ぎ」のサッカーに取り組んだことにあると考えます。おそらく新しい仕組みを導入、試合で実践するだけで精一杯であり、細部までみる余裕がチームとして持てなかったのかなと推測します。
そうした意味では、木山ファジの守備面に関しては改善できる余地は残されていますし、今後改善できる可能性もまだまだ秘めていると感じています。
まだ3試合を残しており、勝点65に到達できる可能性も残している。得失点差は極めて厳しい状況ですが、プレーオフ昇格の可能性も消えていない現状では3連勝という結果に対する意識は持ち続けたいのですが、まずはこの山口戦で浮かび上がった守備面での課題を可能な限り潰してほしいと筆者は個人的に願っています。
おそらく、そうして1勝を積み重ねていく姿勢の方が勝利への近道ではないのかなとも思えるのです。
(3)それでも素晴らしかった岡山のゴール
素人に過ぎない筆者がプロに対して(1)(2)のようなことを述べるというのは、本当は述べたくないですし、心苦しいのですが、残り3戦を戦った結果がどのようになろうとも、この先岡山がより強いチームになるために必要なことと考え、あえて書きました。
この先はゴールについて述べてみます。
幸か不幸か山口に先制されたことで、勝利がマストの岡山としては2点が必要となりました。前半から若干暴走気味ながらも攻撃の火力がアップ、迫力ある2得点に繋がったと思います。
前半はLIHに回った(44)仙波から前線へのスルーパスがチャンスを創出していました。群馬戦では前プレ要員の1人でもありましたが、この山口戦では後方からのビルドアップに加わり、持ち運びながらも中盤を省略した形のスルーパスを(8)ムークらに通していました。
(44)仙波は高い位置よりもビルドアップに加わるぐらいの低い位置からの方が広い視野がより活かせると、改めて思いました。また左に配置したのも良かったです。右足から、よりゴールに近いパスを出せていました。
おそらくこの(44)仙波の後方からのチャンスメイクもみて、木山監督は後半開始から中盤の中央を任せたのだと思います。攻撃陣を削ることなく(99)ルカオを投入できたという意味でも大きな効果がありました。
攻撃のポイントとなる後半の頭15分に主導権を握れた、岡山にとってはこれも大きなポイントでした。(7)チアゴのPK失敗に関してはホーム大宮戦と同じく、相手GKと駆け引きしてしまったなと思いました。
プレッシャーが掛かる場面ではありましたが、(7)チアゴの場合はあまり難しく考えず左右いずれかに思い切り蹴った方が良いような気もします。
このPK失敗で一度は岡山の流れが途切れるのかなと思えたのですが、直後の山口GK(21)関憲太郎のゴールキックをマイボールにしてCKまで獲得した流れからは岡山各選手のタフさを垣間見ました。素晴らしかったです。
そんな諦めない執念が生んだ同点ゴールでしたね。
この直前で山口が3枚代えを行って、まだ交代メンバーが試合に馴染んでいなかったのと、岡山がやり直す中で山口が前からプレスを仕掛けてきた、この点も大きかったのですが、この場面はやはり(14)田中の鋭いターンで(15)前を剥がした動きが効きました。
おそらく剥がして中を見た段階で、ゴール前のスペースが見えており、(99)ルカオもこのスペースを感じていましたね。
後は跳ね返される中、何度でもゴールこじ開けにいこうとする選手たちが素晴らしかったです。気持ちが熱くなるゴールでしたね。
前半は比較的大人しかった(14)田中でしたが、この時間帯にこれだけキレるプレーを魅せてくれたことは残り3試合においても収穫です。
今度は(14)田中自身のゴールに期待します。
一時勝ち越しとなる(48)坂本のゴールも、このシーンの前にも何度か見せていた(99)ルカオとの関係性の良さを示すものでした。なかなかゴールに恵まれない状態が続いていた(48)坂本でしたが、(21)関の位置も視野に入れながらきっちり枠内に収めるあたりは、やはり彼の高い技術力を感じさせます。
(48)坂本、ヒーローになりかけたのですが…
最後の場面の判断については様々な意見があると思います。
筆者の意見も貼らせていただきますが、やり切ること、ミスをせずに出す厳しさ、そこは追究してほしいと思います。
3.まとめ
落とせない試合であっただけに悔しいことに間違いはないのですが、こうしてレビューを書き進めますと、不思議と今のチームの実力以上のものは出せないと、気持ちの整理もできるものです。
プレーオフ進出を諦める、諦めないといった話も大事なのですが、やはり前節群馬戦同様、落とせない試合を落としてしまった、ドローですが落としたと書きます、その事実はしっかり受け止めたいと思います。
一方で、木山ファジの長所のひとつは、課題に対して効果的に取り組み、短期間で一定の成果を出す点にあると思います。
もう一段階、進化した木山ファジの姿を残り3戦、3連勝という形で見たい。筆者は今、シンプルにそのように思うのです。
栃木戦もアウェイでは悔しい形での敗戦となりました。
シーズンダブルは許さない!今度こそ勝ちましょう!
今回もお読みいただきありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。