【ファジサポ日誌】79.「頂」を目指した果てに~第41節 ファジアーノ岡山vsブラウブリッツ秋田
前回栃木戦のレビューで、プレーオフを目指す戦いは実質的に終わりを告げたと述べましたが、11/3(祝金)に開催されました甲府-熊本で甲府が勝利したことにより、この時点でのプレーオフボーダーは勝点64になりました。
ファジアーノ岡山は残り2試合を連勝しても到達できる勝点は63までということになりますので、このボーダーには及びません。
正式に今シーズンのプレーオフ進出の可能性、言い換えるならJ1昇格の可能性は無くなったことになります。
一方クラブは、先週の栃木戦終了後から今季限りで契約満了となる選手を続々と発表し始めました。
11/1にDF(23)ヨルディ・バイス、FW(35)永井龍、そして11/4にはMF(27)河井陽介、DF(4)濱田水輝といずれも30歳以上のベテランとなります。
これはホーム最終戦となったこの秋田戦で、各選手とお別れする機会を与えてくれる、また各選手の移籍活動を有利にするクラブ側の配慮ととれます。
実はかつてのファジアーノ岡山は、ホーム最終戦後に満了選手を一気に発表したこともあり、その点について一部のサポーターから不満が出たこともありました。
筆者は2018シーズンから4季に渡り(4)濱田水輝のユニを着用してきました。新体制発表会での彼の頼りがいのある発言を意気に感じ、微力ながら応援してきました。現在は新DFリーダーである(5)柳育崇のユニを着ていますが、後に詳しく述べますが(4)濱田への感謝の気持ちを胸に臨んだこの秋田戦でした。
一方、前節終了時点でチームは10位に転落。J2の「頂」を目指しながらも、思うような成績は残せていない今シーズンですが、上手くいかないながらも第40節の段階までプレーオフ進出の可能性を残していた点はクラブに地力がついた証でもあります。
これを具体的に数字として残すためにも、この秋田戦と最終節の金沢戦を連勝し、勝点60台に乗せる、クラブ史上実は初となる2年連続の1桁順位でシーズンを終える。
そのためにも、感傷に浸るだけではなく真剣勝負で秋田に向かっていきたいと個人的には思っていました。
また、そうした真剣勝負を行うことで、遠路彼方から来岡してくださった秋田サポーターの気持ちに応えることが出来ると思ったのでした。
前置きに力が入ってしまいましたが、それではゲームを振り返ります。
1.試合結果&スタートメンバー
完敗でした。
前節栃木戦同様、非保持型でインテンシティが高いサッカーを標榜する秋田との対戦ということで、栃木戦ドローを踏まえた戦い方の進化に期待していましたが、このタイプのチームに対する有効打を何ら打ち出せずに敗れてしまいました。
また2失点の仕方も、前半ATを守り切れなかったもの、そして昨シーズンのホーム最終戦と同様、再び秋田カウンターからFW(29)齋藤恵太のスピードに振り切られ失点するという非常に印象が悪いものでした。
11月とは思えないキツイ陽射しを浴び続けたことも重なり、気力、体力共に削がれていく一戦でした。
上記の「攻勢・守勢分布図」では後半の岡山に「桃色」の時間が多くなっていますが、これは2点リードの秋田が完全に4-4-2のブロックを敷いたことによるものです。
この敗戦により岡山の今シーズン9位以下は確定。書き出しで述べました、個人的にチーム成長の目安と思っている一桁順位も、次節最終戦の金沢戦に勝利した上で、他クラブの結果を待つ形となってしまいました。
それでは、メンバーです。
岡山スタメンのポイントの一つは、契約満了選手の起用にあったと思います。ここは賛否両論あった点であると思いますが、まずCB(23)バイスをスタメン起用してきました。また、CB(4)濱田、МF(27)河井もベンチ入りを果たします。
一方でキャプテンCB(5)柳育崇やFW(48)坂本一彩はベンチ外となりました。その後の情報によりますと、(5)柳は栃木戦試合中に肋骨を骨折していたとのこと、(48)坂本に関してもクラブ発信の練習動画ではその姿が見えず、何らかのコンディション不良があったと推測されます。
2人とも、他のベンチ外選手と共に、試合前にスタジアム前の販促ブースでサポと交流する様子、試合を観戦する様子が確認できました。もちろん最終戦セレモニーにも出席していました。
他ではRIHに(44)仙波大志がスタメン復帰、その持ち運びに注目しました。
秋田に関しては、前節大分戦でレギュラーLSB(33)飯尾竜太朗が接触プレーで肋骨骨折、肺挫傷の重傷を負いました。LSBには(13)才藤龍治が入りました。
岡山からレンタル移籍中のCB(4)阿部海人はレンタル元との試合には出場出来ない契約上の理由により欠場です。
2.レビュー
この試合で大きく苦戦した原因を2点に絞ってみました。
まとめも含めると3点かもしれません。
(1)保持できないマイボール
戦術的な苦戦の原因です。
秋田は、対戦相手の前プレの在り方に関わらず、多少アバウトでもロングボールで前線に起点をつくってきますので、試合序盤に多少自陣内に押し込まれる点は許容しても良いと思うのです。
問題は自陣でマイボールになった後です。これは前節も含めてですが、とにかくマイボールになってからのボールロストが非常に早いです。
これでは、ピッチ内では当然のこと、観ているサポーターも非常にしんどくなります。
マイボールを少しでも長く保持するという意味で考えさせられるシーンがありました。10~11分にかけてです。
バクスタ側での流れもあり、観戦中に印象に残ったシーンです。
岡山の攻撃のねらいと課題の両面が出ていると思いました。
GK(1)堀田大暉からのビルドアップなのですが、(23)バイスやRCB(15)本山遥が、秋田前線からのプレスを冷静に剥がしながら、前に持ち運んでいた点に好感を持ちました。
(15)本山から(44)仙波へのパスはミスとなり一時秋田ボールとなりますが、跳ね返りをキープした(44)仙波が中央に持ち出し左へ展開します。
秋田、吉田謙監督のこの試合のねらいは岡山ボールをコンパクトに奪いにいくことにありましたので、岡山ボールに対して次々とプレスが掛かるのですが、逆にこのプレスを剥がせば、岡山には広いスペースが控えています。
(44)仙波が的確に左サイドに展開、RWB(2)高木友也へボールが渡ります。斜め前方に秋田RSH(9)中村亮太が控えていますが、隣のレーンにはLIH(41)田部井涼がスタンバイ。(2)高木はドリブルで(9)中村を動かして(41)田部井へパスを出します。
ここまでの展開はいいと思います。岡山としては想定していた形で秋田の前プレを回避し、前進できました。
しかし、ここからの展開がもったいないように映りました。
(41)田部井は一気に前線のFW(7)チアゴ・アウベスへロングボールを送りますが、秋田CB陣に対応されてしまいました。
(41)田部井の左足からの右前方へのキックは開幕当初から筆者は期待しているところもあり(※下記事参照)、おそらく(41)田部井自身もその強みをみせようとしてくれたのだと思いますが、状況的に(7)チアゴには2人のCBがついていて、裏は取りにくい状況でした。
それよりは、図内黄色の破線で示しましたが、(41)田部井の更に内に進出したCH(6)輪笠祐士に当て、秋田を引きつけ(41)田部井へのリターンをFW(8)ステファン・ムークに出すといった形の方が、より岡山の流れを持続できたと思いますし、決定機に繋がる可能性は高かったとイメージできるのです。
これがパスサッカーに特化したチームの場合、後者のような攻撃の一択になると思いますので、迷う要素はないのですが、岡山の場合、中盤底からATへの選択肢は「繋ぎ」と「前線裏ねらい」の併用だと思っていますので、今後岡山が磨くべきは、この選択の判断力であると筆者は考えるのです。
実はこの試合で、そうした判断を最も的確に行えていたのは、途中出場の(27)河井であったと思います。まずボールを楽に受けられる位置を常にとっていましたし、相手の立ち位置、味方の立ち位置、味方の選手の特長、試合全体の流れを踏まえながら各プレーを選択していました。
岡山に対する気迫のメッセージのように筆者には映りました。
決定機には至りませんでしたが、71分CH(14)田中雄大へのロングフィード、72分LWB(17)末吉塁への浮き球のパス、92分強烈なミドルシュート、いずれも効果的な攻撃でした。
確かに稼働率、守備時のスピードに難点は抱えますが、一定の人件費を割いても彼とは契約更新する必要があったのではないでしょうか?
もっと述べますなら(27)河井が在籍した2年間で岡山の若手は彼から学ぶべきものをちゃんと学んだのでしょうか?
昨シーズンから今シーズンへと強化部の陣容が変化する中で、単に人脈が異なるから退団になった訳ではないと思いますが、クラブの彼への評価については関心が湧きます。プロの記者さんたちの取材を待ちたいと思います。
話が若干逸れてしまいましたが、この試合でも結局はマイボールを保持する時間を延ばせないので、秋田の攻撃に対して防戦一方になってしまったのだと思います。いくら最後をやらさない粘り強さがあっても、ここまでボックス付近、ボックス内への侵入を許してしまうと確率的に失点は免れません。
1失点目は時間が時間だけに集中力の欠如を責められても仕方がないのですが、試合全体の流れから必然であったと筆者は感じました。
以上より、来シーズンへの課題として、今のサッカーを続ける前提で述べますなら、保持時の具体的シチュエーションでの判断力を磨くことが必要です。これを磨くことが出来れば、今の岡山のサッカーはかなり前進することが出来ると思います。
(2)キック力の強化は必須
前節の栃木戦から目立つのが、岡山各選手のフィジカルの弱さです。
特に、マイボールを保持できない理由の一つとしてショートパスにしても、フィードにしてもスピード、高さが不足している点が挙げられます。
この点については、以前にも同様のことを述べたかもしれませんが、今シーズン多くのJ2クラブがインテンシティを強化している間、岡山は「繋ぎ」に一から取り組んでいました。このことによる準備不足、スタミナ不足という面はあるのかもしれません。
この点は10月以降の苦戦の原因をチームが如何に分析しているのか?
その内容によって今後のチームづくりの方針に反映されると思います。
どのようなサッカーをするにしてもそれに相応しいフィジカルは身につけなくてならない。これは肝に銘じておきたいところです。
3.まとめ
以上、岡山にとって大変酷い試合となったこの秋田戦を振り返りました。SNSを見ていますと、11月とは思えない暑さに耐えながら「お金を払う価値」に値しない試合を見せられた怒り、哀しさ、悔しさを感じたサポーターも多かったようです。
私のようなサポーターは書き出しで述べましたように、安易に、「プレーオフ」が無くなっても一桁順位を目指せ、勝点60を目指せなどと前向きになれます。また、クラブや放送実況も「どの試合も重要」とゲームを盛り上げようとします。それが興行的に必要であるからです。
一方で、現場は、実際にプレーする選手たちはそんなに簡単に前向きにはなれないのだなとも気づかされたこの秋田戦でした。
それをメンタルの弱さと捉えるのであればそのとおりであるし、今回の対戦相手の秋田のようにどの試合でも同じように自分たちのサッカーに徹する強さも必要なのでしょう。
しかし、この試合での岡山の選手たちのプレーや表情からは明らかな落胆ぶりも伝わってきました。おそらく彼らは、その可能性が完全に消えるまで、これまでの談話・インタビュー等で残してくれていたとおり、「頂」を目指し、プレーオフ進出を目指してくれていたのだと確信できました。
実は私たちサポーターもそうであったのかもしれません。
筆者がそう感じただけかもしれませんが、スタジアムに集まった8,985人の観衆も試合前、どこかしら翳りのある表情を見せていたように映りました。
チーム、サポーター共に心身を削って目標に向かっていた反動がストレートに出てしまった一戦といえます。
(23)バイスが秋田(29)齋藤に振り切られた瞬間、この2年間「諦めない」を伝え続けてくれた(23)バイスの無言のメッセージを筆者は感じました。
さて、まとめた後なのですが、現段階で退団が発表されている選手たちを惜別したいと思います。
4.惜別
(1)DF(23)ヨルディ・バイス
彼が残してくれた「岡山に足りないもの」が何なのか?
今、簡単にはわかりませんし、これから時間をかけて探していく類のものなのかもしれません。
しかし、軽薄ながら筆者の予想を述べますなら、それは「自己犠牲」なのかもしれません。
この2季、特に昨シーズンの自らの心身を削るようなリーダーシップは、ひょっとしたら彼の選手生命を短くしてしまったのかなとすら思えるのです。
個性的でキャプテン経験者が多く、ピッチ上では我が強い選手たちをまとめるにあたって、彼は「汚れ役」を買って出てくれたのではないかと考えています。
前項でも少し触れましたが、秋田(29)齋藤の肩に手が掛からない、ひょっとしたら掛けられたのかもしれないけど、あえて掛けなかった…。
「この先はお前たちで考えてやってくれよ」。完全に想像と言いますか、妄想かもしれませんが、筆者は2失点目のプレーをそんな想いで見ていました。
バイス監督がつくるチーム、是非見てみたいです。
(2)FW(38)永井龍
長崎時代の脅威としての存在感、開幕戦の瑞穂で決められた2発、あの存在感が戻ってきたのではないか?と感じた昨シーズン、アウェイ甲府戦でのゴールでした。
自らのゴールは生まれなかったものの、ホーム仙台戦での献身的な前プレも印象に残っています。そう彼も「自己犠牲」的なプレーが出来る選手でした。息子さんにいいところを見せたい、現役への意欲は泥臭く強いものを感じます。輝く姿をまた見せてほしいです。
(3)MF(27)河井陽介
ミッチェル・デュークもそうですが、清水サポと岡山サポの交流のきっかけとなった選手の一人です。バイスもそうなのですが、清水の「10番」河井陽介のような選手が移籍してくるようになった。加入が決まった時、高揚感を憶えた選手の一人です。
木山ファジの初ゴールは彼の右サイドからのクロスを川本梨誉が決めたものでした。あの拳を大地に突き刺すようなガッツポーズは今でも記憶に残っています。
試合に出場すれば間違いなく効いていましたが、筆者にはそれを表現するにはまだまだサッカーへの理解が必要でした。自らのゴールは昨シーズンのアウェイ秋田戦のみでしたが、まさかの逆転負け。どこか「もっていない」面が人間臭くて余計に魅力的でした。
「縦に速い」サッカーを志向するが故に…。
今、手放すのか?
永井もそうですが、ご家族を含めて岡山を気に入ってくださったご様子、とても嬉しかったです。
(4)DF(4)濱田水輝
昨日のスピーチでの「僕を拾ってくれた」。
そんな気持ちで岡山に来てくれていたのか?
それが新加入選手発表での熱い挨拶に繋がり、個人的にユニを着用するきっかけとなりました。
加入初年度2018シーズンは、高卒新人、阿部海大とレギュラー争いを繰り広げ、開幕から4試合はスタメンを阿部に譲ったものの、5節大雨の西京極でスタメン出場、決勝ゴールも決め勝利に貢献しました。
度々の負傷はチームとして確かに痛く、彼がいてくれたらと思う試合は数え切れないほど存在しました。
2020シーズンはコロナ禍の影響を受けたリーグ戦で、苦しむチームを引っ張ってくれました。キャリハイの40試合出場、苦しい状況でも前向きに取り組むその姿勢は彼の人間力を感じたシーズンでした。
この2シーズンは出番が減っていましたが、副キャプテンとしての存在感、社会貢献活動やセカンドキャリアに関わる活動で、新たな存在感も示してくれました。サッカーのみならず幅広い活躍を見たい一人です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。