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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2020年9月の記事一覧

ルームシェアは危険でいっぱい。キャリーとシャイニングの悪魔合体、「3人の女」。

ルームシェア。 いっしょに暮らして、いっしょにご飯を食べて、いっしょに日を暮らす。 心通じた親友か、見知らぬ誰かか、どちらを選ぶとしても、心ときめくものがある。 (偶には恋に発展することもあるだろう。同性または異性で。) だが、たった一つのことを忘れると、それは修羅場となる。 同居人を事前にキッチリ審査することだ。軽々しく引き入れてはイケナイ。 人によって価値観もライフスタイルも異なるのは当たり前。 この「違い」を許容できないと、後で痛い目を見るというのが、ルームシェアの怖

映画「呪いの館 血をすう眼」_今なお色褪せない、岸田森の和製吸血鬼。

現在、Amazon Prime ビデオにてプライム会員特典としてお蔵出しされている東宝特撮作品群。「ゴジラ」シリーズはもちろんのこと、「ゴラス」「海底軍艦」「ガス人間第一号」といった佳作もあって、嬉しいところ。 ラインナップの中でも異彩を放つのが、「血を吸う眼」シリーズ三部作だろう。 ゾンビ映画もオカルト映画も草創期、日本ではまだブームすら起こっておらず、本邦において恐怖映画といえば怪談ものorモンスターが驚かすものと、ある種牧歌的な時代だった70年代初頭、当時イギリス発で

黒沢清のフィルム・ノワール「カリスマ」_役所広司、壊れる。

1999年に撮影、2000年2月26日に公開された本作に描かれたもの、それは20年後の今日にも通じる、反駁が生み出す時代の閉塞感、それに対して繊細な人間だけが抱くことのできる虚無感 であった。 監督 黒沢清 キャスト 役所広司 池内博之 大杉漣 洞口依子 松重豊 大鷹明良 目黒幸子 戸田昌宏 稲村貢一 田中要次 吉田淳 永田正明 川屋せっちん 三浦景虎 ジーコ内山 宮下周邦 大迫茂生 山崎豆造 塩野谷正幸 風吹ジュン 脚本 黒沢清 音楽 ゲイリー芦屋 その他スタッフ 撮影/

時代劇映画「薄桜記」_愛に命を賭けたあいつと、忠義に命を賭ける俺と。

昨日に続いて、男同士の友愛をテーマにした映画を紹介する。 1959年公開、五味康祐原作、市川雷蔵と勝新太郎ダブル主役の時代劇映画 「薄桜記」だ。 まずは、序盤のあらすじを紹介する。 浪人の中山安兵衛は叔父の助勢に高田馬場へ駆けつける途中、旗本の丹下典膳と知り合い、彼の助言によって決闘の相手を打ち倒した。典膳は同門の知心流の加勢をしなかったことを非難されて道場を破門になり、安兵衛もまた堀内流を破門された。ともに上杉家江戸家老の名代の妹・千春へ思いを寄せる二人は偶然に翻弄され

1988年金獅子賞受賞作「聖なる酔っぱらいの伝説」_パリのショート・ショート。

パリ・セーヌ川の橋の下でホームレスとして暮らすアンドレアスはある日、不思議な紳士と出会い、彼から200フランの金を与えられる。…ただし、日曜日の朝に聖テレーズ像のある教会でミサの後に金を返すという条件が付いていた。 上に挙げるトレイラーが、そのやり取りの部分にあるのだが、ベレー帽を被った方、アンドレアスに注目してほしい。 強い意志や憎悪といったものとは無縁な、人生の困難にこれまで真向からぶつかったことのない、偶然に身を任せてこれまで生きてきた 顔をしている。 それは「無欲

1987年金獅子賞受賞作「さよなら子供たち」_忘れられない、心の疵。

ひと昔前のフランス映画を彩った監督たちの心には、 ナチス占領時代の闇が、深く影を落としている。 長じて、彼らはその闇をフィルムに焼き付けた。 「禁じられた遊び」のルネ・クレマン。 「海の沈黙」「影の軍隊」のジャン・ピエール・メルヴィル。 ヌーヴェルヴァーグ騎手のひとり、ルイ・マルもその一人だ。 ヌーヴェルヴァーグに勢いがあった60年代は、 「死刑台のエレベーター」(58年)「地下鉄のザジ」(60年)など、流麗な映像美に乗せたスピード感あるサスペンスやラブストーリーを連打した

1989年銀獅子賞受賞作「千利休 本覚坊異聞」。 宴のあと、鎮魂のものがたり。

快挙だ。 日本の監督がベネチア国際映画祭で監督賞を受賞するのは2003年に北野武監督が映画「座頭市」で受賞して以来、17年ぶりとなります。 その14年前に銀獅子賞を獲得した作品があることは、今ではやや忘れられている感がある。熊井啓監督「千利休 本覺坊遺文」だ。 ジャパン・アズ・ナンバーワンだった80年台末、金は腐るほどあった、日本企業はメセナに精を出していた:「贅を尽くした」映画を作る環境にあった。 だから1989年、利休没後400年を記念して、ふたつの「利休」映画がほ

米国・サイレント映画の傑作「第七天国」「ベン・ハー」。淀川長治の名調子とご一緒に。

今回は、アメリカ・サイレント映画の傑作を、二本立てでお送りしよう。 生き字引、淀川長治の熱い語りと、ご一緒に。 この愛の物語。 1927年公開「第七天国」 第一次世界大戦 前夜のパリが舞台。安アパルトマンの屋根裏部屋に住むチコの人生の目的は、下水道掃除者から道路清掃者になること。今より少しでも良い生活をする、ということだった。偶然にも彼は鬼姉に鞭で虐げられた娘、ディアーヌを匿うことになる。憂きが中にも楽しい日々を送るふたり。 しかし、第一次世界大戦が勃発して、チコは徴集され

名前からしてカッコいい男、誰もが憧れた伊達男_ジャン・ギャバン 主演作5本だて。

戦前戦後に、フランスの名優ジャン・ギャバンは、日本人の恋人 だった。 名前からして、威厳と貫禄を感じさせる男だ。 彼が演じ続けたのは一般市民ではない、根っからのアウトローばかりだった。 悪事を働いて、アパルトマンの屋根裏部屋に逃げ込むイメージ。以後、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード に引き継がれる系譜。 きりっとしているわけでもないのに、ちょっと脱力感のある役でもかっこいい。ノスタルジックな味もある、ニューマンやレッドフォード同様にスタイリッシュな役者。 今回

青春を過ぎても…クレージーキャッツが駆け抜けた昭和という時代 その②

昨日の記事の続きです。 70年代:クレージーキャッツはゆるやかに活動を休止する。 メンバーそれぞれ、テレビドラマや映画の脇役として忙しく過ごしていた。 植木等はバラエティから一歩身を置いて、役者としての活動を本格化。ハナ肇は「かくし芸大会」で校長の銅像を演じつつ、しかし役者として活動。他の4名もミュージカルの舞台を踏んだり、料理人になったり、コメディ以外の方向へ。 唯一、谷啓だけはマイ・ウェイを行く。コメディアンとしての活躍をあくまで続けた。70年代、邦画斜陽期においても尚

無責任時代だけじゃない!クレージーキャッツが駆け抜けた昭和という時代 その①

あなたは、ACジャパンのCM「ライバルは、1964年」を覚えているだろうか。 2017年のNHKテレビドラマ「植木等とのぼせもん」を覚えているだろうか。 植木等、ハナ肇、谷啓ら、高度経済成長期の象徴となったクレージーキャッツ。 ライトファンは「ニッポン無責任時代」だけ観て、それで「ああ、よかった」で終わるのではないだろうか。 それで終わるのは:もったいない! 今回は所謂「クレージーキャッツが主演している」映画の中から、ぴりりと山椒が効いているエネルギッシュな作品、ことに前

パンデミックまで秒読み。だから監視。セットが主役のSF映画「アンドロメダ…」。

「ウエスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」というミュージカル映画史上の1位2位を争うほどの傑作を監督したロバート・ワイズは、あらゆるジャンルに長けた才能を持っていた。 デビュー当初はホラー作家、それから西部劇、戦争映画、ボクシング、サスペンス、SFなど、ジャンルはお構いなしに何でも撮る。そして、どのジャンルでも決定的な名作を残している。 SFの代表作について、「地球の静止する日」を先日は取り上げた。 今回は、SF方面におけるもう一つの隠れた傑作「アンドロメ

いつ・どの時代にも起こる音楽性の違い。イギリス産バンド映画「ザ・コミットメンツ」。

友情は多くは見せかけであり、恋は多くの愚かさにすぎない。 とはシェイクスピアの弁。 どんなに仲の良い人間同士でも、同じ釜の飯を突きあっていれば、互いのアラばかりが目立っていき、次第に一緒に過ごすのが苦痛になり、やがては、それとなく、別れることを選ぶ。 「それとなく発展的に解散」することを称して、 いまでは「音楽性の違い」という便利な言葉が存在する。 その「音楽性の違い」というものを、みごとに、シニカルに描いたのが本作だ。 先日逝去したイギリスの映画監督、アラン・パーカーが

犬死にする男たち。東映実録「博徒外人部隊」「暴力街」「大阪電撃作戦」三本立て。

70年代東映実録路線が今なおギラついているのは、男たちが死にきれずにのたうち廻り無様な死に方を遂げるところを、堂々と遠慮せず活写したからだろう。 カッコ悪く、強くなりきれない男たちが、むごたらしく犬死にしていく。 その死に様の見事さを、今回は三人のスターについて一作品ずつ、紹介しよう。 鶴田浩二、斬り死に。 深作欣二監督「博徒外人部隊」 まずはスタンダードに、深作欣二監督作品からいこう。 血が――狼どもを呼び寄せた!海を渡った黒背広の大集団を、長期ロケで描いた現代任侠ヤ