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甲府の小規模な会社さんから「本当に人を活かすこと」を聞き震えた話②(株式会社アンサーノックス)

中小企業から学ぶウェルビーイングとダイバーシティ経営・続き

前回の記事では、山梨県甲府市にある人材派遣会社「株式会社アンサーノックス」代表取締役 渡辺郁(わたなべ・かおり)さんの逆風から始まった起業ストーリーと、「CANよりWILL」を大事にして人材雇用の間口、可能性を広げる気づき、頼ってくれる人すべてに応える思いについて書きました。今回は、具体的な施策についてご紹介します。

今回の内容と連動した動画はこちらです。


気持ち良く働いてもらうためになんでもやる

渡辺さんは、社員、スタッフの方々に気持ち良く働いてもらうためには何でもするよ、と常々公言していて、私(おおばやし)自身もよく逸話を聞いています。

例えば、すごく優秀な事務スキルを持った人に働いてもらいたい場合。その方は整体師としてデビューし始めたばかりで、ご自身のサロンもなく固定のお客様もあまりいない状態でした。

渡辺さんは「じゃあ、整体師の依頼が入ったらうちの応接室でやってもらえばいいじゃない!」と、その方にWワークを提案されました。事務要員として働きつつ、自身のお客様にも同じ場所で対応する。個人事業を始める人にとっては収入の不安や顧客離れを解消できる策でもあります。ちなみにその方は現在整体師として独立されているようです。情熱的にアプローチするけれど、気持ち良く送り出すこともされているのですね。

スリランカ人のマネージャーさんはとても優秀な方で、イギリスやドイツの大学院で学びながらアンサーノックスさんで働いています。実母はスリランカに、配偶者はドイツにいらっしゃるのですが、サポートが必要だったりするとき、または家族なのだからという理由で「行っておいで」と送り出し、一度に1.5-2か月をかけて滞在してもらっているそうです。

もちろんリモートで働いてもらうことにはなるのですが、慌ただしく行き来するのではなく腰を据えた渡航をOKにすることは、働く側にとってとても心の健康にも良いように思えます。

その他、「電卓が世に出たときのことを知っている」という超ベテランな経理スタッフなど、年令的にも多様な方々を雇用されています。「新しいものへはものすごく拒絶感があるけれど、仲間のために献身的に尽くしてくれる」方々なのだそうです。年令で雇用枠を判断されるのではなく、「どうありたいか、どう働きたいか」のWILLがある人をメンバーに加えるという軸がぶれていません。

2024年時点での年令です(75才/85才/76才/73才)

その他、労働時間が申告制でお休みにもとても柔軟だったり、トイレが広くて誰にとっても使いやすかったり、身だしなみを整えるために洗面所の鏡がとても大きかったり、ドライヤーやアメニティが完備してあったり、時に「焼きたてのパンを食べたい」という社員の方のために会社でパンを焼いて提供できるようにするなど、本当にクリエイティブに、”ドアを叩いてくれた人すべてに応えたい” に内部でも外部でも向き合っていらっしゃいます。


5つのバリューと10のアクション

そんなアンサーノックスさんには、5つのバリューと10のアクションが設定されています。

5つのバリュー
  1. 人の役に立とうとする

  2. 人に関心を持つ

  3. どんなことでも面白がる

  4. 全力を尽くす

  5. 今の自分を好きになる

まずこれらの5つの思い、動機があって、行動に現れるものとして以下の10のアクションがあります。

アンサーノックスがメンバーに求める10のアクション
  1. 多様化へとシフトする社会に順応できる柔軟な感覚を持つ

  2. 新しいチャレンジや企画を考え、生み出し、実現する

  3. 与えられる業務ではなく、自ら創り出す仕事をする

  4. 最低でも5ヵ国語であいさつが出来るようにする

  5. 人の為、社会の為、そして自分の為に仕事をする

  6. 空気が読めるだけじゃなく明るい空気を作り出す

  7. 困難をチャレンジに、失敗をチャンスに切り替えるスイッチを持つ

  8. 相手の立場や状況、気持ちになり物事を考えられる想像力を持つ

  9. どんな小さいことにもサプライズを意識する

  10. 美味しいものや楽しい遊びに興味を持つ


まず目を引くのは、バリューの中の「今の自分を好きになる」という一文です。成長しましょう、努力しましょう、の前に、まず今の自分を好きになるということに、ドアを叩いてくれた人に対する心からの受容を感じます。

同時に、「主体的に考え、動き、実現する、創り出す」という厳しさもあります。メンバーに求めるもののレベルは非常に高く、自分が自分であることを意識し、高めつつ、社会や誰かや自分のために仕事をしてほしいという願いが現れています。「うちの会社はいつなくなるかわからないし、どこに行っても通用するような人間に育ってほしい」と渡辺さんは話していました。

これらを守って行動できるならば、どこに行っても欲しがられる人材になるであろうし、何より人生そのものが楽しくなるだろうという、血の通ったバリューとアクションで、見ているだけで胸が熱くなります。私もこういう人間になりたい。

新ダイバーシティ経営企業100選(2019)選出

アンサーノックスさんは、2019年の経産省「新ダイバーシティ経営企業100選」に応募し、選出されています。(アンサーノックスHP)(公式サイト

新ダイバーシティ経営企業100選の選出理由、外国人やシニアの雇用、10のアクション、地域社会貢献など

通常、企業では3年ほどかけ施策を立てて受賞を目指しますが、アンサーノックスさんは、「受けてみたら?」とアドバイスされてから約2週間で書類の準備をして、そのまま受賞となりました。ふだんの行動がそのまま成績表になるという、本当に「人を活かす」ダイバーシティを体現されている証だと感じます。

100選の表彰会場では、女性社長はとても珍しく、しかもスリランカ出身のマネージャーさんを伴っていたので、着物で行ってやろう!と意気込んで行ったお話やその後の逸話が面白いので、よければ動画のほうで聞いてみてください。
youtube動画内20:23頃

着物の女性が渡辺さん(新ダイバーシティ経営企業100選2019 授賞式にて)


これから

渡辺さんの夢は「世界平和」であると、初めてお会いした6年以上も前からずっとおっしゃっています。山梨県甲府市という場所でその夢を掲げながら、外国人をメインとした派遣会社を営み、「頼ってくれる人すべてに応える」と決めて、目の前の人々のため、日々できることを着実に積み重ねているのが渡辺さんであり、アンサーノックスさんです。

私のとても好きな言葉に「Think globally, Act locally.」(地球規模で考え、地域レベルで動く)というものがあるのですが、まさにそれを体現してくださっています。ダイバーシティ&インクルージョンという、ただ「人それぞれの個を活かして共生・共創していこう」という素敵な概念が曲解されてしまいがちな今、それを推進しようとしている人々に勇気を与えてくれる存在である、と確信しています。私も、動画を見直し記事を書いて、再び勇気をいただけました。

アンサーノックスさん、渡辺さん、本当にありがとうございました。


おおばやしあや(WBCラボ)


追伸

トップ画像は、コロナ禍で南米に帰れなくなったアーティストの方を渡辺さんとアンサーノックスさんが支援し、お礼として甲府市に残されたアート作品の写真です。

コロナ禍で渡辺さんのサポートを受け、甲府に1年半滞在したアーティストさんたち
パンデミック中に日本に足止めされた南米出身アーティスト3人が名声と姉妹愛を見つける 山梨県甲府市(2021年1月4日 Japan Times)

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