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科学はいかに幸せを証明するか──実践 幸福学【読書感想】

幸せについては心理学、神経科学、政治経済学をはじめいろいろな学問分野で研究されている。筆者の友原章典氏は大学で幸福を経済学から研究しているが、仕事柄いろいろな業界の論文に目を通す。

そんな友原氏によれば、幸福になるための条件はどの領域から分析しようとも、似たような結論に落ち着くのだという。

人生の価値観をしっかり持ち、感謝や親切の気持ちを忘れてはいけません。お金はあるに越したことはありませんが一般的に思われているほど重要ではありません。むしろ、身近な人を気遣って安定した人間関係を築くことが大事です。また、楽観的に考えられ、人生を変えられると思う人は幸せを引き寄せています。

友原章典

こうした知見は誰もが経験的にある程度は知っているのではないだろうか。ただ、頭では理解しても実践はなかなか難しい。本書では幸福を実践するための工夫を紹介する。


ポジティブな思考になってみる

幸せな人は成功しやすいと言われている。幸せな人は自分をポジティブに評価しているので自信があり、他人にもポジティブな態度で接して社交的かつ活動的になり、好奇心が旺盛になる。

成功が人を幸せにするのはもちろんだが、ポジティブな感情やメンタルが成功に導くということは古来より分かっており、幸せな人の考え方や行動を真似て、幸せになろうというアプローチの研究がされている。

身近な方法としては日記がある。普通の日記ではなく、週に1回振り返って良いことを5個書く。すると、毎週嫌なことを書いた人と比べて人生の満足度が高くなり、他人との結びつきを意識するようになる。

ここで1つコツがある。「もしこの素晴らしい出来事や出会いが無かったら」という見方・書き方をするのだ。一つ一つの出来事に適応するとありがたみが半減する、とても驚くべき出来事であるかのように感じるとポジティブな感情が増幅する。

身近な人に感謝を伝えることも大事だ。手紙でも良い。

良い出来事を思い出すことも大事だ。この時、表情にも気を遣って、楽しそうな表情で出来事を思い出すだけでもポジティブな感情になるという。人間の身体が感情を作る側面があり、ポジティブな表情はし得と言えそうだ。

ボランティアをした人の幸福感は、それを受けた人より7.6倍も改善していた。情けは人の為ならずと言うが、自分が他人の役に立つと、自分の人生をコントロールできているという感覚が増すのだそうだ。

例えば自分と同じ病気の患者の話を聞くボランティアを2年続けた患者は、それだけで自身が増して落ち込むこと減り、幸福感が向上していた。

出典:東洋経済ONLINE

他にも、親切や感謝以外には憎い相手を「許し」てあげるとネガティブな感情が緩和する。具体的に和解しなくても、自分の考え方を変えるだけで効果があるというか、そちらが本質なのだ。

いろいろな方法を挙げたが、ポジティブになるための完璧な方法はない。
全ての方法に共通する問題として、効果が一時的であることが挙げられる。
例えば、同じ親切行為でも繰り返すとやがて幸せを感じなくなり、初期の幸福感に戻ってしまう。介護をフルタイムでやる人は精神障害の危険性が増す。感謝の日記も週3回つけると幸せに感じなくなる。許しの手紙も、辛い過去に向き合うことで憎しみが増えるリスクもある。

ただ、効果が無いわけではない。時と場合によるので、どの方法をどのように使えばいいかという視点が大事になるというわけだ。

ストレスに対処する

ストレスが少ない状態は分かりやすい幸福の形だろう。というより、ストレスを感じる状態が不幸と言えるかもしれない。慢性的なストレスは、脳の偏桃体をが反応してストセスホルモンを分泌させ、脳や体に悪影響を及ぼす。うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクを高め、がんや糖尿病のリスクも上がることが分かっている。

ストレスを溜めない工夫は幸福につながる。科学お墨付きの気分転換方法として特に大事なのが定期的な運動だ。

3週間以上にわたる定期的な運動の効果は多くの論文で認められており、うつ病患者にも抗うつ薬による治療と同じ効果があった。運動をすると脳も変わる。交感神経が過敏に反応しにくくなり、海馬を大きくして空間記憶を改善していた。

ただし、運動と言ってもある程度の強度が必要だ。同じ時間、エアロビクスをしていた被験者とストレッチしていた被験者とではストレス関係の新景物質の差が有意にあった。

その他、以下の内容が効果がある。

  • 自然散策:90分自然の中を歩くと、同じ時間都市部で過ごした人と比べて精神疾患の危険と関連している「反芻思考」や神経活動が抑えられていた。理由は不明だが、都市に住むと精神疾患の可能性は上がるようだ

  • 園芸:ストレスがある時に園芸をすると、気分が回復してコルチゾール(ストレスホルモン)の値が下がる。読書に比べて効果が出ることが実証されているそうだ。雑草をとったり種をまいたりで十分で、重労働は不要

  • 塗り絵:20分間させると効果が出たという。目の前の作業に集中させるという意味で、瞑想のような効果がある可能性がある

  • 音楽:クラシック音楽が特に効果がある。理由は不明。ただしどんな音楽でも効果はある。

有効な気分転換はここで取り上げた方法に留まらない。人によってストレス発散の方法はさまざまなので、いろいろ試して気分が良くなる方法をメモしておこう。

マインドフルネスとマインドワンダリング

私達はよく余計なことを考える。例えば会議に参加しながらランチのメニューに思いを馳せる人もいるだろう。こうした時でも無意識に手は会議のメモを取り続けていたりする。こうした目の前のことに集中してない状態を「マインドワンダリング」と呼ぶ。通常、マインドワンダリングは私たちを不幸な気分にする。要は”うわの空”な状態が長い人は不快な気分を感じがちだということだ。

マインド・ワンダリングでは、心が不快なことや中立的なことに向かう傾向が強く、人々の気分を下げ幸福度が下がるという実証データがある。ハーバード大学のマット・キングスワース博士はiPhoneを使って「Track Your Happiness」という幸福度追跡アプリを開発して、人々のその瞬間瞬間の出来事の幸福度への影響を分析することに成功した。

彼はこのアプリで15,000以上の人々からリアルタイムで、その瞬間何をしているか、マインド・ワンダリングの質問(現在していること以外のことを考えているかどうか)、今の気持ちは快、不快、中立(どちらでもない)か、のデータを得たところ、起きている時間の半分(46.9%)はマインドワンダリング状態であることマインドワンダリング状態は基本的に不幸な気分であることを突き止めた。ちなみに不幸だからマインドワンダリングになるのではなく、マインドワンダリングだから不幸になるという因果関係も実証されてるそうだ。

うわの空で不幸になるの?と思うかもしれないが、昔のことが急にフラッシュバックしてしまったり、昔の出来事を思い出してクヨクヨしてしまうことは無いだろうか?ふとした時に最悪の未来を想像して、不安に押しつぶされそうになったことは誰でもあると思う。

マインドワンダリング自体は、例えば新しいアイデアがひらめく契機になったり、不幸感につながらないケースもあるなど、必ずしも悪いことではない。

だが、現代社会はマインドワンダリングが増えやすい生活環境と言える。

マインドワンダリングを避ける方法の一つが、スマートフォンとSNSの抑制だ。マホを常に持ち歩くことによって、視覚、聴覚がスマホにとらわれるようになりました。頻繁にSNSをチェックしては他人の投稿をねたんだり、不愉快な思いにさせられたりしてストレスがたまっていきます。

マインドワンダリングの時間を減らす方法の一つとして、マインドフルネス(Mind fullness)呼吸法や瞑想が 注目されている。

移り変わる瞬間瞬間の中、自分の思考や感情や身体感覚と自分を取り巻く環境に注意を集中して気づきの状態を維持するようにすることが幸福に通じる。

ただ、マインドフルネスを実践しても鬱や不安、精神的苦痛を和らげる効果は小程度とするボールメイジャーらの指摘もある。マインドフルネスはもともと精神疾患のための治療法ではなく、慢性疼痛の治療法としてスタートしている。また長期的な効果についてはまだ分からないことが多い。研究もスマホアプリを使って30分やっただけから、専門医のもとで16週間取り組んだものまで多種多様であるため、期待しすぎない、または専門家の指導でやるのがよさそうだ。

青年よ、大志を抱けー!接近目標と回避目標

何度か述べたように、自分の力で人生をコントロールできていると感じると幸福感が増す。このため、目標に向かって努力する過程は私たちを幸せにする。

目標の立て方にはコツがある。「接近目標」を立てることだ。目標には2種類ある。

  • 接近目標:目標に近づこうとする目標で、現状と望む結果との距離を縮めること。

  • 回避目標:反目標から離れようとする目標で、現状と避けたい結果との距離を広げること。

例えば健康を求めてハイキングで新鮮な空気を吸うことは接近目標、タバコをやめて病気を防ぐのは回避目標となるが、人間は接近目標の方がうまくいく。回避目標を立てた人は不安や苦悩を感じ、幸せに感じない。理由は単純で、自制心を働かせて○○をしない、とすると疲れてしまい成果が出にくいからだ。

自分の能力に自信がない人ほど回避目標を使う傾向にある。そのため、目標を立て、そのステップを分解して計画を立てる人が、幸せになりやすいと言える。もちろん、目標に拘り過ぎるのは良くない、失敗した時のリスクがデカすぎるため、要注意である。







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