パンデミックまで秒読み。だから監視。セットが主役のSF映画「アンドロメダ…」。
「ウエスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」というミュージカル映画史上の1位2位を争うほどの傑作を監督したロバート・ワイズは、あらゆるジャンルに長けた才能を持っていた。
デビュー当初はホラー作家、それから西部劇、戦争映画、ボクシング、サスペンス、SFなど、ジャンルはお構いなしに何でも撮る。そして、どのジャンルでも決定的な名作を残している。
SFの代表作について、「地球の静止する日」を先日は取り上げた。
今回は、SF方面におけるもう一つの隠れた傑作「アンドロメダ…」を紹介する。
ここは最前線。 パンデミック一歩手前の、研究者たちの孤独な戦いの物語だ。「地球の静止する日」の狂乱とは逆に、未知の存在と最前線で対峙し、理性で恐怖を克服しこれに立ち向かう人間の葛藤と勇敢さを描いているのが、興味深い。
アメリカ中西部の小さな町に人工衛星が墜落。機体に付着した未知のウイルスが原因で、住人は生まれたばかりの赤ん坊と、アル中の老人を除いて全滅。遺体の血液は全て粉末状に変化していた。細菌汚染の拡大を恐れた軍部は、科学者の中から各分野のスペシャリストを召集。ストーン博士をリーダーとする研究班を組織して、砂漠の地下施設へと送り込むが・・・。
スタッフ
監督・製作:ロバート・ワイズ
原作:マイケル・クライトン
脚本:ネルソン・ギディング
特撮:ダグラス・トランブル、ジェームズ・ショート
音楽:ギル・メレ
キャスト
ジェレミー・ストーン博士(アーサー・ヒル)堀勝之祐
チャールズ・ダットン博士(デイヴィッド・ウェイン)中庸助
マーク・ホール博士(ジェームズ・オルソン)小室正幸
ルース・レビット博士(ケイト・レイド)片岡富枝
ミス・カレン(ポーラ・ケリー)目黒未奈
NBCユニバーサル 公式サイトから引用
4人のドクターを召集するまでの、スピーディかつ落ち着いた序章の場面展開に続けて登場するのが、住民が全滅した街の廃墟。異様な静寂感が漂う。
研究班は、砂漠の真ん中で極秘に建てられた地下秘密研究所に送り込まれる。研究所は地上からはるか下にあって、5つの階層に分かれる。下の階層に向かうほど、厳しい滅菌処理を受けることになる。(階層ごとに色が違う遊び心。)
一歩間違えれば、アンドロメダ病原体によるパンデミックが発生するのだから当然なのだが、徹底的に、外界と隔離されることとなる。
細菌感染を防ぐため、完全にコンピューターに管理された、行き届いた空間の中に押し込められる研究班たち。その中で、なぜ2名が生存できたのか理由を探す。一進一退、じわりじわりと、厳しい緊張の中にストーリーは進んでいく。
台詞はそれなりの量がある:しかし、台詞が消えた時、静寂だけが現れる。
音楽は異様な電子音楽がときどき使われているだけだが、ワイズは音楽の使うべき場所をきちんと心得ていて、それが静かな場面に突然不気味なムードを与えている。音楽の無いところでは、コンピュータのカタカタという音など、比較的分厚い効果音が使われており、暗めの室内空間を演出するピンポイントの照明と併せて、無菌を保つべき空間の圧迫感を、見事に表現している。
もちろん、研究班たちの動向は、監視カメラで絶えず、のぞかれている。
そして、その中で周囲に対し息を殺しているかの様に振る舞う研究者たち。彼らはただ、目の前の病原体の分析に打ち込むほかない。
そう、本作、興味深いのは、パニックSFもの又は終末SFものと見せかけておいて、実は「監視」の本質を主題に置いているところだ。
空間=世界のあり方によって、人間の思考そのものが規定されてしまうこと。
研究施設のセットが、異常な緊張感を生み出している。
実際、本作について、監督自身が「主役はセットである」と隔離施設の出来に賞賛を送っているのだ。
研究班の頑張りもあって、水際で最悪の事態を防ぐことができた。
しかし、次の未知の細菌の恐怖に対しては?
2人の科学者が、互いに顔を見合わせて、映画は終わる。
無名の役者だけを起用した、いっさい妥協を許さぬストイックで硬派な作品。この週末に、ぜひ。
そして、未知との存在に対峙する人間たちの葛藤は、ワイズ監督が次に手がけたSF作品「スター・トレック」劇場版でも期せずして引き継がれている。
天体規模ほどもある巨大な雲状の「何か」が銀河系を進んでいく。エンタープライズ号がこれに接触を図る。
本作、カーク船長とスポックの熱い友情も見られる。また別の機会に語りたい。