マガジンのカバー画像

劇団 Lacrimosa 3RDEYE スピンオフ作品

15
登場人物の一人、脳を若いドナーの身体に移植したおじいさんの、東出を失ってから、スラムで暮らすまでの記録
運営しているクリエイター

記事一覧

ケース-1271364⑮

ケース-1271364⑮

江藤は閉めた後のニューススタンドの前で日当を貰っていた。
閉め作業が終わった店主が帰ってきたのだ。

「じゃ、明日からもよろしく、朝5時にここでね」

「はい」
今は何時なんだろう、スラムに来てからは時間というものがそれ程必要でなかったので
急遽時間をいわれて自分が持っていた端末が無いのを江藤は不便に感じた
休みの日に蚤の市に行って調達する事を決めた

宿に帰ると、洞が立っていた

「もう仕事決め

もっとみる
ケース-1271364⑭

ケース-1271364⑭

KAは車を走らせて、行きで見せた様な人間しぐさをせず6時間ぶっ通しで
大阪から東京をミッション車で貫く。

途中で綿倉から電話がかかってくる

「首尾はどうだね?」
「随分と目をかけてくださいますね」
「そうかなぁ?」
「本来であればコマンド課からしかリミット内はかかって来ませんから」
「越権だとでも言うかね」
「そうは言いません、本来であれば、という話です」
「それで、何か出たかね」
綿倉の機嫌

もっとみる
ケース-1271364⑬

ケース-1271364⑬

次の日の朝8時、KAの携帯に電話がかかる

「東出君!総監の綿倉だが、資料送ったが見てくれたか?」
「いえ、デスクでしか確認しません」
「タイムリミットは出来るだけ伸ばしたが、君がぐっすり眠る為じゃないんだよ…この件はアーカイブ課に加筆して提出しておいたから、出勤して確認をしなさい」
「かしこまりました」

ブツッと切断音が聞こえた。
KAは東出との捜査で得た東出の音声記録に照らし合わせながら

もっとみる
ケース-1271364⑫

ケース-1271364⑫

KAは警視庁、警視総監室に居た。

綿倉警視総監、江藤元警視総監が失踪後、すぐに内閣総理大臣より任命を受けそのポストについた。
太い眉毛と、鉤鼻、黒縁の大きなメガネが特徴の厳粛な男だった。

綿倉はため息をつきながら資料を読んでいたがキリが良いところで
メガネ越しにKAをまじまじとみつめた

「東出、きみはえらく功績を上げてる様だね、資料、目を通したよ」

「ありがとうございます」

「それで、だ

もっとみる
ケース-1271364⑪

ケース-1271364⑪

江藤は飲み過ぎた。
案外座っていると気づかないモノで
立ち上がった途端重力を多方面から感じた
それのバランスを取る為にフラつくという様なメカニズムになっていた

「ありがと、うん」店主に介抱されながら店の外に出る

とりあえずこのアーケードは迷惑なのでアーケードの出口入り口、どちらでも良いから抜けきって
その付近の壁の辺りで一旦腰を下ろそう

やっていない露店や、道に置いてある荷車に身体をひっかけ

もっとみる
ケース-1271364⑩

ケース-1271364⑩

助松埠頭へ向かう道、2106年
かなりツタの張っている建造物はかつて高速道路として使われていたらしい、それに覆い被さる様にして二倍は大きく広い超高速道路がある

その下を這う下道を市崎の車で走る

助手席には洞、運転席に市崎、後部座席には江藤が座っている。

「かなり真っ直ぐな道ですね」

「せや、さっき通った堺っちゅう所はかなり監視がキツいから一方通行グネグネ行くしかなかったけど
もうさっきの所

もっとみる
ケース-1271364⑨

ケース-1271364⑨

江藤は目を覚ました。

真っ暗な部屋、布団がどこか湿度を含んでいて重たい。
今が何時なのかもわからないがよく寝た。

部屋の密閉度合いにも慣れた、静かで良い所だ。
光が何も入らないので、部屋の電気をつけ服を着替え
何時間ぐらい寝たのか外を確認しようとドアノブを引いて開けた

昼頃だろうか
受付の入り口真ん前の部屋なので受付を確認したが
おかみさんはいない

妙に静かだと気付く。
人気が無い、電気も

もっとみる
ケース-1271364⑧

ケース-1271364⑧

しばらく市崎の"どうして身体を鍛えようと思ったのか"という
自己啓発本の様な内容の話を聞きながら過ごしていた。

洞が詰所に帰ってくる。

「おー、オッサン、出かけよや」

「用は済んだんでしょうか?」

「ん?おう」

出て行って20分もしないうちに帰ってきたのに江藤は驚いた。

「市は家帰るやろ」
「はい、そろそろ」

家が別にあるということを予想してなかったわけではないが
帰るのか、と江藤は

もっとみる
ケース-1271364⑦

ケース-1271364⑦

江藤の見る夢はいつも特定の場所から始まる

それは何処かの通路であったり
縁側であったり
オフィスであったり

自分が認識している記憶上の原風景とは少し違った
ドアの配置であったり
照明であったりした。

時間は朝日や夕陽がさしていたり
昼間だったり
よるだったり
まばらである。

場所のみが固定されていた。

そして眠りながらも自分で
夢であると薄く認知しているのだ。

「また夢だなこれは」

もっとみる

ケース-1271364⑥

賑やかな街の行き交う人々。
来てから3時間は経ったろうか
江藤は洞(ウロ)に連れられて町のかすうどん屋に来ていた

「このスラム来てこの店寄らへんっちゅうのは、情報知らんか、誰にも歓迎されてへんかのどっちか」
言うやいなやうどんを啜る洞。

朝からカスうどんか…と元の身体の記憶上、胃がもたれてしまうことを杞憂している江藤はうどんを見ながら茫然としていた。

油カスがデカい。
刻んだモノが乗ってる様

もっとみる
ケース-1271364⑤

ケース-1271364⑤

駐車場から出て、スタスタと亜城が歩く
道は荒れ果て、ほとんどが砂利だ。一部アスファルトが残っている所もあるが道も建物も土気色だった。

廃線になった線路やツタが絡みついているアーケードのトタン屋根など、どれも制御され、監視されてる区域とは違う。
まるで異国に来た様で、江藤は嫌でも視線があらゆる所に引っ張られていた。

亜城を見失わない様にだけ急ぎ足でついていきながらも周りの視線も痛い。

杖をつい

もっとみる

ケース-1271364④


全国指名手配から三日目の明朝2時
東洋電人の空輸ドローンは大阪の空域に入った

「着陸で骨を折るヤツもいる」と亜城

目についた動かなさそうなものにしがみつく江藤

ドローンの高度調整、傾き補正、の、不規則なプロペラ音が聞こえ
横風に流されながらも音が小さくなっていき
土っぽいところに着陸した。

浮遊感と衝撃音、
身体は打ったが、思った程痛くは無かった。

亜城は自分の左太ももを拳の内側で叩き

もっとみる

ケース-1271364③

全国指名手配から二日目の深夜
江藤は謎の追跡者である亜城と共に、"スラム"へと向かっていたのだった。

息を切らせながら監視カメラやドローンのいない道をいく江藤。

「まさかとは思うんだがね」

「なんだ」歩みを止めない亜城

「歩いて大阪まで行くつもりじゃないだろうね」

警視庁がある東京からは大阪まではかなりの距離である。

亜城は立ち止まって振り返り、息の切れている江藤を足元から眺めた。

もっとみる

ケース-1271364②

指名手配から二日目の夕方、KAが業務から帰ってくる
メモ書きに書いたリクエストの品を江藤の前に並べる

「ID認証無しの携帯、プリペイドです。
若者の着そうな格好の上下、センスはないので今日目の前を通った人を参考にしました
ミセスマフィンのパイナップルマフィンとブラックコーヒー
それと強心剤、ビタミン剤、包帯
抗生物質
紙幣と硬貨

以上です」

「ありがとう」

「メモに武器が書いて無かったので

もっとみる