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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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「新撰組」「水戸黄門」「次郎長三国志」 東映時代劇春の3本立て:変化球気味。

春日太一の「あかんやつら」 手にとられた方も多いだろう。 東映京都撮影所の隆盛から落日までを、入念な取材・考察の元に描いた一大ノンフィクション。 もちろん、本書の中で称賛されている作品だけ見るのでは、もったいない! 「あかんやつら」で触れられていない、またはボロクソにこき下ろされているマイナーな作品、さまざま、ピックアップして今後、紹介してみようと思う。 まずは「新撰組」「水戸黄門」「次郎長三国志」という贅沢な定番 三本だてから。 銀ちゃん、修羅に飛び込む。 「新撰組血

邦画「南極料理人」_全てが凍りつく世界で、もの食う人々。

おうちじかんにふさわしい「食」の映画を紹介しよう。 閉ざされた銀世界の中でもの食う日本人たちのものがたりだ。 冬の南極。そこは見渡すかぎりのすべてが氷河時代の形容のみ、空は氷の瀑布、吹きよせる漂雪に覆われ、地面は、見るかぎり白一色に結晶し、白金プラチナよりも堅く厳めしい大氷原がどこまでも続いている。いちめん真白の銀世界。 色彩といえば、ドームふじ基地の外装か、南極観測隊員たちの防寒着ぐらいなものだ。 そんな「南極の様に見える風景」を求めて、本作は真冬の北海道で大胆にもロケ

直進行軍、硫黄島、藤岡弘、しっちゃかめっちゃかなグループ・サウンズ映画3本立て。

ビートルズの影響を多大に受けた戦後生まれ世代の最初の音楽的挑戦、 若者のみによって支えられた日本発の音楽ムーブメント、それがグループサウンズ。 明朗すぎて、深みがなく、かといって洗練されている訳でもない歌詞。 インスパイア元のビートルズに比べて、遥かにスローでダルダルのメロディー。 数多くのヒットを生んだグループサウンズの曲も、今や記憶に残るのは、ほんのひとかけらだろう。島谷ひろみの(カバーした)「亜麻色の髪の乙女」など。 なお、 ヒット曲を手がけた作家には、 作詞家では橋

新藤兼人が描いた記憶「さくら隊散る」_まだ40年しか経っていなかった。

忘れてはならぬ鎮魂の記憶。 現在公開中の大林宣彦の最新作にして遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は「さくら隊」を題材に取り上げた。 「さくら隊」とは何ぞや? 昭和十八年の大映映画「無法松の一生」でヒロインに抜擢され、大戦下の暗い時代、凛として優雅な姿で日本人をうならせた女優・園井恵子。 彼女は、苦楽座の移動劇団、俳優丸山定夫のひきいる「桜隊」の一員として、昭和二十年六月末に広島に来て、そこを中心に中国山陰各地を巡演する。 爆弾が落ちることを知らなかった、彼らの1945

北野武監督「龍三と七人の子分」_昔取った杵柄。 結果は、いかに。

「オフィス北野」離脱以来「晩節が…」の感が多少出てきた ビートたけし。 昨年末紅白の「浅草キッド」であれだけお茶の間を泣かせてくれたんだから、 頼む、「アウトレイジ」の次作を花咲かせてくれ! 今回紹介するのは、北野武が血生臭い「アウトレイジ  ビヨンド」と「アウトレイジ  最終章」の間に撮った、コミカルな映画。 完全に、彼のわがままで遊んでいる作品だ。 ※あらすじ・キャスト・スタッフはこちら。 「昔取った杵柄」 ということで、かつて地獄の顔で鳴らした七人が勢揃いする。

熊井啓「地の群れ」_差別、怨念、憎悪。マリアも崩れる日本の映画。

この邦画は、政治の季節の産物だ。 60年代末の日本に潜んでいた、あらゆる差別を告発する。と同時に「差別が憎しみあいを生み出す」構図も告発する。スパイク・リーや同様の烈しさで。 非常にラディカルな複数の題材をテーマに扱っているため、できるだけオブラートに包んで紹介する…そう、および腰にならざるを得ないほど、非常にポリティカルで、痛い映画だ。 だけど、書く。 過去に朝鮮人の少女を妊娠させながら逃げた男、宇南は医者として佐世保で診療所を開いている。その患者に原爆病と思われる少女

市川雷蔵「ある殺し屋」_四畳半住まいの、無口な、殺し屋。

殺し屋の物語にどうして人は惹かれるのだろうか。それは、彼らが非現実の世界にいき、「人が人を殺してはいけない」というしごく当たり前の倫理を易々と超越した場所で、遊ぶからだろう。 では、こんな殺し屋はいかがだろう。 ニヒルで無口で自分に厳しい殺し屋。 普段は料理屋を経営し、裏家業は針一本で獲物を仕留める凄腕の殺し屋。 小料理屋の主人・塩沢は高額な金で殺人を請け負う殺しのプロという裏の顔を持っていた。暴力団の幹部・木村の依頼で、敵対する組織のボス・大和田を見事に仕留めた塩沢に、

和製ミュージカル「君も出世ができる」_昭和ひとけた社員のダンス・ウィズ・ミー。

あちゃちゃ…な結果に終わってしまった久々の本格的和製ミュージカル映画「ダンス・ウィズ・ミー」。とことん楽天的な、矢口監督の持ち味が出てて、個人的には好きなんだけどね。 さて、「人が歌って、踊る」邦画の歴史は古い。戦前からすでに「鴛鴦歌合戦」や「狸御殿もの」はじめ、歌芝居やオペレッタとしては数多く存在したし、戦後は美空ひばり、加山雄三、坂本九らが、持ち歌を武器に映画スターとしても活躍した。 そして、いまから半世紀前、本格的なミュージカル映画が登場するに至る。 東宝劇場における

1953年銀獅子賞受賞作「嘆きのテレーズ」…最高だよ、ママン。

この映画は、(二次元の)人妻好きの日本男児に、オススメしたい。 味吉良子、早瀬絹枝、春麗、ブルマ、ホリィさん、雪代巴、うちはサクラ(BORUTO時代)etc. 病弱でマザコンの夫カミーユと、 息子を溺愛している姑のラカン夫人と暮らしているテレーズ(演:シモーヌ・シニョレ)。 ある日、リヨン駅で貨物点検の仕事をしていたカミーユが、イタリア人のトラック運転手ローランと 知り合い、意気投合。酒に酔い潰れ、ローマンに抱えられて帰宅した。 ラカン家では、毎週決まって木曜日に、友人を

ルームシェアは危険でいっぱい。キャリーとシャイニングの悪魔合体、「3人の女」。

ルームシェア。 いっしょに暮らして、いっしょにご飯を食べて、いっしょに日を暮らす。 心通じた親友か、見知らぬ誰かか、どちらを選ぶとしても、心ときめくものがある。 (偶には恋に発展することもあるだろう。同性または異性で。) だが、たった一つのことを忘れると、それは修羅場となる。 同居人を事前にキッチリ審査することだ。軽々しく引き入れてはイケナイ。 人によって価値観もライフスタイルも異なるのは当たり前。 この「違い」を許容できないと、後で痛い目を見るというのが、ルームシェアの怖

映画「呪いの館 血をすう眼」_今なお色褪せない、岸田森の和製吸血鬼。

現在、Amazon Prime ビデオにてプライム会員特典としてお蔵出しされている東宝特撮作品群。「ゴジラ」シリーズはもちろんのこと、「ゴラス」「海底軍艦」「ガス人間第一号」といった佳作もあって、嬉しいところ。 ラインナップの中でも異彩を放つのが、「血を吸う眼」シリーズ三部作だろう。 ゾンビ映画もオカルト映画も草創期、日本ではまだブームすら起こっておらず、本邦において恐怖映画といえば怪談ものorモンスターが驚かすものと、ある種牧歌的な時代だった70年代初頭、当時イギリス発で

黒沢清のフィルム・ノワール「カリスマ」_役所広司、壊れる。

1999年に撮影、2000年2月26日に公開された本作に描かれたもの、それは20年後の今日にも通じる、反駁が生み出す時代の閉塞感、それに対して繊細な人間だけが抱くことのできる虚無感 であった。 監督 黒沢清 キャスト 役所広司 池内博之 大杉漣 洞口依子 松重豊 大鷹明良 目黒幸子 戸田昌宏 稲村貢一 田中要次 吉田淳 永田正明 川屋せっちん 三浦景虎 ジーコ内山 宮下周邦 大迫茂生 山崎豆造 塩野谷正幸 風吹ジュン 脚本 黒沢清 音楽 ゲイリー芦屋 その他スタッフ 撮影/

時代劇映画「薄桜記」_愛に命を賭けたあいつと、忠義に命を賭ける俺と。

昨日に続いて、男同士の友愛をテーマにした映画を紹介する。 1959年公開、五味康祐原作、市川雷蔵と勝新太郎ダブル主役の時代劇映画 「薄桜記」だ。 まずは、序盤のあらすじを紹介する。 浪人の中山安兵衛は叔父の助勢に高田馬場へ駆けつける途中、旗本の丹下典膳と知り合い、彼の助言によって決闘の相手を打ち倒した。典膳は同門の知心流の加勢をしなかったことを非難されて道場を破門になり、安兵衛もまた堀内流を破門された。ともに上杉家江戸家老の名代の妹・千春へ思いを寄せる二人は偶然に翻弄され

1987年金獅子賞受賞作「さよなら子供たち」_忘れられない、心の疵。

ひと昔前のフランス映画を彩った監督たちの心には、 ナチス占領時代の闇が、深く影を落としている。 長じて、彼らはその闇をフィルムに焼き付けた。 「禁じられた遊び」のルネ・クレマン。 「海の沈黙」「影の軍隊」のジャン・ピエール・メルヴィル。 ヌーヴェルヴァーグ騎手のひとり、ルイ・マルもその一人だ。 ヌーヴェルヴァーグに勢いがあった60年代は、 「死刑台のエレベーター」(58年)「地下鉄のザジ」(60年)など、流麗な映像美に乗せたスピード感あるサスペンスやラブストーリーを連打した