映画『レジェンド&バタフライ(THE LEGEND &BUTTERFLY)』の感想 その1
AmazonPrimeで視聴可能となっていたので鑑賞しました。
良かったです。感動しました。
以下ネタバレありです。今後視聴するかもしれない方は見ないほうがよろしいかと思います。
タイトル「レジェンド&バタフライ」の意味
訳すと「伝説と蝶」ですね。「蝶」とは、信長の正室である濃姫の別称の「帰蝶」のことでしょう。「伝説」とは、戦国時代の英雄である「信長」でしょう。
つまり、この映画は、戦国時代の時代劇映画ではなく戦国時代の信長と帰蝶とのラブロマンスです。この認識が違うと「期待外れ」になってしまいます。
で、もう一つ、主人公は帰蝶です。信長役をキムタクこと木村拓哉が演じているので、どうしても信長と帰蝶が主役と思ってしまいますが、あくまでも綾瀬はるか演じる帰蝶から見た信長と解釈したほうがすんなりと映画の世界観に馴染むことができると思います。
以後、この視点から戦国ラブロマンス巨編「レジェンド&バタフライ」を見ていきたいと思います。
輿入れ
若き信長の元へ隣国美濃から姫が嫁いできます。名は帰蝶。美濃から来た姫なので濃姫とも呼ばれますが、ここでは帰蝶で呼称します。
初夜から帰蝶と信長は衝突。生意気な物言いの信長に反発する帰蝶。
この時の帰蝶演じる綾瀬はるかの体捌きがキレキレで見事でした。
この体術は帰蝶が幼い頃から父道三に仕込まれているかのような印象。別の場面では短刀を模した木剣で相手を倒す訓練。即座に身体が反応するくらい仕上がっている感じでした。
これって特殊部隊並みだけど、これが後に重要な意味をもつとは…
鷹狩りから帰ってきた信長に帰蝶は「わらわなら弓矢で充分」と挑発。弓矢で狩りの競争へと。
帰蝶の夢
順調に獲物を獲る帰蝶。焦った信長は足を踏み外し崖から墜ちかける。
信長を助けた帰蝶は生まれ育った美濃にはない海を見て夢を語る。
「水運は富をぎょーさんもたらす」「尾張の湊を取る気か」
「欲しい」
「やらんわ」
「海を手に入れ、船に乗ってその向こうらへ行ってみたい」
「その向こう?」
「異国じゃ」
「南蛮か、南蛮なぞ行ってどうする」「分からん」
「そこには何がある?」
「知らん。ただ、ただ無性に行ってみたいのじゃ」
海を見つめる帰蝶の顔を見た信長は再び海を見返した。
この時、信長は帰蝶の夢を叶えてあげたいと心に決めたのでしょう。
帰蝶と信長の夢。全てはここから始まるわけですね。今後の信長の奮闘ぶりは、帰蝶の夢を叶えるため。こういう信長像も新鮮で良いですよね。
長良川の戦い
帰蝶の父である斎藤道三と兄である斎藤義龍の争いの報が信長の元に。
道三の援軍として出陣しようとする信長に道三敗死の報が届き、帰蝶も父の死を知る。
城中へ駆け込む帰蝶。
何事かを察する信長。
この時の信長の表情が良かったですね。
帰蝶が修得した体術、婚礼前の道三と帰蝶のやりとりから、道三と帰蝶の絆の深さがうかがわれる。
その道三が死に、今や敵となった義龍の妹帰蝶は「役目は終わった。敵将の妹となり調略の道具として利用されるなら自害する」と短刀を握る。
止めようとする信長。体術に勝る帰蝶は逆に信長の喉元に刃をあてる。構わず身体を前に出す信長。さがる帰蝶。
「おぬしの役目は、わしの妻じゃ!」
信長の言葉に力が抜ける帰蝶。
この場面、最高でした。夢を語った帰蝶。その夢を叶えたいと決めた信長。その上で道三の死後に「わしの妻じゃ」と言い切った信長。帰蝶の夢は信長の夢。二人の絆が確かなものとなる瞬間でした。
桶狭間
隣国今川の大軍が迫る中、対応に苦慮する信長。
奥では逃げたほうがいいと家臣に勧められる帰蝶。
侍女の各務野(かがみの)が「姫、明日は激しい雨になりまする。今のうちに逃げ出しまするぞ」と帰蝶を促す。
帰蝶は軍議の終わった信長の元へ。
妙案が浮かばず諦め気味の信長。
帰蝶はマムシと呼ばれた父道三を例えにだす。
「マムシは相手が巨躯の牛であろうと急所をひとかみして殺してまう」
「急所?どこに急所があろうか!」
「敵の身になり考えてみやれ。敵は必ず勝つと思いやる」
「それが急所か」
信長と帰蝶の丁々発止のやり取り。
今川に気付かれず如何に近付くか。
「雨じゃ、うちの各務野は明日の天気を外したことがない」
「当てにならぬ」
「賭じゃ」
徐々に戦略が浮かび上がってくる様が面白かったですね。何気ない各務野の言葉も効いていました。
この時、各務野がいった「尾張は終わり」の駄洒落ですが、源義朝を討った長田忠致(ただむね)の話しが有名です。多分、長田忠致の話しが元ネタだと思います。
『義朝の息子の源頼朝が兵を挙げると忠致は厚顔無恥にもその陣列に加わる。頼朝から寛大にも「懸命に働いたならば美濃尾張をやる」と言われたため、忠致は懸命に働いた。しかし平家追討後に頼朝が覇権を握ると、頼朝の命によって処刑された。その時に「約束通り、身の終わり(美濃尾張)をくれてやる」と言われたと伝えられている』
閑話休題
この映画で桶狭間の戦闘シーンはありませんでした。私は必要ないと思いました。信長と帰蝶のやり取りで桶狭間の戦いという史実が浮き彫りになったのですから。
雨の中を出撃する信長。帰蝶は近習に言う。
「又助、ここにわらわがおったことは他言無用ぞ。殿は独りで考え、敦盛を悠々と舞い出撃されたと言い回るがよい」
敦盛を舞う帰蝶。
敦盛を舞う信長。
二人の姿が重なる。
「人間(じんかん、にんげん)五十年、下天(げてん)の内を比ぶれば、夢幻(ゆめまぼろし)の如くなり。一度(ひとたび)生を享(う)け、滅(めっ)せぬもののあるべきか」
信長が愛したという幸若舞「敦盛」これがこの映画のテーマなのでしょう。
「敦盛」を舞う帰蝶と信長。
帰蝶の夢。
信長の夢。
夢幻の如くなり。
これらが集約された場面でした。
長くなりそうなので次回へ