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不倫・浮気の問題は、別の人に目を向けることではない
最近、少しだけ哲学に関する本を読んでいて、「ああ、確かに」と思ったことがあったのでシェアしたいと思う。
読んだ本はこちら、『100の思考実験』。
列車の暴走で40人が死にそうなとき、5人だけ死ぬほうにレバーを切り替えられるとしたらどうするか? 身体と脳・生命倫理・言語・宗教・芸術・環境・格差……「ハーバード白熱教室」で取り上げられた「トロッコ問題」をはじめ、哲学・倫理学の100の難問。
有名な「トロッコ問題」をはじめ、何を持って同じ船だとするのかを問う「テセウスの船」、コンピュータに政治ができるのかを問う「自動政府」、動物の尊厳について問われる「わたしを食べてとブタに言われたら」など、100の思考実験が収録されている本著。
その中で私が「ああ、確かに」と思ったのは、不倫はなぜいけないのか? を問う「仮想浮気サービス」を読んだときだった。
問いはこんな感じ。
結婚して4、5年経つA。多くの夫婦がそうであるように、妻との関係に倦怠感を抱いており、セックスレス。ただ、妻と別れるつもりはない。なぜなら、セックスレスなだけで彼女を愛しているし、子育てや家事、自分に対する気持ちなどはまったくもって申し分ない。
ただただ、肉体関係がないだけの状態。となると、Aは性欲を満たそうと浮気をすることに。だけども、隠れて愛人を作るなどは自分の気持ち的によろしくない。さらに、もし何かの拍子にバレてしまえば、彼女を傷つけるなどリスクが大きい。
だから、仮想浮気サービスをすることに決めた。仮想浮気サービスとは、現実そっくりのいわゆるバーチャル空間で、人間そっくりのアバターと行為をし、本物のセックスのように感じることができる。
しかし、あくまで仮想。バーチャル、サイバー空間での出来事。コンピュータが脳を刺激することで生み出されているだけだから、ほんとうの不倫ではない。
もし、ほんとうにこんなサービスがあって、自分のパートナーが使っていたら私はなんと言うのだろう……。
これは不倫? でも、糾弾するような相手は、現実にはいない。いるけど、いない。ん? これって不倫なのか? と私は悶々としてしまった。世界には一夫多妻制の国もあれば、以前何かのドラマで見たけどポリアモリーという考え方もある。
この問題、けっこうムズイ。
しかし、この問題の解説で、こんなことが書かれていた。
もし仮想の浮気に反感を持つとしたら、結局のところ、肝心なのは第三者が果たす役割ではないのかもしれない。
相手を傷つけるのは、誰かほかの人に目を " 向ける ” ことではなく、相手との関係から目を " そむける ” ことなのだ。
つまり、Aは妻との問題をどうにかしようとせず、すでに妻を性的対象として見ることを辞めている。人との浮気であれ、仮想の浮気であれ、それは目をそらす1つの手段でしかない。
それを読んで私は50回ほどブン頷いて、「確かに」を100回ぐらい連発した。
それと同時に、もしかしたら私も、「目をそらす」ことで誰かを傷つけてしまっていたかもしれないと思って怖くなった。それもAのように、私が無意識のうちに目を向けてしまったことで。自分意思で、たとえば「こっちのほうが良さそうだから」「今はこの気分だから」という気持ちで選んだ裏には、何かから目をそらした、という事実が隠れているのかもしれないと思ってゾッとした。
そのとき、かつて読んだ本の一文がリフレインした。
何かを選ぶということは、常に何かを選ばないということ。
好きな人と両想いになったということは、片想いの自分にはもう二度と戻れないということ。片想いの自分に別れを告げたということ。
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