【向日葵は枯れていない!】36.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第36節 vs カマタマーレ讃岐 ~
試合終了直後、アウェイサポーター席の女性サポーターのお一人が涙を流されていましたが、この勝利に至るまでの苦労が象徴されているようなワンシーンであったと思います。
瀬戸大橋では年に数回、強風により列車が運休することはありますが、今回のように架線が破損したことにより橋上で列車が停止してしまうという事故は記憶にありません。
そんな、非常にレアなアクシデントにもめげずに、助け合って四国に渡られたギラサポの皆さまの最後まで諦めないエネルギーがチームの後押しになったような気がしてなりません。
前節沼津戦のレビューで「トンネルの出口は見えてきた」と述べましたが、やはりそうであったと確信できる試合内容でしたし、流れは再びギラヴァンツに向いてきたと感じています。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
北九州は第31節アウェイ相模原戦以来、5節ぶり約1ヶ月ぶりの勝利となりました。プレーオフ進出戦線に残る意味においても、大きな勝利でしたし、何と言っても1点差を勝ち切ることが出来た点にチームとしての大きな成長を感じました。
先にJ2昇格戦線について整理してみたいと思います。
2位今治が自動昇格を決めて、勝点47グループは第37節で勝点3を上積めても、6位との勝点差が4となることが確定しているため(沼津-福島の直接対決があるため)、今節においてプレーオフ進出の可能性が無くなりました。
3位富山は勝点58、勝点6差がついている7位沼津、8位北九州と最終節で勝点が並んだとしても、得失点差で大きくリードしており、プレーオフ進出(6位以内)に関してはかなり濃厚となっています。
北九州は実質残り3枠を争う状況にある訳ですが、得失点差で大きく不利な状況にあり、上位に肩を並べるだけでは足りず、追い抜く必要があります。
その意味では残り2節で上位同士の対戦が多く組まれていることは好材料で、まずは残り2戦を連勝して他力に委ねることになります。
メンバーです。
北九州では出場停止明けのCB(13)工藤孝太が早速スタメンで戻ってきました。他は前節同様ですが、サブにMF(21)牛之濱拓が戻ってきた点は明るい材料といえます。
讃岐は3-4-2-1とシステムに変更はありませんが、スタメン3人を入れ替えてきました。CB(16)奥田雄大がスタメン復帰し、(3)宗近彗がLCBへ。売り出し中、今夏J1新潟から期限付移籍中のMF(14)吉田陳平がメンバー外となり、CH(13)前川大河が3試合ぶりに先発します。古巣対戦です。LSHもMF(60)森川裕基に代わり(23)岩岸宗志が入ります。
讃岐は前日に米山篤志監督の契約更新が発表されたばかり、今節を終えてJ3残留も確定しました。
2.レビュー
(1)戦法が整理されていた前半
この試合全体を通じて言えることでもありますが、特に前半は北九州の戦い方が非常に整理されていて、かつピッチ上での共通理解も伴っていたように見えました。非常に好感を持てました。
幸先よく先制に成功した北九州でしたが、まず試合開始から讃岐を押し込んでいたということで、開始から強い気持ちで試合に入れていたことが伝わってきました。チームが非常にポジティブな気持ちでこの一戦に臨んでいたことが伝わってきます。
そんな北九州のこのゲームに懸ける強い姿勢は、キックオフの陣形に強く現れていたといえます。
最初から右サイドに多く人員を配置しているのです。
過去数戦の讃岐の被進入傾向を確認した限りでは、右サイドからの進入に弱点を抱えているような傾向はないのですが、これはおそらく右利きのCB(50)杉山耕二がフィードを送りやすい讃岐右陣内に最初から人を集めて、セカンドを確実に回収し、開始から讃岐を押し込むというねらいがあったものと考えます。
また、讃岐は非保持時にボールを奪いに出るよりも前に5-4-1のブロック形成を優先する傾向があり、おそらくセカンドボールを積極的に奪いには来ないという読みもあったのではないかと推測します。
いずれにしましても、北九州は序盤から讃岐陣内右サイドでの保持に成功。
37秒には左サイド奥LSH(29)高昇辰のクロスからCF(10)永井龍がファーストシュートを放ちます。
その後の讃岐GK(1)今村勇介のミスキックをきっかけに再び左サイドでFKを獲得した北九州はOMF(6)藤原健介からの2度目のFKを(13)工藤が押し込み、先制します。
1本目でスルーパスを狙ったことが伏線になっていたゴールであったと思います。しかし、これぐらいの壁であればきっちり越えてきますし、枠内に飛ばせる。再び(6)藤原の高い技術、こぼれ球を狙う味方の高い意識が合わさった良いゴールでした。
自分たちの戦う姿勢が早速成果として現れた北九州でしたが、先制後もいたずらにイケイケになるのではなく、讃岐の出方をしっかり見た上で攻守を展開出来ていました。
讃岐は、非保持時に北九州の保持開始位置に合わせて、ミドルブロックとローブロックを使い分けます。
回数としてはローブロックの場面が多かったと思います。
讃岐がローブロックを敷いた際の北九州は、狭いスペースに無理やり差し込んだり、一気に前線にフィードを送ることはなく、いったん後方でボールを回しながら讃岐前線のプレスを引き出します。
この時に、これは最近数試合の讃岐の傾向であると思うのですが、後方が前線のプレスに連動していないため、中盤にぽっかりとスペースが出来るのです。前半の北九州はこのスペースを上手く使えていました。
ここで良かったのが、(10)永井ら前線の選手が下りて受けるのではなく、CH(14)井澤春輝らボランチの選手が前へ出てボールを受けていた点です。これは(6)藤原が中盤各ポジションのカバーをしっかり行っていることで可能となっていた動きであると考えます。
こうした北九州の「引きつける⇒空いたスペースへ出す」の繰り返しの効果として、26分(29)高昇辰の追加点が生まれたと考えます。
讃岐(16)奥田のフィードをRSH(17)岡野凛平がスライディングで讃岐のスローインにしたところからです。
既にこの時点で(29)高昇辰が完全なフリーになっているのですが、北九州の陣形に比べて、讃岐はかなり陣形が間延びしていることが分かります。
この時間に至るまでの北九州の「引き出し」が讃岐にジャブのように効いていたのだと思います。讃岐の後方は北九州の前からのディフェンスに対して、ボールの送り出しに苦労しているのに対して、特にLWB(11)吉田源太郎の体の向きに象徴されるように、前線の選手は気持ちが前へ行き過ぎてしまっているのです。
そこで(16)奥田は、(10)永井や(6)藤原にプレッシャーを掛けられた影響もありますが、苦し紛れのミドルパスを選択してしまい、北九州CH(34)高吉正真に引っ掛けられてしまいました。
試合の流れから、北九州としては必然の追加点であったのかもしれませんが、なかなかこういう絶好機をモノに出来なかったのも最近の北九州の傾向でもありました。
しかし、この試合では北九州の各選手にゴールが見えたら、多少遠めでもシュートを撃ち切るという共通方針が見えていました。このゴール前、22分(17)岡野のエリア外からのシュートにもそのような傾向がみてとれます。書き出しの表にJ3上位チームの得点数も記載しましたが、北九州は上位では最小の37得点、まだまだ得点力の改善が必要です。
こうした課題にチームがフォーカス出来ている点は良い傾向といえるのではないでしょうか。まずはシンプルにゴールが見えたら撃つで良いのかもしれません。
一方、讃岐の陣形が間延びする原因には、米山体制になった昨シーズンから堅固な守備のベースを構築していた影響もあると考えています。今シーズン中盤戦から移籍選手の力を借りながら徐々に攻撃的な形に進化を遂げているチームですが、ずっとリトリート的に守ってきた影響もあり、最終ラインの選手にはまだラインを上げるタイミング、判断が十分備わっていないとの印象も持ちました。この点については、今まさに前向きに取り組んでいる過程にあるように見えます。
2点差になった後も、この前半については然程、讃岐の攻守の形は変わりませんでした。一定のテーマを持って戦っている印象が残りました。
讃岐の保持時には、北九州は中を締めた4-4-2ブロックを形成、讃岐は両サイドのスペースを攻めてきますが、(50)杉山らCBは積極的にサイドに迎撃していました。そして空いたスペースをボランチが埋めるというスライドはきっちり出来ていたと思います。
讃岐もミドルパスが前線に通った際にはゴール前に定期的にボールを運べており、一工夫加えれば得点が生まれそうな匂いは漂っていました。
この試合のゴール期待値(SPORTERIAより)。
(2)守勢に回った後半
讃岐が動いたのは後半開始からでした。
CF(30)丹羽詩音に代わってCF(10)川西翔太、CBの(16)奥田に代わってRSHに(20)下川太陽を入れる4-2-3-1にフォーメーションを変えてきました。
そして、明らかにチーム方針として最終ラインを上げてきます。
ビルドアップ時には両SBのいずれかが一列上がるスタイルです。
この変更により後半は一気に讃岐ペースに変わります。2点差ですので、予想された変化ともいえます。対する北九州は4-4-2のブロックで対抗します。
北九州にとって厄介であったのはRSHに入った(20)下川であったと思います。北九州陣内右サイドでキープに入り、RSB(66)内田瑞己らの攻め上がりの時間をつくるのですが、左利きなので北九州最終ラインに対してボールを隠しながら保持していました。北九州守備陣はなかなか彼からボールを奪えません。時にそのまま、ドリブルでPA前を横断する動きも見せていましたが、北九州は変わらず中を締める集中した守備でフィニッシュを、得点を許しません。
また、ボランチ経験も豊富な(10)川西が下りて中盤で数的優位をつくる動きにも北九州は苦労していたように思えます。
しかし、この守勢の凌ぎ方にも北九州の工夫がみてとれた後半となりました。
まず、選手交代面ですが62分に(6)藤原に代えて(21)牛之濱を投入し(29)高昇辰を前に出すという策は、前線からのディフェンス強化という点で適策であったと思います。
更に77分、イエローカードを貰っていた(14)井澤に代えてCH(11)喜山康平を入れて、讃岐二列目の受け手に対して明確にプレッシャーを掛けさせた、これも最近数戦で若干曖昧に感じた(11)喜山の役割が明確になっていて良かったと感じました。
そして、同じく77分に(29)高昇辰からCF(18)渡邉颯太にスイッチするのですが、(10)永井を最後まで残したという点にチームとしての残り試合への覚悟が見えました。残り試合、必要な選手は最後までピッチに居てもらうというメッセージであったと思います。
また(18)渡邉も背中で讃岐ボランチを消す動き等、守備面での積極性がこれまでの試合よりも出ていたように感じました。前節、気持ちで押し込んだゴールで先制するも最後までピッチに立てなかった悔しさもあったのかもしれません。
失点シーンは、その直前からCB間で触られる回数が増えており、時間の問題であったかもしれませんが、きっちり1点差を増本監督の采配も含めて守り切った点は、リーグ最終盤の今、チームの大きな自信になったのではないでしょうか。
3.まとめ
以上、讃岐戦をまとめましたが、チームからいよいよ総力戦の覚悟が見えた素晴らしいゲームでした。9月以降は素晴らしいゲームを展開した後の次のゲームが案外不甲斐なく終わってしまっていますが、次節はホーム最終戦ですし、J2昇格に向けて一敗も出来ない状況とあれば、チームは燃えてくれると思います。気持ちを燃やしながらも、選手全員が同じ方向性で冷静に戦えていた今節の讃岐戦は高く評価出来ると考えます。
北九州としては、下位の長野、YS横浜との対戦は恵まれているようにも感じますが、共に前回は苦杯を舐めた相手です。
長野戦に関しては、北九州の自滅という感も強かったので、今節のようにブレずに戦うことが重要です。
今週末も個人的なスケジュールの関係で、現地にはいけず、ついに今シーズンは現地観戦を果たせそうにありませんが、いつもどおり有りったけの念を北九州にお送りしたいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。
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