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米国・サイレント映画の傑作「第七天国」「ベン・ハー」。淀川長治の名調子とご一緒に。
今回は、アメリカ・サイレント映画の傑作を、二本立てでお送りしよう。
生き字引、淀川長治の熱い語りと、ご一緒に。
この愛の物語。 1927年公開「第七天国」
第一次世界大戦 前夜のパリが舞台。安アパルトマンの屋根裏部屋に住むチコの人生の目的は、下水道掃除者から道路清掃者になること。今より少しでも良い生活をする、ということだった。偶然にも彼は鬼姉に鞭で虐げられた娘、ディアーヌを匿うことになる。憂きが中にも楽しい日々を送るふたり。
しかし、第一次世界大戦が勃発して、チコは徴集されて軍地へ出征していく。
安アパルトマンのどこが「第七天国」なのかは、淀川長治が語るところ。
名調子の全容、こちらをご覧あれ!
なにぶんトーキーではなくサイレントの時代、限られた台詞で如何に観るものの心をときめかせるか?
ふたりの愛はピュアだというのに、本作の言葉は妙に艶かしく、官能的だ。
例えば、チコがディアーヌを第七天国で励ますとき、君がいて僕がいると。
You mustn't be afraid. I'm never afraid. Never look down - Always look up. I always look up. That's why I'm a very remarkable fellow!
IMDB公式サイトから引用
最前線のチコと後方のディアーヌが、毎日11時、決まった時刻に、愛を確かめるため陶酔した表情で心の中で祈るとき、それはただの「愛している」ではなく、
Chico - Diane - Heaven!
そしてクライマックス、戦争が終りパリの人々が街に溢れ返す。チコが帰らないことに悲しむディアーヌ。
そこに視界を失ったチコが、人混みかき分け彼女の待つ家にたどり着き、手すりにかじりつきながら螺旋階段を登っていくシーン、彼女に向かって叫ぶ言葉は
Diane - DIANE - DIANE!!
純化された、愛の結晶だ。
本作は、1927年の米国アカデミー監督賞、主演女優賞、脚色賞を受賞。本邦での評価も高く、1927(昭和2)年度キネマ旬報ベストテン1位に輝いている。
戦車競走の物語。 1925年公開「ベン・ハー」
実は本作がオリジナルとなる、ルー・ウォーレスの小説 1回目の映画化だ。1959年のウィリアム・ワイラー監督作品は、これのリメイクなのだ。
あらすじは…ワイラー版をご存知(であろう)皆様には、説明不要だろう。
名調子の全容は、こちらをご覧あれ!
クライマックスのベン・ハーVSメッサーラのチャリオットレースの死闘、ガレー船での苦境、大海戦やパレードの華やかさ、ゴテゴテ衣装の悪女。モノクロながら、ゴージャスさ・スケール感はワイラー版に劣ることがない。
女はパレードで胸を出し、男はガレー船で尻を出す、映画草創期のために表現規制?なにそれ美味しいの?な時代のおおらかさも、また、ひとつの味だ。
重要なキャラクターはふたつ。
スティーヴン・ボイドよりも目つきがギョロリとした、(同性愛の感情なぞあるはずもなく)ローマ人の優越感だけでベン・ハーを踏みつける、フランシス・X・ブッシュマン演じるメッサーラの悪人ぶり。
ベン・ハーの運命を打っちゃって、途中でストーリーを乗っ取ってしまうキリストの超越的な存在感。
その他、アクの濃い悪女・聖女・悪人・聖人たちに囲まれて、ヘストンよりだらしない体付きのラモン・ノヴァロ演じるベン・ハーは、目立たない。
いかがだったろうか。 音がなかった時代の映画には、それなりの魅力がある。
時には、サイレント映画に目を凝らしてみては、いかがだろうか。
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