横隔膜と重心
疲れた時、ストレスを感じる時、
呼吸が入らなくなることがあります。
これは、
横隔膜に過度の緊張が入り、
呼吸機能に異常をきたすためです。
横隔膜が収縮すると、
胸腔が広がって 息を吸う事ができ、
横隔膜が弛緩すると、
胸腔が狭まって 息を吐く事が出きます。
ゆえに
横隔膜が異常緊張の状態にあると、
息を吐き切れないことにより
呼吸がしづらくなるのです。
先ごろ問題になった
コロナの後遺症の多くは、
横隔膜の緊張による事が考えられます。
長引く咳や呼気困難に対して
その処置に困っていた
薬剤師さんにこの仮説をお話すると
たしかにその通りかも知れないと
医師に話してみると言われました。
このように、
横隔膜のケアは、
自律神経の異常や、原因不明の
病氣、パニック障害などを
解決するうえで ポイント
となるのです。
横隔膜は、名前には膜とあるものの
その正体は筋肉なので、
我々治療師の守備範囲には入ります。
さらに、横隔膜は、
呼吸に関与するだけではなく、
その脚部という部位では、
大腰筋や腰方形筋などの
姿勢の保持に働く筋肉と
連結します。
そのため、
胸椎と腰椎の継ぎ目あたりの
関節の安定化にも働くのです。
1 横隔膜の構造
横隔膜とは、胸郭の下部にて
胸腔と腹腔をしきる位置にある
筋肉と腱から構成される
ドーム状の筋肉のことを言います。
横隔膜は、呼吸運動や姿勢保持に
重要な役割を果たしています。
横隔膜は、腱中心という部位を
頂点としたドーム状を呈しますが、
その筋肉の付着する部位により
胸骨部、肋骨部、腰椎部に分かれます。
横隔膜は腰椎に付着しますが、
ドーム状の実質部から
腰椎まで伸びている
細長い部分が脚と言われます。
横隔膜の脚とは右脚と左脚があり、
ともに腰椎に付着しています。
それぞれ付着している部位が異なり、
左脚はL2、右脚はL3に付着します。
脚は内側と外側に
分かれております。
内側脚はと外側脚では、
それぞれ付着する部分や特徴に
違いがあります。
右側の内側脚は太くて長く、
L2-4の前面に付着します。
左の内側脚は細くて短く、
L2とL3の間に付着します。
横隔膜の外側脚は、
『内側弓状靭帯』と『外側弓状靭帯』
という2つの頑丈な靭帯によって
付着部が分かれます。
横隔膜の外側脚は、
腰椎1番の椎体と横突起とは、
大腰筋の上方にある
内側弓状靭帯がつなぎます。
腰椎1番の横突起と第12肋骨の頂点は、
腰方形筋の上方にある
外側弓状靭帯がつなぎます。
とくに
外側脚はL1との関係性が強いことから、
胸腰椎移行部や上位腰起因の痛みには、
横隔膜の異常も関与すると思われます。
2 横隔膜の働きとその異常
横隔膜の働きは、大きく二つあります。
呼吸機能と姿勢維持機能です。
① 呼吸機能
息を吸う時、横隔膜が収縮し
(下方へ引き下げる)
胸腔内が陰圧になることで
胸郭が広がり、肺を拡張させて
空気を取り込みます。
息を吐く時は、横隔膜が弛緩し、
胸郭と肺が自動で戻り、
空気を吐き出すので筋肉は
使用しません。
ストレス社会になた近頃、
呼吸が浅い人が増えています。
呼吸が浅いと息があがり、
酸素や血液がいきわたらず、疲れが蓄積します。
そのため
私は、横隔膜を緩める施術を多用します。
息を吐ききれないと 息を吸えないと
よく言われます。
横隔膜が過緊張して緩まないと
息を吐き出すことができないのです。
横隔膜を緩めると、患者さんは
「はぁ~生き返った」と
ホッとしたような声を出されます。
呼吸が自然と入り
体がリフレッシュするためです。
自律神経症状はもちろん、
筋肉も緩むので
肩コリや腰痛などにも
効果的です。
② 姿勢の安定化作用
横隔膜が収縮すると腹腔内圧が高まり、
体幹の筋群と連動して姿勢を安定させます。
特に、動的な動作や重心移動時に体幹を
安定させるために重要です。
とくに、横隔膜の脚部が連結する
大腰筋と腰方形筋は、
腰椎の安定や体幹の安定に
関与する筋肉です。
〇 大腰筋 腰椎全体に付着し、
腰椎を前に引きつけて
腰のS字カーブを保持する。
立っているときなど、
足が固定されている場合に
腰椎を前方に引き出し、
腰の姿勢を安定させる役割があります。
〇腰方形筋
腰椎の両側を縦方向に走行し、
大腰筋とともに
腰椎全体に対する垂直方向の
安定性をもたらします。
また、胸腰筋膜の一部として、
深部から体幹の安定性に
関与しています。
その他にも、
横隔膜と骨盤底筋群の共同作用により、
お腹の中の圧力が均等に
かかるように働くことで
姿勢を安定させます。
横隔膜を鍛えることで
姿勢が良くなり、
腰痛や肩こりが改善し、
体は疲れにくくなります。
横隔膜の機能が低下すると、
不良姿勢、慢性疲労、
集中力の低下、むくみ、静脈瘤、
便秘、逆流性食道炎などの
原因になります。
3 横隔膜と重心
横隔膜は、その部位により
重心側が緊張している場合と、
非重心側が緊張している場合が
あります。
横隔膜は、腱中心 肋骨部 胸骨部
腰椎部(脚部)があります。
肋骨部は、非重心側になり、
腱中心 胸骨部は、
重心側扱いになります。
肋骨部は、息を吸った時に緊張し、
息を吐いた時に緩みます。
そのため、息を吐いた時に緩めると
本来の呼吸機能を取り戻します。
腱中心と胸骨部は、息を吐いた
時に緊張し、
息を吸った時に緩みます。
息を吸うと肋骨やお腹全体は
膨らみますが、みぞおちの所だけ
凹みます。
つまり胸骨部の横隔膜は、
息を吸った時に緩める
必要があります。
つまり、
重心側は息を吸った時に緩め、
非重心側は息を吐いた時に
緩めます。
横隔膜の腰椎部は、左脚と右脚
に分かれますが、
外側脚と内側脚の緊張は、
左脚と右脚で異なります。
重心側は、内側脚に付着する
腰方形筋が緊張し、
非重心側は、外側脚に付着する
大腰筋が緊張します。
そのため、
重心側の大腿は内にねじれ、
非重心側の大腿は外にねじれます。
腰方形筋は、重心側を息を
吸った時に刺激して緩め、
大腰筋は、非重心を息を吐いた時に
刺激して緩めます。
胸骨部・腱中心の横隔膜の緊張
を緩める場合、椎10番傍側の緊張を
息を吸った時に緩めます。
また、
肋骨部の横隔膜の緊張を緩める場合、
胸椎9番傍側の非重心側の緊張を
息を吐いた時に緩めます。
腰方形筋に関連する腰椎は 腰椎2番
大腰筋に関連する腰椎は 腰椎1番
腰椎2番は 重心側の緊張
腰椎1番は 非重心側の緊張
となります。
筋肉だけでも効果はありますが、
最後に胸椎、腰椎の調整をすると、
なんともいえない 呼吸が入る感覚を
味わえます。
4 横隔膜ゆるめー指打鍼
横隔膜の緊張を緩める方法として、
セルフで行える指打鍼を提案します。
打鍼術は、安土桃山時代の御典医
御薗意斎 夢分斎親子が考案した
腹部に行う鍼術です。
打鍼術は、先の丸い鍼を槌〔槌〕
で叩きますが、
指打鍼は、医師が行う胸腹部や
背部に行う
打診法を応用して行います。
下の図のように、利き手の中指で
もう一方の手の中指をトントンと
リズムよく叩きます。
古典の手法のように、
もう一方の手の親指と人差し指で、
胸腹部に当てた中指を
はじいてゆるめるのも 効果的です。
心窩部は、古典でも
―苦労の苦労の腹
心づかいのこりなり。
不食、気うつして不眠―
とあるように、ストレスの
影響を受けて硬くなっています。
これを、指打鍼で緩めていくのです。
右重心タイプの場合、
胸骨と剣状突起の右側を
息を吸った時に
トントントンと3回たたく
左の季肋部を 息を吐いた時に
トントントンと3回たたく
左重心タイプの場合、
胸骨と剣状突起の左側を
息を吸った時に
トントントンと3回たたく
右の季肋部を 息を吐いた時に
トントントンと3回たたく
トントントンを1セットとして、
たたいてゆるめていく。
腹壁に当てた中指を
肋骨や胸骨の下に潜り込ませて
横隔膜に刺激を送る技を加えると
さらに効果的です。
横隔膜は、自律神経症状にも
腰や股関節の痛みにもよく効きます。
今回は、呼吸をはじめとする
自律神経系の以上に効く 指打鍼による
【横隔膜ゆるめ】を紹介しました。
横隔膜の脚部を緩める方法は、
以前の記事で紹介した【足落とし】
が適応します。