お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子
声を出すって気持ちいい
毎週デイサービスを訪問していると、声の出にくいお年よりがいらっしゃいます。声は元気のもと。朗らかな笑い声や話し声を少しでも取り戻せたら、と思います。でも訓練で声を出すのは、気が滅入ります。声を出すって気持ちいい、と思える方法があると、いいですよね。
『あーと いってよ あー』を、持っていった日のことです。大きな声で、あーと言ったり、上を向いて、あーと言ったり、思いきり音をのばしたり、弾ませたり、絵本の主人公のすることを、皆でまねてみました。
すると、「子どもの頃、こうやって手を口に当てて、『あわわわ』ってやったわ」とか、「久しぶりに声を出した」と、皆さん、とても楽しそう。思いきり大きな声を出し、自分でもびっくりしている人もいます。私も負けじと「あー」と、声を出しました。
「吐く息が弱いから、ストローを吹くように、と医者に言われてるけど、ただ吹くのはねえ……」と話しはじめた、Aさん。「何か吹き飛ばしたいものありませんか。たとえば、豆とか、箸とか身近にあるもので。遠くまで飛ばせた日には、点数をつけるのもいいかも」と話をすると、「それは面白そう、早速やってみます」と、にっこり。
「あ」つながりでこんな絵本も
「こんなにいろいろな〈あ〉の音が出たんですから、〈あ〉で始まる言葉を考えてみましょうか」と提案すると、出てくるものですね。
あんこ あんどん アヒル 赤ちゃん 鮎(あゆ) あめ玉 あんぱん アフリカ あめんぼ あんぽ柿 青森 あぐら などなど、どなたも一生懸命考えています。
「たくさん出ましたね。〈あ〉のつく言葉ではじまるお話もありますよ」と、『あいうえおうさま』の、〈あ〉の個所と、他にいくつか読みました。
~あいうえおうさま あさの あいさつ あくびを あんぐり ああ おはよう~ どこか子どもじみた王様の様子に、皆さんのおかしがること。
参加するともっと楽しい!
次は、『かぞえうたのほん』です。この絵本には、6つの数え歌が入っていますが、その中のひとつ「へんなひとかぞえうた」は、保育園の子どもたちにも大人気でした。
~いちくん いちごの たねだけたべた にーくん にぼしの かばやきたべた さんくん さといも すなふってたべた~と、10までの数え歌が続きます。ナンセンスな歌詞に、初めはけげんな顔をしていた皆さんですが、じきにくすくす笑いが起こります。
二度続けて読んだ後、私と参加者とで、掛け合いをしました。
「はじめは、みなさんが『いっちゃん』って、言ってください、私が『いちごのたねだけ…』と、あとを続けますから。そのあとは、逆ですよ」。
覚えきれない個所もありましたが、助け合っての掛け合いは、なんとも愉快! 絵本は聞くだけでなく、参加するともっと楽しい!、そう思わせてくれた絵本たちでした。やっぱり、声を出すのは気持ちいいものです。
著者プロフィール
中村柾子(なかむら・まさこ)
1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。
10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。
著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。
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